2.校長。鳩。
卒業式が終わり、新たに凛は中学一年になった。凛の中学は荒れているともっぱら噂で警察沙汰も、しばしば起きる。校舎も古びていて、なんだか建っているのがやっとという感じ。情けない学校だった。
そんな中学に新たに校長と新しい先生が赴任してきた。教師の名は村上といった。英語の教科担当。校長の入学式の訓辞は長ったらしく説教じみていたが、不思議と凛はその話を覚えてしまった。
「皆さんは何かに熱中できますか? 中学という青春を無駄にしてませんか。勉強スポーツそして恋をしなさい! 不良行為は時間の無駄遣い。警察にお世話になる生徒が多すぎる。私はこの校風をかえてみせる! タバコを吸ったり飲酒したり。そんなのは大人らしいとは言いません。中学生は中学生らしい素直さを忘れずに楽しい学校にしましょう。以上」
桜はとうに散ってしまい殺伐とした公園のベンチに凛は日曜日、奏歩を見かけた。鳩が沢山いる。
どうやら餌付けしているみたいだ。よくよく見ると鳩の羽の模様が魚の鱗みたいで気持ち悪い。鳩は不潔だし糞も撒き散らすし害鳥だ。そんな鳩を集めるなんて非常識。凛は憤った。
「餌やっちゃいけないんだよ」
凛は奏歩に近寄って咎める。
「だってお腹空かしてかわいそうだ」と奏歩。
「鳩が人間に馴れてしまうし、沢山仲間も寄ってくるでしょ」
「いいじゃん。公園なんだし。自由に羽ばたかせなよ」
「あのねえ、鳩は害鳥なんだよ。未知のウイルスとか撒かれたらどうすんのさ」
「そんなことしないよ」
「するよ」
「だって鳩、かわいいよ」
違う。人間に、クラスの女子にかまってもらえない寂しさを鳩で埋めてんだ。群がる脳ミソの小さな鳥の、人気者になって喜んでるなんて、なんて虚しい子なんだろ。もう一切関わるのやめよ。
だいたい仲間が欲しいなら、それなりに空気を読んで仲間の一人一人には愛想よくして、自分の意見だって場違いなときはグッと堪えてさ。そういうもんじゃないのかな。なのに奏歩ったら口癖は「だっさい」「かっこ悪い」「しょうもない」ときたもんだ。否定ばかりするけれど、自分から建設的な意見はださない。批判だけで自分は賢いと勘違いしていて。
挙げ句女子に相手にされないならと男子とばかり遊んでいる。そろそろ年頃でしょう、男子も迷惑がってるよ。
知らないよ。知ーらない。孤独になったって。自分の選んだ道でしょ。
パタパタパタパタ。寄ってきた鳩をかっと睨むと凛はこの光景を見なかったことにと立ち去った。
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