バトルですわ!

「はああっ!」


 レディが飛び込むように殴りかかってきますが、これくらいのスピード……領主の令嬢であるウルギリーゼの目であれば追える程度ですわ。


 わたくしは一歩身を引き、レディの渾身ストレートパンチを躱すことに成功。そして……


「食らいなさいっ! 必殺、『ウルギリーゼ・アルティメットパンチ』!」

「うーわ、すっげえダセぇ名前だけどそこそこ威力あるパンチじゃねーか! やるじゃねえか、ウルギリーゼ!」


 ギーウルからの称賛の声とともに、レディが「ぐほっ」と鈍い音を発しながら宙に舞う。


 見事わたくしのストレート……じゃなくて『ウルギリーゼ・アルティメットパンチ』がレディの顔面にめり込みましたわ! 


「くっ、なんで令嬢の癖にこんなにパワーがあるんだよ…… 聞いていないぞ……」

「まぁ、普通の令嬢はこんなにアグレッシブじゃねーよな。それは俺も思うぞ」


 頬を抑え、蹌踉よろめきながらそんなことを仰るレールスレディ。まさか、領主の令嬢が殴り返すだなんて思いもよらなかったでしょうね。


 ですが、この隙を見逃しませんわよっ!

 

「覚悟なさい! 子悪党! これでもお見舞いしてやりますわよ!」

「変なポーズ決めてねえでさっさと攻撃しろよ! 俺が言えたことじゃねえけどさぁ」


 う、うるさいですわね、分かってますわよ。でもポーズぐらいキメさせてもいいじゃないのよ。

 


 わたくしは数歩程下り、「はああっ」と気合いを入れた後助走をつけて……


「とりゃあ! 必殺、『ウルギスペシャル』!」

「ぐふっ…… こ、こんなことが……!」


 わたくしの膝が見事レディの鳩尾みぞおちに命中しましたわ! これで思い知ったかしら、ウルギリーゼの力を!


「相変わらずダセエ必殺技だな。『ウルギスペシャル』ってただの跳びひざ蹴りじゃねーか。あーでも俺は食らいたくねえなあんな技。絶対痛いだろうし……」


 ただの跳び膝蹴りじゃありませんわ! わたくしが持つ必殺技の中でもトップクラスの威力を誇る『ウルギスペシャル』ですわよ。お腹に当たったらひとたまりもありませんわ。並の人間であれば数週間は気絶しちゃう程の威力と言われておりますので。


 けれど、流石東町のセールスレディ。太々しいのが功を成したのか、なんとか耐えて膝をつく程度におさまっておりますわ。やりますわね。


「ぐっ…… ボクとしたことが…… こんなところで……」

「これでトドメですわ! お覚悟を!」


 レディが参っている今がチャンスですわ! 飛び込んでたたみかけますわよ!


 そしてわたくしは


 『ウルギリーゼ・ビューチフルハリケーン』→『フロマイティパワークラッシュ』からの『ウルギリーゼ・メテオ』のコンボでなんとか〆ましたわ。なんという完璧な流れでしょう、自分自身でも惚れ惚れしちゃいそうな流れですわね。



「はぁ、はぁ……なんていう技の多さだ。攻撃が読めない……!」

「どれもこれもワケわかんねえ必殺技だけどな。にしても、お前あれだけ食らって良く立てるな……」


 息を荒げながら立ち上がるセールスレディ。全てまともに受けていたハズですのに、なかなかタフですわね。しぶとい女は嫌われますわよ。


「ちっ、ここはひとまず撤退しかないようだね、悔しいけどさ。ここまでやられるとは想定外だったし……それに、2対1じゃ流石に分が悪いかな」

「俺何もしてねーぞ」


「大人しく、尻尾を巻いて逃げるといいですわ。けど何度かかってきたって、わたくしとギーウルのコンビは絶対に崩せませんわよ!」

「俺何もしてねーぞ」


 わたくしの言葉を理解したのか、セールスレディは黙ってギーウルを見やり……


「くっ、覚えてろ!」


 口惜しそうな顔をしたまま、わたくしに背を向け逃げ去ってしまった。


「おとといきやがれですわ!」


 いい気味ですわ〜、なんという晴れやかな気分でしょう。悪党を退治した瞬間がここまで爽快感溢れるだなんて知らなかったですわ〜。


 いいことをすると本当に気分が良いですわね。





「見たかしらギーウル、正義の勝利ですわよ!」


 勝利のピースサインをギーウルに向けると、ギーウルが驚いた顔をしながら「マジか、ウルギリーゼ。お前滅茶苦茶強いな」と褒めてくれましたわ。見直したかしら?


「いやぁ、ウルギリーゼが来てくれねえとガチで終わってたぜ。危うく仮想通貨を買わされるところだったぞ。感謝するぜ」

「お安い御用ですわ。あんな仮想通貨、買ったら破産不可避ですので、助けることができて本当に良かったですわ」


 ギーウルは両手を広げながら「全くだぜ、本当に助かった」と細く息を吐いた。

  

「──ですけど、このままじゃ悪徳セールスがまた来そうですわね」

「たまんねえな、考えたくもねえよ」


 ギーウルはふと思いついたように「あれ?」と声をあげてわたくしへ目を向けてきました。


「それにしても、なんでウルギリーゼがここにいるんだ?」

「それは…… その……」


 思わず目を逸らしてしまいましたが、ここまで来たら正直に話すしかないでしょう。

 わたくしは、追い出されてからここまでに至った経緯を正直に打ち明けました。ギーウルは別に噛み付くことなくわたくしの話を静かに聞いてくれて…… 時折頷くような仕草も見せてくれました。


「──かくかくしかじか、というわけですの」

「マジかよ、だから急に現れたのか…… まぁでも、助けてもらった恩もあるし……うーん、とりあえずここは寒いから家入ってから話でも聞くか」

 

「本当ですの!? 家に泊めてくれるのですの!? よっしゃあですわ!」

「泊めるとまではいってねーよ! ねぇけど…… そこまで困ってるなら、仕方ねえだろうし」


 

──────



 



ウルギリーゼ・アルティメットパンチ:ウルギリーゼが放つ渾身の右ストレートのこと。単純だが威力も高く、発生も早いことから攻撃時でもカウンター時でも幅広く使える汎用攻撃。そのためか、とりあえず迷ったらコレ感がウルギリーゼの中にあるようで、レディ相手に初手で繰り出した。




ウルギスペシャル:ウルギリーゼが放つ飛び膝蹴りのこと。全力で助走をつけて勢いそのまま相手に膝を食らわせる為、外れてしまうと大きな隙が生まれる諸刃の剣。けれど、その分威力が高くまともに食らってしまったらひとたまりもない大技。欠点はなんと言っても助走が必要なため発生がとても遅いこと。相手がフラフラしている隙にお見舞いするのがスタンダートなやり方で、連発するとスタミナも持っていかれる。


ウルギリーゼ・ビューチフルハリケーン:回転しながらラリアットを繰り出すいわゆるローリングラリアット。一回転するサマが『ハリケーン』のようであったためそう名付けられたようだ。回転をするため発生は遅めだが、踊るように繰り出されるラリアットはウルギリーゼ曰く『ビューチフル』とのこと。でもしゃがめば回避できる。

 


フロマイティパワークラッシュ:突進したまま相手を持ち上げて、そのまま地面に叩き落とすウルギリーゼが繰り出すつかみ技。ウルギリーゼの大好きな食べ物『コーンフロマイティ』から派生してそのように名付けられたそうだ。なんでも『コーンフロマイティから授かるパワーを拝借している』とのことだ、なんのことかよく分からない。でもつかみ技であるため、使い所が限定的であるが威力は絶大。地面に叩きつけられると息が出来なくなるほど痛い。欠点はなんといっても体重が重いデブには全く効かないこと。理由は持ち上げられないから。



ウルギリーゼ・メテオ:ウルギリーゼが放つドロップキック(跳び蹴り)のこと。助走をつけて顔面に足跡を付けるかの如く思いっきり蹴り飛ばす技。その姿が、さながら流星のようであるため『メテオ』と称された。当たれば強いが、外すと痛いので使う機会の見極めが重要。

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領主の令嬢、実の娘ではないことが発覚し追放ルートへ。育ちの悪さが祟って色々苦労するけど最後の最後は目にものみせてやりますわ! 一木 川臣 @hitotuski

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