第3話

異世界二日目の朝、昨晩行った鏡合わせの儀の影響は全くなかった。そこで裏の畑で魔法の特訓でもしようかと思い向かってみると、ペルリタさんは既に起きており、朝食の準備をしていた。


「おはようございます。ペルリタさん。朝食の準備手伝います」


「おはよう。アリシア。ならこれをお願いね」


そう言って渡されたのは昨日の夕飯の残りと固焼きしたパン、私はそれを居間まで運ぶ。残り物と言っても温めてあるので匂いがありそれが食欲をそそる。私はそっと唾を飲み込むのであった。少し遅れてペルリタさんも居間にやってきた。


「それでは食べようかね」


それ言葉を合図に朝食を食べ始める。黙々と食べ進める私を見て、うれしそうな顔をしているペルリタさん。そんな祖母と孫の食事風景がそこにはあった。食べ終わるとペルリタさんから今日の指示が出る。


「今日は裏庭の畑から薬草と雑草の仕分けをしようかねぇ。私が薬草の特徴なんかを教えながら仕事するからちゃんと覚えておくんだよ」


私は返事をしてやる気をアピールする。そうして二人で笑いあうのであった。食器を洗い終わり裏の畑へ向かうと既にペルリタさんは準備を終えていた。私は駆け足でペルリタさんの元へ行く。


「早かったねぇ。そんなに焦らなくてもよかったのに。それじゃあ始めようかねぇ」


そう言うと、ペルリタさんは畑へ向かっていく。私はペルリタさんについていくとそこに植えられていたのは大量のアロエとヨモギであった。ファンタジー植物でポーションなどを作っていると思っていた私は少しガッカリしたがこれならばお手伝いができると思い張り切る。


「こっちの花が咲いているのがヨモギ、そっちのギザギザで草に見えないのがアロエだよ。どちらも傷薬の材料になるから引っこ抜かないようにね」


「傷薬ですか?ポーションなんかは作ってないのですか?」


「ポーション?それは何?」


「・・・聞かなかったことにしてください」


ペルリタさんにそう言うと、本当に聞かなかったことにしてそれ以上追及してくることはなかった。私も気まずくなったため黙々と作業を続ける。スキルの効果なのかはわからないが右下に手に取った植物の成分が表示されている。なぜ成分と言うことが分かるのかと言うとビタミンなんかの聞いたことのある単語がいくつか出てきていたからだ。そんな中で一つ気になる植物が出てきた。


「ペルリタさん。この植物について何か知っていますか?」


それはハート型の葉を持った双葉の植物であった。なぜ気になったかと言うとその植物には魔力が含まれていた。ペルリタさんは私の手元をのぞき込むと首を傾げこう話す。


「私も知らない植物ね。気にしたことがないからかもしれないけれど初めて見る気がするわ。この植物がどうかしたの?」


「実はこの植物、魔力を持っているみたいで・・・それでペルリタさんが知っている植物なのかが気になりまして」


「どうして魔力を持っているのかが分かるのかはさておき、気になるなら畑に空いている場所があるから育ててみてもいいわよ。ただ私も放置していた場所だから雑草が生え放題になっていると思うけれど」


私はその畑の空いている場所に案内してもらってそこの草取りを始める。二時間程草取りをしてようやく植物を植えるスペースを確保できた。そこで休憩を挟んでいると、薬屋のドアベルが鳴った音が外まで響いてきた。


「お客さんかねぇ?」


そう言ってペルリタさんは薬屋の方へ向かっていく。私はどうしたらいいか迷ったがペルリタさんについていくことにした。裏から薬屋に入ると足をすりむいている男の子とその母親らしき人が来ていた。ペルリタさんは素早く怪我の様子を確認し、裏へ戻っていく。ここまで会話はなかったがお客さんも慣れた雰囲気だったため常連さんだったのであろう。しばらく待っているとペルリタさんがアロエの葉肉を持って戻ってきた。


「少ししみるが我慢してね」


そう言うと給水の魔法を詠唱し、傷口を洗ってアロエの葉肉を傷口に当てた。


「これでしばらくそのままにして安静にしておくんだよ」


怪我をした男の子は頷くと、その母親らしき人が銅貨一枚を置いて帰っていった。私はこのとき初めてこの世界の医療水準の低さを目の当たりにしたのだ。

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