第2話

お店の中に入ると所狭しと薬瓶が並んでいるということはなく、薬棚には何も置かれていなかった。そのわけを聞いてみると。


「この店を閉めようかと思っていたからねぇ。そのために中央付近にまで行ってきたのだけど、アリシアを拾ったからね。もう少し続ける気になったよ。それよりもアリシアの修行だけどまずはこれに水を注いでみなさい。詠唱は『水よ。来たれ』よ」


そう言って木の桶を渡された後、薬屋の裏、畑に通された。畑の隅っこに座りとりあえず詠唱を唱えてみることにした。


「『水よ。来たれ』」

すると体の中で何かが動いたような気がした。その動いた何かを意識してもう一度詠唱を行うと、どうやら手の方に自然と動こうとしている気がする。次は詠唱を行わずにその何かを動かすことができないかを試してみる。そうやって試行錯誤しながら魔法について検証しているうちに三時間ほど経っていたらしくペルリタさんが私の様子を見に来た。


「流石にまだできていないねぇ。そんなに焦る必要はないよ。普通は扱えるようになるまで一年程かかるからねぇ」


そう声をかけられたときに体に感じた何かを手に集中させ詠唱を唱える。すると手からコップ一杯ほどの水があふれて木の桶に落ちていった。ペルリタさんは私が数時間で水生成の魔法を行使したことに驚きながらも興奮した様子で話しかけてくる。


「すごいよ。アリシア。さっきも言ったけれど普通は扱えるようになるまでに時間がかかるものなんだけれどねぇ。あなたには魔法の才能があるのかもしれないねぇ。ところで気だるさはないかい。魔力を使いすぎると体に不調をきたすのだけれど気分が悪かったりしないかい?」


私が返事を返そうとすると急にお腹の音が響いた。その音にペルリタさんは笑いながら。


「そろそろ夕飯の時間だからねぇ。さあアリシア、店を閉めて夕飯にしましょう」


そう言って私を中に連れて行ってくれた。ちなみに薬屋のなかに居住するための部屋もあった。私たちはそこで一緒にご飯の準備をした。その時に火種を生み出す種火という魔法を教えてもらった。詠唱は『火よ。起これ』だった。


ご飯は調味料の類が少ないため素材の味を生かした素朴な味だった。ご飯の後、食器を洗いペルリタさんと面と向かって座りあう。大事な話があるとのことだった。


「今から鏡合わせを行います。鏡合わせとは魔力を流すことで流された方の魔力量を増やす役割を持つ儀式のようなものです。本来は危険も伴うため行いませんが、薬師は魔法で生成した水を利用しなければならない決まりがあるためできるだけ多くの魔力を持つことが推奨されています。アリシアは生活魔法を発動できたことから推測できるのですが魔力の扱いが他の子よりも長けているのでしょう」


「私は手に魔力を集中させることしかできませんよ」


「それが分かるのであれば十分です。私から送られてくる魔力をできるだけ体の内に留める様に意識しなさい」


そう言うとペルリタさんは私の手を取った。私も気を引き締めて真剣な表情をすると。


「気を張りすぎです。リラックスしなさい。無理に取り込もうとするのではなく受け入れるのです。ではいきますよ」


すると、ペルリタさんの手から暖かいものが流れてくるのを感じた。私はリラックスしてそれを受け入れていたのだが、その暖かかったものがどんどん熱く感じてくる。それが全人を駆け巡り頭がぼうっとしてきたところでつないでいた手が離された。


「今日はこれぐらいにしましょう。今は慣れない量の魔力が体内にあるため、体が反応して熱くなっていますが、数時間もすれば収まります。あとこの儀式のことは他言しないように」


そう言ってペルリタさんは私を寝床へ運んでくれた。そのまま眠り異世界一日目を終えたのであった。

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