第24話

 私の枕元でココさんが座って微笑んでいる。「私はもう起きたの?」と彼女に聞くと、「いいえまだ眠っているのよ。」と彼女は言った。「私は間違っていたみたい。」と言うと、「なぜ?」と聞き返された。「だって私間違ったものを信じていたみたいだから。」ココさんは「じゃあ今は正しいものを信じているのね。」と言って、「でも本当に正しいかどうかなんて、どうやって分かったの。」とまた私に聞き返した。わからない、昔は間違っていて今は正しいなんてどうやって分かるのか。


 そこで私は目が覚めた、ベッドとテーブル以外何もない部屋で寝かされていた。頭がぼんやりする。それに何かに自分の体が削り取られたばかりのように感じた。もう私の削り取られた部分は帰ってこない。どこかはわからないが体のあちこちが痛む。クオクの言っていたことが本当なら、養子である話も嘘だということだ。一体何の為に込み入った嘘が必要だったのか。彼のなめらかに動く異様な美しい足指を思い出した。それからあの笑顔も。もうあんな風に私に笑いかけてくることはないのだ。いつ泣いていたんだろう、目の横に涙の跡が残っていた。


 私は部屋の薄明るいのにはっと我に返り、慌ててベッドか飛び降りた。ドアを開けて外に出ようとする。鍵がかかって開かない。大声を上げても返事がない。閉じ込められたんだ。もうすぐ日の出のはずだ。手首のリストは外されている。時計がないから何時かわからないがほんのり部屋は外からの光で明るい。急に動いたからか頭がガンガンする。あの時吸いこんだ薬のせいだ。テーブルに飲み物がのってあるがそれには触れず、水道の水を直接がぶ飲みして顔を洗う。近くにあったタオルで顔をふく。袖口が少し下に下がって、一瞬紫の文字が見えた。私は気づかれないように、周りの監視カメラの位置をさりげなく確認しトイレに入る。トイレにある小さな窓に左腕をかざした。知らない名前が並んで浮かび上がっているのが見えた。でも私はあるところでぎょっとする。


「ミズノモト タケノリ」

父の名前がそこにあった。もしかして父が協力者?それともただの同姓同名?モニターに向かって戦争の資料ばかり見ていた父の背中をふと思い浮かべた。母の言うことをなんでも聞いているあの優しい父が?でももし本当にそうなら、母と兄はいざという時には父が守ってくれるはずだ。そしてリストの最後には数字の羅列があった。これはもしかして、あの扉の暗証番号?でも私は今そこに向かうこともできない。


 私がここに来させられてから、どれくらい時間が経ったのだろう。クク達は無事に出航できるだろうか。たぶんもうすぐ本格的な日の出だ。クオクにそのことは言わなくてよかった。でも私が下から上がって来たことは知っているはずだから、彼らの魔の手は遅かれ早かれクク達に及ぶはずだ。クオクが黙ってクク達の出航を見守るとはとても思えない。私は今からでもなんとか制御室に入って、St3に手出しできないようにしなければならない。

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