第10話

 その日学校で、みんなにもみくちゃにされた。話したこともない他のクラスの子たちも私を見に来ていた。先生も誇らしげに朝のスピーチをほめてくれた。いえ、ただ用意された原稿を読んだだけです、いいえココさんとはなんの知り合いでもありません、よくおぼえてないです・・・。放課後ククが私のカバンをロッカーからとってきて、私の机の上に置いて言った。

「カナン、今日は水曜日だから私の家に遊びに来てよ。」

そういえばまだ今日はククとおしゃべりしていなかった。私が話したいのはククだったと気づく。ククとゆっくり話したい、でも居住区以外のStへ行くことは、作業以外では禁じられている。私が言う。

「行きたい!でも無理じゃなかったっけ?」

「カナン知らないの?リーダーの特権?」

ククはカバンに勝手に私の私物を詰めながら言う。

「リーダーにタブーはないんだよ。」

私はククのいたずらっぽく笑う顔に一瞬みとれる。あれだけSt3の話は避けていたのに、今日は自宅に呼んでくれるのだ。私は何かあれば、リストでクオクにコールして相談することになっている。ククに言われた通りドキドキしながら、今後のリーダーの責務を果たすために、St3の視察に行きたいとクオクに伝えると、かまわないとのことだった。


                St3の中へ


 St3の受付を通るときにククは顔パスだが、私はリストに送られてきたパスを見せて通る。受付の人はがっしりした女性で、スマイルマークのように口角を大きく上げた笑顔で言った。

「新リーダーのカナンさんね、ようこそSt3へ。しっかり見て行ってね。」


 ククの家に向かう途中、植物工場を覗くことになった。廊下の窓から、たくさんの白い服を着た人が、植物の世話をしているのを見た。じっと見ていると、働いている人たちの動きが、やや緩慢なのが気になった。お年寄りが多く働いているのか、でも若い人もちらほら居る。ほとんどが平均寿命の60歳超えた人たちだとククに教えてもらう。そういえば60歳を過ぎた人々は、St3のある一か所に集められて、負担が少ない労働をしていると聞いたことがある。でもあの若い人たちは?とククに尋ねた。

「うまくみんなのように働けない人たちだよ。」

「どういうこと?」

「学校に来られなくて、ロボットで授業を受けているカーっているよね?ああいう子たちがもし成人してもそのままだったら、ここに来るんだよ。」

「えっ?」

「センターはみなさんの能力に見合った仕事を割り振り、決してできないことを無理強い致しません。」

AIボイスの真似をしてククが言う。私は思わず若い作業員の男の人を見た。彼は野菜の苗が入った箱を持って、ぼんやりと私を見返していた。私たちはその場を立ち去った。


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