第2話

家族の話にもどそう。私は父親には会おうと思えば、いくらでも、St2の食堂や余暇活動で会えるから問題はない。母と父も特に別居に不便は感じていないようだ。すごく仲の良い夫婦、とまではいかないけれど、うまくはやってきたほうだと思う。父と母は結婚して次の年に兄が生まれて、それからずっと親として、一緒に子育てをしていたわけだから、いろいろとお互い思うことはあるだろう。

「男と女の外の作業量が同じだからと言ったって、家の中のことは、誰が平等にしてくれるのよ。」と母はよく愚痴をこぼしていた。そこらへんが10代の子どもの子育てのために一旦別居した後、子どもが自立してから、再度その夫婦が同居するかの決め手になるという。外の作業後の、家での余暇の過ごし方は自由だ。子供とちゃんと関わりたい親もいれば、そうでない親もいる。家事をきちんとしたい人間とそうでない人間がいる。そこで摩擦が生じるのだろう。


私の父はよく家では、戦争のことを調べている。なぜ戦争にひかれるのかは、わからない。一度聞いたことがあるがその理由が、当時の私には腑に落ちなくて、あまり覚えていない。無口な人だし友達が多いとも言えない、つかみどころのない人だ。母に遠慮して、小さな書斎に戦争グッズを集めて置いている。そこで暇さえあれば、立体映写機で戦争の様子を映し出して、じっと見入っている。母に頼まれれば私達兄弟が小さなころ、けがのないように見守りはしたが、言われなければ、自分では子守りはおろか家事もしなかったらしい。母はその分を補うように、常にまめに、私達の世話を焼いてくれた。どの夫婦も上の子どもが中学まで育ったら、その後は同性の子どもを連れて別居し、引き取った子供が成人にあたる18歳まで、責任をもって養護育成すれば、親のお役目ごめんなのだ。自分にとって異性の子どもだけだと、12.3年間で子育て終了だ。父母別で各々世話をしている子どもが、全員成人して自立した後であれば、夫婦としてまた一緒に暮らすことも可能である。また子ども側では、成人したら若者居住ゾーンに移り、誰と暮らすことも可能だが、夫婦となり子どもを産むとなると、センターがうるさく干渉してくるのだ。そして限られた資源を分けるため、子供を産むなら二人までと、決められている。食糧の供給は、現時点では今の人口分の需要とうまく一致しているが、今以上の人口増加による需要増加には、供給が追い付かないらしい。これ以上人口が増えないように、センターが管理しているのだ。


昔は親が年老いても、働かない成人の子供の面倒をみていたと聞いたことがあるが、今私達には18歳を過ぎて働かないという選択肢はない。子どもは18歳をむかえて成人になると、若者居住ゾーンの個人部屋に移る。病気や怪我の診断がない健康な者であれば、日中の作業時間に、部屋の酸素を止められるのだから、作業に出るしかないのだ。「働かざる者、酸素を吸うべからず」だ。植物がただでじゃんじゃん大気中に、酸素をだしてくれていた時代には、もうもどれない。私の友達のお兄ちゃんは寝坊し、下着姿で飛び出して、そのまま午前中いっぱいは、下着姿で作業することになったと聞いたことがある。服の供給エリアでは、その貸し借りまでは受け付けてくれない。そのお兄ちゃんは午後の作業のために、酸素が復活する昼の休憩時間に、自分の部屋にもどって、あわてて服を着たとのことだった。


私たちが住んでいるこのステーション(St)は3つに分かれており、各々居住、食堂、学校、作業所、畑、供給所、余暇スペース、医療エリアなどがある。各St上からSt1、St2、St3と連なり、その真ん中をコアが貫いていて、酸素と水と電気を、供給してくれる。暗い海側から見たら、このステーションは、光る大きな串団子のように見えると思う。St1が海面近く、St3は深海あたり、St2はその真ん中にある。各Stへは原則お互いパスがないと行き来はできない。私は本当だったら、St2に住んでいるのだから、St2の中学校にいくはずだった。でもなぜかSt1の中学校にいる。


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