第20話 クイントの企み

 僕たちはレストランを出た後、家具や雑貨を売っている店に入った。

 こういうのが得意だというグラニアに見立ては任せて、僕たちはクイントを問い詰めた。

 すると彼は、


「早い話、お前らに手を貸してもらいたかったんだわ」


 悪びれることなくそう言った。


「アンナは平民の娘さ。実家は洗濯屋でそこの手伝いをしている。だけどあの通り目立つ美人だからな。結構な男が求愛していたみたいだ。ジュードもその一人だが、アレはタチの悪いことに女を口説くのに家や権力を引っ張り出してきたからなあ。にっちもさっちも行かなくなって思い詰めていた心の隙間に滑り込んだ俺が美味しくいただいちゃったってワケ」

「この話で一番悪いのってお前だっけ?」


 レオがクイントを蔑むような目で見る。

 続いてドンが珍しく強張った顔で問う。


「レストランに呼び込むことを考えたのはお前か?」

「ああ。あそこの店主は偉い人にも顔が利くからな。みんなでワイワイやってたらバカ貴族が調子に乗って余計なことしでかすと踏んでいた。現行犯じゃないと流石に貴族を平民が訴えられねーでしょ」

「そういうことしたら、料理の載った皿がひっくり返されることは考えていたか?」


 ドンの尋問に空気がひりつく。

 先程レストランで見たドンの怒りはオーガと見紛うほど恐ろしいものだった。

 ハラハラしてクイントの回答を待つが、


「そこまでよ。ドンちゃん。あなたらしくないわよ」


 買い物に一区切りがついたグラニアがドンを諌める。


「クイントはあの娘を守ってあげたかったの。他の気配りができてなかったのは事実だけど、悪気があったわけじゃないわ。許してあげなさい」


 まるで母親が子供を諭すような口ぶり。

 おかげで怒れる巨人がスン、とおとなしくなった。

 しかし、さすがのクイントもバツが悪そうに頭を下げてその話は終わった。



 昨日購入した家財道具が早々に我が家に届いた。

 みんなは賑やかにしながらベッドやソファを家の中に並べ、模様替えを始める。

 僕は家主なので働く気はない。

 避難するように天井の柱に吊るしたハンモックに揺られながら読書に耽っていた。


「何を読んでいるんだ?」


 レオが僕の本を覗き込んできた。


「魔術書だ。魔術の使い方が書いてある」

「あー、そう言えば昨日の晩も部屋の中で何か唱えていたもんね」

「聴こえていたのか?」

「うん。修行熱心だなあ、って感心したよ。オレたちの方こそもっと真面目に修行とかするべきなんだろうけどさ」


 僕を努力家だと褒めてくれているのかもしれないが、逆効果だよ……


「あっ。また何か考えているくせに口に出してない――」

「ロクに修行もしてないくせに新人離れした身体能力しているお前らに呆れてるの!」

「褒め言葉じゃん。だったら最初から素直に言いなよ」

「図に乗るだろうから黙ってたんだよ」


 ふふーん、と鼻息を荒げるレオ。


「ま、当然かもしれないね。オレたちは子供の頃からちょっと特殊な環境にいたから。まあ、アーウィンさんほどではないけれど」

「言ってくれるじゃないか。だったら話せよ。どうやったらお前らみたいに能天気な人間が出来上がるか興味深い」


 僕が嘲るようにそう言うと、レオは椅子の背もたれにのし掛かるように後ろ向きに座り、


「じゃあ、話そうか。オレたちの昔話を」


 とウキウキした様子で語り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る