第18話 みんなで買い物
ミナイルの街で武器や防具を調達しようと思ったら、まず行くべきは冒険者ギルドの建物の中にある武具屋だ。
モンスターという資源の塊を狩る冒険者のそばにはたくさんの商機が転がっている。
戦うために必要な武防具もその一つ。
名工と呼ばれる鍛治師の作る武具は一つで屋敷が買えてしまうような高額のものも多い。
そう言ったものは製作期間や原材料費を差し引いても鍛治師の元には使いきれないほどの大金が転がり込む。
故に、鍛治師は人気商売の一つ。
ミナイルの街にあつまった大勢の鍛治師たちは自分の作品を冒険者たちに見初めてもらおうと冒険者ギルド内の武具屋に卸して販売してもらっている。
僕は子供のように騒ぎ散らかすパーティメンバーを引率し、ギルドの武具屋の門を叩いた。
「いらっしゃい。ああ、昨日の」
きれいに剃髪した禿頭の男はこの武具屋の店長である。
コワモテであるがれっきとしたギルド職員であり、ヒッチの同僚である。
彼には昨日のうちに注文を通しておいた。
早速戦闘用のナイフが店のカウンター台に並べられる。
「これはボディグリードと呼ばれる大型ナイフだ。肉に突き刺せば食い破ったような深傷を負わすことができる。レンジャーの武器としては高火力過ぎる一品だな」
レンジャー、という単語にニールが反応した。
剣と同じように大きな鍔のついた鈍色の刀身のナイフはギザギザがついており、幅も広く凶悪な殺傷力を有していることは明らかだ。
「ニール。お前の新しい武器だけどこれにしようと思うんだが良いか?」
「マジかよ……いいのか、こんなの買って」
「お前の攻撃力が上がれば、パーティの生存率が上がる。使う金をケチって僕は死にたくない」
「……へっ。珍しく意見が一致したな。あの世に金は持っていけねえからな」
ニールはナイフを逆手に持って試し振りする。
ビュオンッ! と豪快に風を斬るニールの斬撃はゾッとするほどの威力を秘めているようだった。
「次はコレだな。オーソドックスな鉄の矢とマジカルアロー」
店主の出してきた矢にクイントが興味を引かれて近づく。
「矢ってことは俺の武器だよね。マジカルアローって何?」
「鏃に魔術効果の付与ができる矢だ。小さな魔石が付いているだろう」
クイントは目を凝らすように鏃に埋め込まれた豆粒のような魔石を見ている。
「そのサイズなら刺さった瞬間に体内で発火する程度の効果しか得られないが、攻め手に限りがあるアーチャーの切り札には十分だ」
魔術付与は僕がしてやると言うと「さっすがリーダー!」と言って僕の肩を叩いてきた……微かに女のつけそうな香の匂いがしたのは気のせいだろうか。
「で、次はグラニアだけど」
「私は武器壊れてないわよ」
「分かってる。副武装を持ってもらおうかと思って。できれば槍よりも長いリーチで汎用性の高い武器を」
「んー、じゃあムチでも使おうかしら」
「ムチ?」
投擲用の飛剣なんかを想定していたので面食らった。
「ほら。ムチなら打って攻撃するだけじゃなくて拘束したりできるでしょう」
「たしかに疾いし痛みを与える効果が強いから戦意を奪うのに効果的って聞くけど扱いが難しいし素人が扱うには」
「その点は大丈夫。私、器用なんで」
そう言って店主の用意していた飛剣には目もくれず、店の隅に置かれていた一本鞭を手に取った。
隣に置かれたメモ書きを読むと小型竜の尻尾を材料に造られている。
強度やしなりも上等なもののようだが、それ以上に見た目のインパクトが大きい。
グラニアのような貴婦人めいた美貌の女がムチを手に持っていると……なんだか迫力あるな。
と思っていたら、
「ガハハハ! グラニアがムチ持ってるとエロ恐い! 股がヒュンとなるゾ!」
ドンが遠慮なしに言った。
思わずみんな噴き出しそうになって口を押さえて肩を震わす。
「どうやら、大飯食らいのお馬鹿さんはしつけ直す必要があるわねえ」
「うわわわわっ! 人に武器を向けちゃいけないってママ先生たちが言ってたゾ!」
グラニアがドンの背中にしがみつき戯れるように襲いかかっている。
あまり店内で騒ぐなよ。
「それくらいにしておいてくれ。あと、レオも――」
「オレはこれで良いよ。お世話になった人の形見の品だから」
と腰に下げた剣を握る。
そうは言うが剣は消耗品だ。
高レベルの冒険者が使うようなレジェンダリーウェポンでもない限り摩耗し、いずれ使い物にならなくなる。
「大切な物だったらなおのこと冒険には持っていかない方がいい。既に刃はガタが来ていた。間違って硬いモンスターでも切りつけたら折れるぞ。アタッカーが武器を使えなくなったらパーティは瓦解する」
「うう……じゃあ、別の武器使うからこれは御守り代わりに持っていくことにしていい?」
まるで人形を離さない幼児のようだなあ、と思いながら「好きにしていい」と僕が折れた。
結局、店主に見立ててもらった刃の幅が広めのショートソードを買うことにした。
「と、武器はこれだけ。ドンの棍棒は威力を上げようと思うと重くなるし、もっと力がついてからだ。アリサや僕にとって武器なんて飾りだから不要だ」
と解説すると店主が手際よく、次の準備のために測りを用意している。
「次は防具。これは武器以上に金をかけていい。硬くても動きにくい鎧やサイズの合っていない装備は戦闘力を半減させるからな。全部オーダーで作ろう」
僕がそう言うとワァッ、と盛り上がる。
はしゃぐ連中を見て店主はしかめ面を作った。
「やれやれ、冒険者初めてすぐのガキにオーダーなんて贅沢な話だ。採寸するから、女は後ろの部屋。男は上の服を脱げ」
言われたとおり、僕たちは上の服を脱ぎ始めたがレオだけは、
「オレはいいよ。オーダーとかじゃなくてサイズが近いのでさ」
と言って服を脱がなかった。
さっきから意外とワガママなヤツだな。
「何を言ってるんだ。お前が一番ちゃんとした装備をつけなきゃいけないんだ。アタッカーは最前線で攻撃する分危険も大きい。運動性を殺さずに耐久力を上げるためには高価なものを身につけるのが一番なんだ」
僕の言葉にレオは困ったような顔でニールやクイントを見た。
するとニールは面倒臭そうに吐き捨てる。
「後ででいいから、鎧は造っとけ。しょうもない事のために寿命縮めたら元も子もねえ」
「……そうだな」
その後、僕が採寸してもらっている時にお説教じみた顔でクイントはレオと話していた。
「さっさと話した方がいいんじゃないか。俺はアイツ信用したけど」
「俺だって信用してるさ。だけど、全部明かすかどうかは信用の問題じゃなくてさ」
「あーはいはい。別に俺も無理強いしないよ。お前が言いたくなったら言いなさい」
小声でしかも僕をチラチラ見るようにしていることから内緒話なんだろう。
リーダーだからってなんでも介入するつもりはない。
パーティなんて所詮、仕事だけの付き合いだ。
「腹減ったー。そろそろメシにするゾ!」
「さんせー! どうせだから良いお店行こうよ! 私のレパートリー増やしたいし!」
「俺、オススメの店があるんだ。案内するよ」
「後でベッドや生活用品も買いたいわね。いつまでもウィンのベッドにお邪魔するのも悪いもの」
……ま、ウチは生活も一緒になってしまっているんだけど。
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