第17話 ルームシェア?
「アリサの料理うめ〜〜〜〜〜〜‼︎」
「こらっ! ドン!テーブルに運ぶ前に食べるなって言ってるでしょう!」
「カッカすんなよ、グラニア。別に料理下手でもいいじゃねえか。お前はおっぱいでかいんだし」
「ケンカ売ってるし! あたしの気分次第であんたの食生活を地獄に変えられるんだけど!」
……家に帰ると野蛮な酔っぱらいたちに僕の家を占領されていた。
けたたましい喋り声と芳しい料理の香りは外にまで届いている。
「あっ、おかえり。アーウィンさん」
と、レオは腕立て伏せをしながら僕を出迎える。
その背中の上にはクイントが座っていて重りの役目をしているようだ。
コイツらと依頼を受けてわかったことがある。
性格が明るい連中って宴会や人前だけ明るく振る舞っているんじゃなくて日常の何気ない瞬間でも大口を開けて笑っている。
楽しいと感じることのハードルが低いんだろう。
「ギャハハハ! ウィン! なんだよその面! 報告行っただけなのにどうしてそんなに疲れた顔してるんだよ!」
お前らが家にいるからだよ。
これから先が思いやられる――
「どーん! ねえどう? 私の手料理美味しそうでしょう!」
アリサが大皿に盛りつけた彩り豊かな肉料理を僕に見せつけてきた。
焼けた肉の芳ばしい香りと溌剌とした美少女の笑顔が眼前に突きつけられるのはなかなかに攻撃力が高い。
「う、うん。おいしそう……だな」
僕は顔を背けて顔が緩むのを避けようとする。
けれど、
「何避けようとしてるのよ。 はいっ、あ〜〜ん」
グラニアが肉を一切れ指で摘んで僕の口に押し込む。
唇に触れた指先は甘辛そうなソースが付いていたが、ためらうことなくペロリと舐めとった。
「おいしい?」
「……おいしいです」
「やった〜〜〜! 家主のおいしい戴きました〜〜!」
自分の家でまともに調理された料理を食べるなんて初めてだった。
それをまさか美女たちに手ずから食べさせてもらうことになるなんて。
まあ……考えようによっては悪くないかもな。
どうせ一人じゃ持て余していた広さの家だったし。
「ちょれえなあ……これだから童貞は」
「まあまあ。せっかくタダで居候できる快適な家が手に入ったんだからちょっと良い思いするくらい見逃してやろうよ」
ちょっと離れたところでニールとクイントが不穏なことを言っているが気にしないことにした。
食事を終えた後、僕は黒板に白墨を使って説明用の図を描いていた。
「えー……まあ、僕の家で暮らすのは了解した。どうせ使っていない部屋があるからな。キチンと食費を入れて家事をしてくれるのなら、家賃までは取らない」
元々、母親からもらったものだし、それで金儲けしようとは思わない。
「やったー! 助かったぁ!こないだの依頼ほとんどお金にならないって聞いて焦ってたんだ!」
「レオ。そのことだが、しばらくお前らがお金に困ることは無さそうだ」
ガシャ、と音を立てて僕は金貨袋を机の上に置いた。眠そうな顔をしていたニールが真っ先に食いつく。
「な、な、なんだ⁉︎ これ、中身金貨か⁉︎」
「ああ。一〇〇アッシュ硬貨だ。それが二〇〇枚ある。この間、ゴブリンの巣にあったダンジョンを見つけたおかげで報奨金が出たんだ。ダンジョンの規模によって金額が変動するから査定が終わるまでは受け取れないけど、とりあえず、ギルドに最低額で立替払いをしてもらうことにした。これはお前たちの取り分の一部だ」
「一部ぅ⁉︎ 嘘だろ!これだけあれば一年は遊んで暮らせるぞ!」
文字の読み書きはできないくせに金勘定はできるんだな……しかも、かなり正確な金銭感覚を持ってるし。
「まあ、査定は終われば何十年と働かずに暮らせる程度の金が手に入るかもな。そうなったらお前たちは冒険者する必要なくなるか」
「え……なんで?」
あどけない顔をしてレオが首を傾げたので僕は恐る恐る聞いてみる。
「まさか、お前は一生遊ぶ金が手に入っても冒険者なんて続けるつもりか? こんな命懸けで割りに合わない仕事、抜けられるうちに抜ける方が賢いぞ」
「こんな立派なお家で暮らしてるくせに危険なソロ冒険者やってるあなたはどうなのさ?」
……痛い反撃をしてきやがる。
「僕は、良いんだよ。冒険者になったのだって自分の力を証明したかったことが大きいし」
「だったらオレも似たようなもんさ。立派な冒険者になって自分にしかできない偉業を成し遂げたい。そうなるまでは冒険者をやめないよ」
最初の冒険で危うく死にかけたというのに、レオの瞳は澱むことを知らない。
すごいね。
「だったら……この金は軍資金にするんだな。前回のクエストで武器を持っていかれたろう。防具も身につけた方がいい。明日にでもみんなで買いに行こう。装備が良くなればパーティの生存率は格段に跳ね上がる。レベルを上げるにしても命あっての物種だ」
「よーーしっ! じゃあ、明日は買い物ってことでみんな寝るぞー!」
レオが声を張り上げると、わーーーっ!
と歓声を上げてみんな寝床に駆けていった。
「ちょ、まだ話が終わって」
「ムダだって。リーダーと違って俺たち平民以下の野良犬だし。大金持ってお買い物なんて言われたら祭りが十年分まとめてくるような騒ぎになるぜ」
クイントの解説のおかげで明日が来るのが怖くなった。
「……って、お前は寝ないのか?」
僕が尋ねるとクイントはだらしない笑みを浮かべる。
「女の子とデートなんだ。帰りは朝になるから戸締りしておいていいよ」
ふふ〜ん♪ と鼻歌を歌いながらクイントは家から出ていった。
その浮き立つような足取りに僕は嫉妬した。
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