エルリアの憧れ

私とエルリアは協力して机の上に置かれた四種類の鉱石を専用の炉の近くに持ってきて、入れる。

ちなみに炉には既に火を入れていたので、問題ナシ。


おかげで炉に入れるとすぐに赤く発光し始めた。

だがしばらく待たないと溶けきらないので、その間は炉の温度や鉱石の溶け具合を見ておく必要がある。


赤く発光するといっても、鉱石によって多少の誤差があり、近鉄鋼なんかはすぐに赤くなるけれど、緑翠石りょくすいせきなんかは一向に赤くなる気配はない。


それにしても……、


「綺麗だね〜」


「そ、そうですね」


勝手な推測だが、この世界自体がゲームっぽいし、溶けるまでの時間が長ければ長いほどレアな金属になるのではないか?


すると深鉄鋼と魔源銅まげんどうが赤く発光し始めた。


「おー」


となれば、私の推測が正しいとすると緑翠石はこの炉に入っている4種類の鉱石の中で、1番レアらしい。

まあ名前からしていかにも「レアです」と言ってるような鉱石だもんな。


私と同じように横に並んで鉱石の様子を見ているエルリアのほうをチラッと見る。


「……ねえエルリア、あなたはどうして冒険者になろうと思ったの?」


黙っているのもなんなので、パッと思いついた疑問を聞いてみる。


冒険者と言えば、日々命を狙ってくる魔物やモンスターと戦う、超実力主義の世界であり業界だ。


実力がなければ収入は少なくなるし、そこそこ収入があっても武具の手入れなどでお金が飛んでいき、けどそこをチキってしまうと直接死に繋がる可能性が高くなる。


だからこそ私は鍛冶師になった。

たとえ魔女として、いや魔法使いとしての才能スキルがあったとしても、絶対に冒険者にはなりたくない。


それにこんな家族想いな子が、わざわざ死に近い冒険者を志すのはちょっと不自然だし、親御さんとかも反対しなかったのだろうか?


突然だったので、エルリアは一瞬キョトンとしていたが、すぐに視線を赤く発光する鉱石たちを見つめ直すと言った。


「……実は私、一度死にかけた事があって、「もうだめだ」って死を覚悟した時に、たまたま通りかかった冒険者が助けてくれたんです。」


「なるほどね〜、それで冒険者に憧れたわけか。」


「そう……かもしれませんね。」


エルリアは一瞬言葉を詰まらせる。


「……でも、もう一度会ってお礼が言いたいんです。「あの時は助けてくれてありがとうございます」って。」


「なあるほどね〜」


そう言いながら私は苦笑する。

エルリアの頬が、ほのかに赤くなっているからだ。

炉の光が反射しているだけかもしれないけど、私は確信する。


つまりその冒険者はエルリアの初恋の相手、というわけだ。


「その人ってどんな感じの人だった? やっぱりイケメン?」


「……ず、随分と前のことですし、私が4歳くらいの時ですから細かくは覚えていませんけど……そうですね、イケメンとは違うかもしれませんが、とにかくかっこよかった人だったと思います。」


「ほうほう、王子様みたいな?」


「いえ、王子様というより騎士様でした。キラキラと輝く鎧と赤いマントを身につけていて、私の身長ほどありそうな直剣を持っておられました」


「ほうほうほうほう……すごい強そうだねその人。」


「そうなんです、ほんとに強いお方で私を襲っていたモンスターを瞬く間に斬り伏せて、私に手を差し伸べながら言われました「もう大丈夫ですよ、お怪我はありませんか?」って……!」


「ほうほう……」


なにそれ、私もそんな出会いがしたい。


誰々が好きとか、キュンとしたなんて経験が一切なかった私も、この話を聞いているだけでなんだかキュンキュンした。

やっぱり異世界だと出会いの形や大きさも異なって来るのだろうか……。


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