移動やらloveやら

 ☆☆

「営業職から転向してきました。よろしくお願いします」

「はい」

「ええ」

「よろしく」

 営業とはうって変わって女性だけの職場。

 何よりまえのまえのまえのカノジョさんとも近くなる。

 また嫌がらせをされるのだろうか?

 少しというかかなり心配だ。

「あの人に無理難題言われてたんだって?」

「まぁ。結局、毎回必要なデータはいただけませんでしたね」

「そう」

「大変だったね」

「あの人も入社時には素直な人だったらしいんだけれど」

「そうですか」

 なぜだか同情されているらしい。

 ということは嫌がらせは確実にあるということで。

 実に面倒なことになったものだ。

 顔をこわばらせていると、一番古参と思われる人から言われた。

「ここでは嫌がらせなんてないから安心して仕事しな」

「はい」


 ☆☆

 社内で会うことがなくなったからか、昇進した重責からか。


 最近、とても甘々だと思う。

 合える時はずっと手を握ったままだし、人目もはばからず抱きしめてくる。

 頭をなでで来る回数も増えてきた。


「そんなに不安ですか?」

「嫌がらせされてないかなって思うし」

「されてませんね。総務の人たちはよくしてくれます」

「そうか」

 彼のほうがメンタルがやばそうな気がしてそのままにしてある。

「ただ会社の近くで抱きしめるのはどうかと」

 ここは会社のエントランスから30秒歩いた物陰である。


「悪い。我慢します」

 言い方が可愛い。

 こんなにべたべたしていると会社でバカップルと言われないか心配になる。

「と、とりあえず、駅移動までは大人になってください」

「どこまで大人したらいい?」

「さ、さ、三駅くらいしたら人目のないところでなら――」

 ものすごく恥ずかしい提案を今からする。

「手つなぎましょ」

「やった。補充補充」

 その言い方もどうかと思う。

 もうすでにバカップルだ。

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