第48話 合流

 ヒューゴとギルダーが戦っている脇を抜けて、シンはギルダーの後ろに回り込もうとした。


「鬱陶しいガキだ」

 ギルダーは魔法を使って土で人型の何かを作り出した。その何かはシンに向かって直進してくる。


「こんな事もできるのか」 

 シンは少し関心しながら、土人形を左足蹴りで迎え撃つ。蹴りは土人形の右肩にヒットし、人形の腕が落ちた。しかし落ちた腕は浮遊して右肩にまたくっついて、すぐに元通りになる。


 地属性魔法〝マッドメイカー〟

 地属性魔法〝ライブソイル〟


 マッドメイカーは、土であらゆるものを形造る地属性の中等魔法。ライブソイルは、土に命と意思を与えて魔法使用者の指示に従わせる地属性の高等魔法。ギルダーはこの二つの魔法を組み合わせてゴーレムを生成し、シンの相手をするよう命じた。

 

「これまた面倒な魔法だな」

 シンは自分よりも二回り以上大きな土人形から振り下ろされる拳を避けながら、どう攻略するかを考えていた。


「何故お前が生きている?」

「あの程度で私が死ぬとでも思ったのか? 詰めが甘いんだよ、お前らは」

 ヒューゴが咆哮し、ギルダーに斬りかかる。ギルダーは右腕で刀を受けた。しかしギルダーの腕には傷一つ付かない。


「どうしてここがわかった? 誰の指示で動いている?」

「相変わらず質問の多い男だな。あの時お前らに偵察用の土人形をつけておいたんだ。まさか、そのまま誰も気がつかないなんてな。揃いも揃ってバカばかりで本当に助かる」

 ギルダーはガハハと大きな笑い声をあげる。


「貴様……」

「お前たちが余計な事をしなければ、今頃私は市議会の議員になっていたというのに。よくも私の人生を滅茶苦茶にしてくれたな。その報いは受けてもらう」

 ギルダーは魔法で大きな石斧を作った。そして石斧を両手で持ってヒューゴに振り下ろす。ヒューゴはそれを刀でなんとか受け流した。


「それを貴様が言うのか」

 ヒューゴは怒りに震えながら、刀を振るう。


「うーん、これもダメか」

 シンはゴーレムを避けようと、あの手この手を駆使していた。風の魔法で飛び越えたり回り込んだりもしてみたが、ゴーレムの反応が意外にも早くすぐに追いつかれてしまう。


「よし、強行突破で行くか」

 そう言ってシンはゴーレムに背を向けて走り出す。


「おい、あいつ逃げて行ったぞ。勝機が無いと悟ったか、お前と違って賢い奴だ」

 ギルダーはシンを皮肉るように笑った。


「貴様は何もわかっていない。シンはそんな男ではない」

 ヒューゴはギルダーの挑発に乗ることなく、冷静にそう言い放つ。


「思った通り、追ってこないな。さてと」

 シンはゴーレムから百メートルほど離れたところで立ち止まった。


 シンは戦いながら、ある事を調べていた。それはゴーレムの行動パターン。ゴーレムは常にギルダーとシンの間の位置に立つように動いている。そしてシンがギルダーに一定の距離以上近づくと迎撃を開始。シンが離れると定位置に戻ってシンを監視する。それをひたすら繰り返していた。


 どうやらあのゴーレムは決まった動きしかできないらしい。


 いくら魔法といっても、なんでもできる訳じゃないみたいだな。


 シンはこの特性を利用することにした。


「行きますか」

 シンはゴーレムのいる方へ走った。数メートルの助走をつけてジャンプする。


 風の魔法〝エアル〟× 5


 シンは自分の背中に突風を起こして、ゴーレムめがけて真っ直ぐ猛スピードで飛んだ。そしてゴーレムの腹部に蹴りを入れる。その瞬間ゴーレムの体は粉々になり、その勢いのままギルダーの横っ腹にシンの蹴りが直撃した。


「なっ!」

 ギルダーは瞬く間に遠くへ飛ばされていく。


「我ながら芸がないな」

 段々と小さくなっていくギルダーを見つめながら、シンは苦笑した。


「シン、よくやった。でも少し遅いぞ」

「ヒューゴこそ、説明不足なんだよ」

 二人はそう言って笑い合う。


「そういうところだ」

 シンとヒューゴのすぐ横に、ついさっき遠くへ飛ばされたはずのギルダーが立っていた。


「いつの間に」

「ん?」

 シンとヒューゴは同時に足に違和感を感じた。


 下を見るとシンとヒューゴの足元の地面がぬかるんで、二人の両足が脛のあたりまで沈んでいた。


「だから詰めが甘いと言っただろう。お前らみたいな人間をなんて言うか知ってるか?」

 ギルダーはニヤニヤとした気色の悪い笑顔で問う。


「は?」

「なんだ、とんちか何かか?」

 シンもヒューゴもまともに答える気がない。


「愚者だ。愚者は愚者らしく、醜く愚かに死ね」

 ギルダーはゆっくり地面に沈んでいくシンとヒューゴを眺めながら笑い声をあげる。

 

「まずい」

 ガレオが二人の元へ急いで駆け寄った、その時。


「うっ!」

 突然、うめき声をあげてギルダーが倒れた。その胸には三本の切り裂かれたような傷がある。


「わりぃ、到着が遅れた」


 仰向けに倒れたギルダーの脇に、巨大なオオカミのような生物がいた。そしてその生物の背中に誰かが乗っている。どうも声の主は、その人物のようだ。


 ギルダーが倒れたのと同じタイミングで、地面のぬかるみが消えて元に戻った。魔法が解除されたみたいだ。


「ライアン!」

 ヒューゴが歓喜の表情で言う。


「えっと、初めまして。俺は……」

 シンはぎこちない様子で挨拶をしようとした。


「お! アンタが噂のシンだな。俺はライアンだ。よろしく頼む」 

 ライアンはオオカミから降りて、シンに握手を求める。シンはライアンの手を取って、二人はしっかりと握手を交わした。


「ゆっくり話したいところだが、その前に」

 ライアンは左の手の平に右手の人差し指で何か陣のような模様を描いた。すると左手の模様が発光し、ライアンはその手を地面に押しつけた。


 陣は地面に移り、大きく広がる。そしてその陣の中から、今度は丸っこい形をした謎の生物が現れた。


「待て待て待て…………よし!」

 ライアンがギルダーを指差して合図すると、その生物がギルダーを丸呑みにした。一瞬だけギルダーの断末魔が響き、すぐに静かになった。


「はい、ありがとな」

 ライアンはまた陣を出して、丸っこい生物はその中に入って姿を消した。その後、また陣を出してオオカミの姿も消えた。


「これでひとまず安心だな。後は」

 ライアンはそう言って、シャロンが倒れている方を見る。


「こっちも大丈夫だ。これくらいならすぐに治せる」

 シャロンの隣に知らない男がいた。


「エドワード!」

 ガレオとヒューゴが声をそろえて言う。


「あの……」

 シンは恐縮しつつ男に声をかけた。


「君がシンか! 話は聞いている。俺はエドワードだ。よろしく」

 エドワードはそう言ってシンに手を差し出した。シンはすぐその手を取り、二人は握手を交わした。

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