第12話 捕食者たちのパレード

「ラン……ベ?」

 話が見えない。何かの動物の名前だろうか。いや人の名前か。組織かもしれない。縄張りとは、危険とはどういう意味だ。神坂は脳をフル回転させて考える。


「ほら、さっそく出てきたぞ」

 男がそう言って指差した方向を見ると、数メートル先の雑木林から一頭の動物が道の真ん中に飛び出してきていた。低い唸り声を上げながらこちらを睨みつけている。


 ランベルグは黒と灰色の硬そうな毛に覆われた猪のような体型で、鼻の先と額に一本ずつ角が生えている。体長は平均で三メートル程だが、この個体はそれよりもう少し大きい。雑木林の中には同じ姿をしたイノシシのような動物が何匹もいて、首をそろえて神坂たちをじっと見つめている。


「こ…………」

 恐怖で声が出ない。ここまで大きな野生動物を神坂は今まで見たことがなかった。神坂は本能的に逃げきれないと思った。もう助からないと悟り、全身の力が抜けてその場に座り込む。


 その様子を見た男が、ニカっと笑いながら神坂に言う。

「まぁ兄ちゃんはそこで休んでな」

 男は道に出た一頭を見つめ、右手を構えた。恐らく群れのボスであろうそのイノシシのような動物は男に向かって一直線に走り出す。


 スピードに乗り切って男にぶつかるくらいの距離まできたところで、親玉イノシシがいきなり数メートル後ろへ吹き飛んだ。その後すぐに起き上がって男に向かって唸り声を上げる。


「元気なやつだな」

 そう言いながら、男はさっきとは別の構えをとる。そして次の瞬間、男の手から火球が現れた。火球は親玉イノシシの体の大きさくらいまで膨張し、そのまま真っ直ぐ飛んでいった。


 火球は見事に命中し、親玉イノシシはその場に倒れ込んだ。全身の毛が少し焦げてチリチリになっている。お腹が少し動いているので、息はあるようだ。それを見ていた仲間達は一斉に雑木林の奥の方へ逃げ出していった。


「もう大丈夫だ。立てるか?」

 男は優しく微笑みながら、神坂の腕を引っ張って起き上がらせた。

「えぇ、ありがとうございます」

 神坂は戸惑いを隠せないまま、不器用に笑った。


「二回目だな」

 男は子どものような笑顔を浮かべて言う。

「そうですね」

 神坂も男につられるようにして自然と笑顔になっていた。


 神坂は安堵したと同時に、ついさっき起きた不思議な出来事が気になって男に尋ねてみる。

「あの、さっき使ったのって、もしかして……魔法……ですか?」


 男は天を仰いであーと唸ってから答える。

「そっか。魔導具と詠唱なしで魔法使ってるとこ見るの初めてか。あぁ、今使ったのは魔法だ」


 魔法が実在する世界。ここまでくると、もはや空想上の話だ。想像を超えた現実を目の当たりにして、神坂は息を呑んだ。


「そうですか。あの、助けてくれてありがとうございます」

「いいって、そんなことより」


 と男が言いかけた時、突然神坂たちを大きな影が覆い、バサバサっとけたたましい音が頭上を通り過ぎていった。


 音のした方向に目をやると、さっき男が倒した親玉イノシシのところに何かいる。そこには、翼の生えた巨大な犬のような生物が、親玉イノシシを咥えながらこちらをじっと見つめていた。

 

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