第11話 自由の代償

 神坂は目の前に続いている道をそのまま進むことにした。道があるということは、そこを誰かが通ったということだ。この先に街があるはず。

 

 そう思って歩みを進めようとした時、神坂は体に違和感を覚えた。


「何だ、この格好」


 見慣れない服を着ていた。服は土埃にまみれ、所々に傷みがある。さらにその上、乾いた血のようなものまで付いている。


 違和感はそれだけではなかった。全身に鈍い痛みと怠さを感じる。すべての感覚がおかしい。まるで自分の体じゃないみたいだ。


 神坂はその場に倒れ込み、そのまま意識を失った。


 気がつくと神坂は真っ白な空間にいた。どこまでも無限に続く、白いだけで何もない空間。


『あなたはこの世界で新たな命を得ました』


 どこからともなく声が聞こえてきた。男性とも女性ともつかない不思議な声をしている。声の主を探すがどこにも見当たらない。


「あの、ここはどこですか?」


『………………………………』


 返事がない。こちらの声が聞こえていないのだろうか。


『あなたに光の万能を与えます』


「光? バンノウ? 何か貰えるんですか?」


『………………………………』


 神坂は謎の声から完全に無視されていた。


「ちょっと、さっきから一体何の話をしているんですか?」


 なんだよこの人、全然こっちの質問に答えてくれないじゃない。こんなんじゃ全く会話にならん。っていうか、声変じゃない? なんて少し失礼な事を思いながら、神坂が頭を抱えはじめた時だった。


「おい、大丈夫か?」

 

 背中の方から別の声が聞こえてきた。声から察するに恐らく年配の男性のものだと思われる。その声のすぐ後、体を大きく揺さぶられた。


 そこで、神坂の目が覚めた。いつのまにか眠っていたようで、その間に夢を見ていたらしい。


 夢って、どこからどこまで?


 神坂が顔を上げると、そこには心配そうな表情をした初老の男がいた。


「気がついたか。おい平気か?」

「はい、大丈夫です」

 

 そう言って起きあがろうとしたら、男が神坂の右手をとってそのまま持ち上げた。その勢いで神坂の体はわずかに宙に浮いた。男が手を離すと、神坂は地面に着いた両足をふらふらさせながらなんとか立った。


「本当か? そうは見えないけどな」


 男に言われて神坂が自分の体を見てみると、見覚えのあるボロボロの服があった。体の痛みや疲労感もまだ残っている。

 

 どうやら夢を見ていたのは、ほんの少しの間だけだったようだ。


「それより、こんなところに居たら危ない」

「え? どうしてですか?」


 男は一瞬だけ怪訝そうな顔になったが、それからすぐ何かに納得したように頷きながら言った。


「そうか知らないのか。ここは、ランベルグの縄張りだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る