第9話 邂逅

 駅のホームは世界各国の老若男女が忙しなく行き来していた。お互いの肩がぶつかりそうなくらい駅は人でごった返していた。人の波で目が回る。


 次にやることは、ポケットに入っている切符で改札を出る。異世界へ行くための手順はこれで最後となる。


 神坂はポケットに手を入れた。何か紙のような感触がする。取り出してみると、それは買った覚えのない電車の切符だった。切符には何か文字が記されているが、相変わらず何が書いてあるかはわからない。


 神坂はとりあえず改札を探してみることにした。まずホームを出て、通路を進む。ここにも多くの人が行き交っている。ホームとは逆方向に人の波ができていたので、神坂はそれに乗ってみた。


 しばらく進むと大きなレンガ造りの通路に入った。通路は大通りらしきものがずっと真っ直ぐ続いていて、両サイドに細めの通路がいくつも枝分かれしている。人の波は大通りを進みつつ時折何人かが細い通路に吸い込まれていった。


 神坂は大通りをそのまま進んだ。歩いている人達を見てみると、日本人が何人かいることに気がついた。しばらく観察してみると、日本人達が一斉に細い通路へ入っていく。神坂もそれに続いた。

 

 通路の先には改札口があった。改札口の向こう側にはレンガでできた大きな出入口がある。外は太陽の光のせいか、景色が真っ白に見えるほどに眩しくて、よく見えない。


 改札口には駅員の格好をした人が立っていて、どうやら切符を手で切っているようだ。人混みの原因はどうもそれらしい。駅員が切符を切る時に何か言っているようだが、日本語じゃないのでよくわからない。


 あと少しで改札にたどり着こうかという時、


「ご乗車、ありがとうございました」


 日本語が聞こえた。


 神坂はその声のする方へと進んだ。そして改札の目の前まで来ると、切符を駅員に見せた。


「ご乗車、ありがとうございました」


 一定のトーンでそう言いながら、笑顔を一切崩さず、淡々と切符を切る駅員。まるで人形みたいで気味が悪いと神坂は思った。


 改札を過ぎて出口の目の前まできたが、ここまで来てもなお眩し過ぎて外がよく見えない。

 

 外へ足を踏み出した瞬間だった。


 神坂は頭が割れるような頭痛に襲われた。


「何だ……?」


 目の奥を刺すような強い痛みに耐えられず、その場に疼くまる。


 そのまま、神坂は気を失ってしまった。


 気がつくと神坂は道の真ん中で横たわっていた。ひんやりとした土の感触が頬に伝わる。起きあがって周りの状況を確認した時だった。


 神坂は自分が異世界に来たことを瞬時に理解した。

 

 「これは……」

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