第26話 1年生による1回戦

「男子たちの方が早いから速くしてー!私たち女子の方が運営の人数が多いのに男子より遅いのはやだよー!」


副会長の声がグラウンド中に木霊する。私の担当は主にポイント集計。副会長は女子側の運営のトップだ。いわゆる、責任者というやつである。

もちろん、男子側もトップが存在する。


クリシャちゃんはタイムテーブル通りに動かすための進行役ということで、私たちは3人全員グラウンドのテントの中にいた。

会長たちの男子側は人数が足りないらしく、本来ならロワと会長はあまり重い仕事をする必要がないのだが、やらざるを得ない状態だ。


「あーあー、問題ない?」


『はい!ちゃんと聴こえてます。ロワ先輩はミュートにしたみたいなのでわからないですけど…』


「大丈夫。私のイヤホンはクリシャちゃんとロワのミュートを解除できるようになってるから」


『そうなんですか!?じゃあ問題ないですね!』


ロワがミュートにするくらい想定済み。だからあえて主イヤホンを渡さなかった。クリシャちゃんとロワに渡したのはそのコピーだ。


「にしてもなぁ…」


私は改めて対戦表を確認したけど、不利すぎる。

去年、いなかったからわからないけどクラスの配置だけで見れば私たちは一番最初の人をDクラスの人で統一してるのに対し、相手はどこもAクラス。

これじゃ4チームどこも一回戦目は私たちの負けになる。


それと、これでわかった意外なことがある。この交流戦は4人と1ペアの6人で1チーム。それは男子も女子も変わらない。


おまけに、直接参加できない人も各クラスに数名。A、Bなどの位を問わず、必ずクラスから作戦会議の人を3人出さなければならない。男子と女子ともに。


だから、これで全学年の人数が計算できる!というくだらないことだ。

ちなみに結果は72人!のはず…


「これより、1年生の交流戦を開始する」


無機質な先生の声がすると、遂に始まった。それなのに、クリシャちゃんはまだテントの中にいる。


「クリシャちゃん、行かなくて大丈夫?」


『問題ないです。私はお願いしてもらって一番最後にしてもらってるので。3番目の人が終わったら行きます』


「そう?とりあえず、運営のことはいいから。楽しんでしんきてね!」


『ありがとうございます!』


真面目だなぁ。クリシャちゃん。自分なら運営のことなんて放り出して観戦するよー?


なんて思いつつ、不利な交流戦が開始したのだった。


────────────────


「あの子、すごいねー。一年生なんでしょ?」


私はたった今戦場の異空間に着いたクリシャちゃんに問いかける。最初は私たちが攻撃する側だから間違いなくAクラスの子だ。


その子の動きが普通じゃないことを示している。非常に機敏な動きに、相手の弱点にすかさず攻撃をしていく。まるで、いくつかの実戦上で戦ってきたような動きだ。


『あれはやばいです…魔力がまだ半分以上残っているように見えます。これだと、私が勝てたとしても、この防衛を崩すことはできなさそうです』


「そっかぁー、想定通りの最初から辛い状況だねー。今うまく行ってるチームが1つだけだから、その防衛崩せたとしても100ポイント。私たちはボーナスポイントをほとんど獲得してないから、いかに時間を引き伸ばすかが重要になりそうだね。そしたら300ポイント差でまた余地はあるって感じかな」


集計係だから、ポイントの差は全てリアルタイムでわかる。でも、厳しいものは厳しい。男子のポイントも合わせて勝敗が決まるにしても、男子任せになってしまう。


『すいません、私の番が回ってきたのでミュートにします』


「がんばって!」


『はい!』


〜〜〜〜〜


イヤホンをミュートにすると、私は先生の作り出した異空間の中の空き地まで走る。

初めてだから慣れないけれど、この空間はすごく不思議な感じがする。

異空間は全部草原と真ん中に空き地があるような構造になっている。


だけど、なにも音がしない。それが心地悪くてたまらない。

でも、今は目の前にいる相手に集中!


「ふぅ…」


深呼吸すると、私は相手の人の前に立った。勝負形式はもちろん魔法および剣術。


相手の人はさっきも見たけれど、ずっと無表情だ。笑わないし、突然攻撃を仕掛けても顔色一つ変えない。

それに、すこし茶色ではないのにオレンジでもない微妙な色の髪の毛を右手でファサっとはらい、紫紺の瞳で見つめてくる。


なんというか、怖い。機械みたいだ。だけど、私はその人と戦う。


「…あなた、ロワっていう人…知ってる?」


小声だけど、私にははっきり聞こえるくらいの声で話しかけてきた。


「ロワ先輩のことですか?同じ生徒会役員ですけど…」


「…そう。じゃあ……約束、してほしい。あなたが一番最後のはず……だから、私を休み時間に……連れて行ってほしい。ロワっていう人のところに」


最後の「ロワっていう人のところに」の部分だけ、強い意志のこもった小声でその人は言った。


「でも、私も一応仕事があるので、休み時間は厳しいですよ」


「大丈夫……男子は私たちの学園の方、だから」


「じゃあ自分で行けばいいのでは?」


「ゲートの場所、忘れた」


「そういうことだったんですね。それくらいならいいですよ」


「……ありがとう」


すると、その人は少しだけ微笑んだように見えた。だけど、少し頬が緩んだだけだけど。


「……じゃあ、始めよう。早く、ロワのところに行きたい」


「大した自信ですね。あなたはもうペアの方々も含めて5人と戦ったはずです。体力消費も相当なはず。悪いですが、この勝負だけはもらいます」


私も強気な姿勢で返すと、私たちの戦いは始まった。

相手の人はよほどロワ先輩に会いたいのか、さっきとは全く違う動きで、確実に私を追い詰めてきている。


さっきまではずっと風魔法主軸で戦っていたのに、私のときは臨機応変に対応してくる。

相手の私としては気持ち悪い限りだ。どんな攻撃魔法を使っても必ずその有利魔法で包み込んでくる。


会長は確か全属性の魔法が同じくらいに使えると言っていた。この人はそれくらい強い。全属性が使える人の相手をする気分がよくわかった。


「はぁっっ!」


「まだ、するの?」


私の魔力がもうすぐ底をつきそうだ。そうなれば、相手の勝ちが確定する。

相手の人は、全然挑発をしていない顔で平気に挑発している言葉を吐いてくる。おかげで、全く挑発されている気がしないのだが。


「さすがに認めざるを得ないですね」


私の負けだ。魔力がなくなれば、私はなにもできない。

もう防御に力を注いだ方が良さそうだ。


「1チーム目、西側の勝利!」


コールが聞こえたと同時に、私はミュートを解く。

すると、アリシア先輩が…


『クリシャちゃんがんばった!1年生であれだけ魔法使える方がおかしいから!大丈夫!』


と、私が異空間からテントに戻るまでずっと励ましてくれた。

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溜まっていきますねー!?そろそろ頭がおかしくなりそうです…

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