第21話 僕の逃げ場所

 どこをどう走ったのか自分でも覚えていなかった。ただ、家には帰れないと、ぼんやりとリミットがかかり、ぼんやりと歩いていた。

 そうして、たどり着いたところは、僕が昔通っていた小学校の裏山だった。そこは小さい頃、秘密基地を作ったり、植物採集したりして遊んでいた場所だった。しかしもう、何年も来たことがなかった。

 僕は学生服が汚れるのも忘れて体育座りをすると、眼下の街を眺めた。


 なぜ、こんなことになったのだろうか?

 ただ、武田に誘われて、遊びに行っただけなのに。

 彼らからすれば、それ自体が受け入れられない異常な状態だと言うことなのだろう。学校の有名人で人気者とクラスの陰キャがふたりで遊びに行く。それまで接点が無かった二人が、急に。その理由が分からないから、僕が何らか彼女の弱みを握って無理矢理デートに誘ったと、そう勝手に解釈したのだろう。

 馬鹿馬鹿しい、ドラマや漫画の見過ぎだろう。どこの高校生が脅迫をしてまで動植物園に行くのだ。行くならホテルだろう。いや、そういうことでなく、僕がそんな事をする人間だと彼らは判断したのだろう。

 行くんじゃなかった。

 別に恋人が欲しいわけではない。そもそも恋愛感情が分からない。

 平穏に学校生活を終えて、植物の関係の仕事につくのが望みだ。これまでと変わらない生活で良かったのに。クラスの中でそっと過ごし、卒業後、卒業アルバムを見て、こんな奴がいたかと、忘れ去られる存在でいい。


 それなのに、こんなことになるなんて。

 イジメらしいイジメなどない進学校だ。教師もどう対処したら良いか分からないだろう。それが、あのやりとりで分かった。

 教師はイジメなど無いと、もみ消すかもしれない。

 ひとりやふたりからのイジメならばともかく、クラスのほぼ全員からイジメを受けているということは、みんな口裏を合わせるだろう。そうなれば、学校はイジメを認識できないだろうし、したくないだろう。

 民主主義とは数が多い方が正義である。

 つまり、このクラスの中では僕が悪なのだろう。そうであれば、どう足掻いてもこのイジメは止まらないだろう。

 悪と認定した者には人々は容赦しない。ましてや僕のような異物であれば。

 どうすれば良いのだろうか?

 分からない。


「死のうかな」


 ただ、心のままにつぶやいた。


「死んだりしたら、だめ!」

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