第20話 僕が受けたイジメ

 教室に戻った僕は自分の机を見て、目を疑った。

 机の上には黒い文字で『最低の脅迫者』、『恥知らず』、『変態』、『クソ野郎』など所狭しと書かれていた。その上、教科書やノートにも同様の罵詈雑言の落書きがされて、床に散らばっていた。

 あまりのことに呆然としていると、黒柳が叫んだ。


「誰がこんなことをしたの? 彼が何をしたって言うの? 脅迫って何よ!」

「黒柳もこいつに脅されてるんだろう。安心しろ。俺達みんながあいつから守ってやるから」


 高橋がクラスを代表するように、僕の側にいる彼女に話しかけた。

 それはまるで正義のヒーローの登場のように、胸を張って堂々と、これをやったのは自分達だと主張しているようだった。

 なんで、そんな堂々と出来るのか? 僕が何をしたと言うのだろうか? こんなことをされるほど、ひどいことを僕がしたのだろうか?

 僕を守るように黒柳は高橋に食って掛かった。


「脅す? 守る? 何言ってるの? 高橋君、君がやってる事はイジメだよ。私、先生に言ってくる」

「イジメじゃないよ。これは罰だ。こいつが自分のやった卑劣な行為を分からせるためのね。これで、武田に何をしたか理解しただろう。可哀想に、彼女はショックで学校を休んでるじゃないか。でも大丈夫。もう明日からはまた、彼女が笑って学校生活を送れるように俺達がしてやるから」


 高橋はまるでヒーローにでもなったかのように、自信満々でそう言った。

 自分の独善的な妄想に酔いしれている。そう判断した黒柳は助けを求めるように他の生徒を見ると、みんな高橋の意見に賛成しているようだった。その証拠に女の子の一人が、僕から引き離すように黒柳の腕を引っ張った。


「黒柳さん、こっちに来なよ」

「何を馬鹿な……」


 黒柳はその手を払い、反論をしようとしたとき、5時限目の先生が教室に入ってきた。

 その教師は高橋達を見て教壇に向かいながら、手を叩いて言った。


「おーい、何を騒いでるんだ。授業を始めるぞ~。あ!? 菊池、どうしたんだその机は?」


 教師は、散らかった教科書や落書きをされた机に気が付いた。

 僕はどう説明しようかと一瞬、考えていた時、教師の前に座っている男子が説明し始めた。


「先生、菊池君が自分で落書きをしてました」


 それは高橋といつもツルんでいる男子だった。その答えにクラスの誰一人、否定しなかった。それどころか、くすくすと笑っていた。

 気が付くと僕は教室を飛び出していた。

 背中から黒柳の声が聞こえた気がする。

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