第18話 僕と高橋の朝

  次の日、僕が学校に行くと、いつもの朝の雰囲気ではなかった。

 どこかみんな浮き足だったようで、緊張感のある雰囲気だった。

 クラスメイトは声を潜めて話していた。

 そんな異様な雰囲気を感じ取りながら、僕は自分の席に着くと、カラオケ大会を主催した高橋がやってきた。

 カラオケで武田と黒柳の二人とペアになった事だろうか? あれは黒柳がやったことだし、もう、2週間も前の事だ。今更、何かを言われても困ると思っていると、思いもかけない言葉を投げかけられた。


「なあ、菊池。昨日、どこに行ってた?」


 その声は平穏を装いながら、まるでアリバイを確認している刑事のようだった。

 なぜ、彼が昨日の事などを聞くのだろうか? 僕と彼とは仲が良いわけではない。突然、僕の家に遊びに来て、僕がいないことに意気消沈して帰って行ったというようなこともないだろう。そもそも、もしもそんな事があれば、携帯に連絡をするだろう。カラオケの時にクラスのみんなで連絡先は交換しているのだから。

 僕は彼の意図が読めないまま、素直に答えた。


「動植物園に行ったけど」

「それは、お前、一人で行ったのか?」

「いや、武田さんとだけど」


 僕の言葉にクラスがどよめいた。陰キャの代名詞のような僕とクラスの、いやこの学校の有名人である武田が二人で出かけていたことに動揺が走ったのだろう。

 その反応を見て、僕はしまったと思った。武田に迷惑がかかると。

 一緒に出かけたのは事実なのだが、それによって、彼女がおかしな目で見られるのは不本意だ。

 僕は慌てて言い直そうとしたとき、それは不可能だと気づかせられた。


「見間違いじゃなかったのか。なんで、お前が彼女と一緒にいるんだよ」


 恐らく昨日の僕達を、誰かが偶然に見かけたのだろう。しかし、誰もそれを信用していなくて、高橋が代表して確認に来たのだろう。だから、僕が、『行っていない』もしくは『一人で行った』と行っておけば、気のせいで終わった話だろう。

 もう、ここから修正する事は無理だろう。そうであれば、本当のことを言ってしまった方が良いだろう。


「お礼だって」

「はぁ、あ~分かった。そういうことか。最低だな、お前」


 何をどう、理解したのかは分からないが、とりあえず高橋は納得して自分達のグループに戻って行くと何か話をしていた。

 まあ、納得してくれて僕はホッとした。武田がいないとはいえ、あまり周りが騒ぐといい気はしないだろう。

 学校で彼女に話しかけるのは避けた方が良いだろう。彼女に変な噂が立つのは心苦しい。

 そんな事を考えながら、午前中の授業が終わり、昼休みになった。

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