40. ベンの覚悟

「お前は……ボトヴィッド?」


 ベンは立ち上がり、男をにらんだ。今回の黒幕、倒すべき男がついに目の前に現れたのだ。


「ふん! 小僧にまで名前を知られるとは不覚じゃ。まぁ、今すぐこの世から消してやろう」


 そう言うと、ベンの目の前にワープし、思いっきりステッキでベンの顔面を殴りつけた。


 グフッ!


 ベンはまるで暴走トラックに吹っ飛ばされたように、縦にクルクル回りながら演台を砕いて弾き飛ばし、壁に叩きつけられ、跳ね返ってゴロゴロと転がった。


 十万倍の防御力があるものの、唇が切れ、血が滴る。肛門は少し決壊し、おむつに生暖かい液体流れているのを感じる。


 くぅぅぅ……。


 ベンは苦痛に顔をゆがめよろよろと立ち上がろうとした。


「ほう、まだ生きとるのか! もういっちょ!」


 ボトヴィッドはそう言いながらベンの顎を強烈に蹴り上げた。


 ぐほぉ!


 吹き飛んだベンの身体は壁に跳ね返され、天井に当たり、ステージに叩きつけられて転がった。


 ぐおぉぉぉ……。


 脳震盪のうしんとうで目が回ってしまっていて身動きが取れない。


 ピュッピュッ、と肛門を突破されているのを感じ、何とか括約筋で踏ん張り続ける。


 も、漏れる……。


 ベンのステータスは十万倍。強さで言ったら上だが、ボトヴィッドは管理者にしか使えない技、ワープを繰り出してくるので分が悪い。ベンは必死に勝ち筋を探すが、便意に意識を奪われてなかなか策が浮かばない。


 ボトヴィッドは周りを見回しながら、


「さて、この空間ごと葬り去ってしまうとするか……。うんこ臭くてかなわん。ただ、こいつは……」


 そう言うと、気を失っているベネデッタのところへ行き、顎をつかむと、


「うん、上玉じゃな。この女は今晩のお楽しみに使ってやるか、グフフフ」


 と、下卑げびた笑いを浮かべた。


 えっ……?


 ベネデッタが穢されてしまう、そんなことはあってはならない。便意に耐えることしかできないこんな自分を、好きだと言ってくれた可憐な美少女。自分はたとえ死んでも彼女は守らねばならない。


 ブチッ! と、ベンの中で何かが切れた音がした。


 もうこの身を捨ててでも彼女を助けねばならない。


 ベンはギリッと奥歯を鳴らすと、ふんっ! と気合を入れ、うぉぉぉぉ! と雄たけびを上げながら金属ベルトのボタンを連打する。


 十万倍で勝てなければ百万倍、それでも勝てなきゃ一千万倍、勝つまで上げていってやる!


 ベンはシアンの忠告を無視し、捨て身の戦法で勝負をかけたのだった。


 ポロン! ポロン! ポロン! 『×100000000』


 ベンの身体は一億倍の異常なパワーで自然に発光し、光り輝く。


 ぐぉぉぉぉ!


 脳髄を貫く強烈な便意。それは半分人格崩壊を引き起こしながらベンを襲った。


 ブピッ! ビュッビュッ!


 肛門からは不穏な音が絶え間なく続いていたが、ベンはユラリと立ち上がる。


 もう思考は崩壊し、何も考えられなくなっていたが、ベンは無意識にボトヴィッドの方を向いた。


「なんじゃ?」


 ベンに気づいたボトヴィッドは、ステッキに光を纏わせ、パリパリと放電させると、


「この死にぞこないが!」


 と、言いながらベンの前にワープをして思いっきりステッキで顔面を殴りつける。


 地響きを伴う爆発音が響き、


 ぐわぁぁ!


 という叫び声が続いた。しかし、叫び声を上げたのはボトヴィッドの方だった。


 ステッキは砕け散り、持っていた手が裂けている。ベンは無表情でぼんやりとその様を見ていた。


「な、なんだ貴様は!」


 ボトヴィッドは苦痛に顔をゆがめながら、距離を取り、管理者権限で手を治していく。


 反撃のチャンスではあったが、ベンは壮絶な便意にとらわれていて動けない。


 ボトヴィッドは指先で空中を切り裂き、異空間につなげると、中からぼうっと青白く光る刀剣を取り出した。


「これは管理者にしか使えない名刀『デュランダル』だ。空間を切り裂き、全てを両断する決戦兵器……、コイツで一刀両断にしてやるっ!」


 ボトヴィッドはそう叫ぶと気合を込め、刀剣を黄金色に光輝かせた。二人の戦うステージはそのまばゆい光で美しく照らし出される。


「今度こそ、死ねぃ!」


 ボトヴィッドはそう叫ぶと剣を振りかぶり、ベンの前にワープすると同時に一気に振り下ろした。


 目にもとまらぬ速さでベンに迫ったデュランダルだったが、ベンは素早く手の甲で払い、パキィィィンといういい音をたてながら刀身を砕いた。


 へっ!?


 驚いたボトヴィッドだったが、次の瞬間、ベンの右ストレートが思い切り顔面にさく裂した。


 一億倍の攻撃力は管理者特権の物理攻撃無効を貫通し、顎の骨を砕きながら吹き飛ばした。


 ゴフゥ!


 クルクルと回転しながら壁に当たり、戻ってきたところを今度は鋭い蹴りで腹を打ちぬいた。


 ぐはぁ!


 再度壁にしたたかに打ちつけられ、跳ね返ってゴロゴロと転がるボトヴィッド。


 無様な姿を見せるボトヴィッドに、


「し、尻を出せ……」


 と、ベンは無表情で命令した。

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