第3話 葵の上との関係のお話

 そのころ、藤壺の宮が出産のために里下がりをしていた。そうすると、兄はお会いできるのではないかと夜に出かけがちになり、左大臣家に寄り付かなくなっていた。私にも女房伝いに噂が流れてくる。


「二条院に人をお迎えになったそうだ。」


 それを、


「北の方の葵の上が良く思っていない。」


 と。

 わかりました。注意しろってことですね。と兄に文を出し呼び出した。


 兄が来て、御簾みすの内にて話をする。


「おにいさま、北の方のことどうお思いですの?」

「うん?いきなりだね。」

「わたくしの方にもお噂が入ってまいりますので、把握させていただこうかと、思いまして。」

「どんな噂だい?」

「二条院に紫の君をお迎えになられたことを不愉快に思っていると。」

「それか。わたしもね、彼女が普通の女のように恨み言を言ってくれるなら、説明もできるのにと思っているんだよ。」


 聞かれてないから言ってません。とな。


「でも大切にお思いなんでしょ?」

「ああ。あの君は、不十分な、満足できない欠点など何一つ持ち合わせていないし、何と言っても一番最初の女性であるからね。いとおしく大切には思っているんだ。」

「まあ。言って差し上げればいいのに・・・」

「私たちは正式な夫婦だし、きっと思い直してわかってくれるだろうと思っているんだ。あの落ち着いていて軽薄さのないご気性は頼りがいとして格別だとも思っているよ。」

「特別なお方なのですね。」

「ああ。伝わらないがね。」

「伝えて差し上げてくださいまし。」


 本当に。物語の筋は変えられないが、少しでも幸せを感じてほしい。一番気兼ねなく幸せになれるはずの人なのだから。


「そうだね。頑張るよ。」

「二条院にばかりおいでなのですか?」

「二条院の紫の君はね、とてもかわいらしくてね。おばあ様をなくしたばっかりだから、私が二条院にいないと恋しがるんだ。母のない子を持ったような気持ちになるんだ。」

「あら?二条院以外のどこにいらっしゃっているのですか?」

「・・・」

「おにいさま?まさか三条の宮へ?」

「ご挨拶に伺っただけだよ。お会いできないかと様子を見たりもしたが・・・」

「なにもありませんでしたのね?」

「ああ。ただ、兵部卿宮がうらやましくてね・・・」

「羨ましいとは?」

「御簾の内に入れてもらえて直接お話できるではないか。」

「それは、同母ですし・・・」


 何を言っているんだろう。私たちとそのまま同じ関係なのだから当然だろう。


「ままならない世の中だ。」

「そうですわね。」


 そんなことよりも、少しでもいいから葵の上と仲良くしておくれ。後悔するのはあなたなんだから。

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