紅葉賀
第1話 朱雀院の行幸の試楽
話は遡る。去年の秋の話だ。ちなみに私は17歳、兄は18歳である。ちょうど紫の君の祖母の尼君が亡くなったころの話だ。
夫が、父からの文を携えて帰ってきた。
「姫宮、これを。帝からのお文だ。」
「ありがとうございます。」
わたしは文を広げて読む。そんな私を夫はニコニコと見ている。書いてある内容を知っているのだろう。
「行ってもよろしくて?」
「もちろんだよ。楽しんでおいで。帝も君に会えるのを楽しみにしていたよ。」
私は久しぶりに宮中に参内することになった。
当日、父にも前もってお願いしていたので、私の席は弘徽殿女御の横に設えてもらった。女房たちは怯えているが気にしない。
「おひさしゅうございます。弘徽殿の女御さま。」
ちょっと無作法だが、
弘徽殿女御が几帳をずらすように指示してくれたようだ。すり寄ってくる人に対してひどいことはしない人だよね。
私は
「姫宮さま、どうかされまして?」
政治の派閥違うのに親しげに話しかけたら不思議だろう。でもめげない。
「密かにお母様のようにお慕いしていた弘徽殿女御さまがお隣にいらっしゃると知って、つい話しかけてしまったのですわ。」
白々しいかな?でも私は、
「まあ。そんな風にお思いになってくださっていたなんで驚きですわ。」
とにっこりしてくれた。
「わたくしは源氏の君と同母ですので、嫌われてると思って遠慮しておりますの・・・」
と言ってチラッと見る。
「まあ。」
うん。いけそうだ。もう一押し。
「これからは季節ごとのご挨拶にお手紙を差し上げてもよろしゅうございますか?」
「ええ。よろしくてよ。」
と言ってにっこり笑った。
ふう、一仕事完了。
「あ、始まりますわね。」
「ええ、お兄君がご活躍ですわよ。」
几帳が元の通りに直された。
「・・・」
初めて頭中将を見るのだけれども、確かに顔かたち他の人よりも優れてるし、動きも優雅だ。ただ、確かに兄と並ぶと桜の横のただの木なのだ。その他大勢に見える。かわいそうに。
兄が、詠唱しだした。
グスン、ズル、うっ、グスン
え!?いろんなところから、泣き声が聞こえる。みんな感動して泣いているよ。さすが平安貴族。もちろん父君も泣いている。
「神など、空にめでつべき
ひぃ。隣から聞こえた声に全身に鳥肌が立った。
神隠しに合いそうな容貌だ。気味が悪いって。
怖いよ・・・。
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