閑話 空蝉の君 後日談

 夕顔の君との恋の合間合間に、この二人の影がちらっと見える。といっても軒端荻のきばおぎはおまけのような扱いだが。


 先日、神無月かんなづき朔日ついたち、かの伊予介いよのすけが任国へ再び下ると聞いた。


 伊予介といえば、普段は任国にいるのだが、こちらへ帰ってきていたそうだ。伊予介は兄の一派と言えようか、息子を兄に仕えさせていることもあり、家来めいた関係だ。だから、任国から帰ってすぐに二条院へ挨拶に来たそうだ。

 その日、兄が聞いたのは、

「娘を適当なものに預けて、北の方を連れて任国へ下るつもりだ」

 ということだ。娘、軒端荻は結婚させて、北の方、空蝉うつせみの君は伊予へつれていく。と。

 兄は慌てたことだろう。二人にもう会えなくなる。と。

 伊予介も気の毒な人だ。妻にも娘にも手を出されたのだ。本人が知らないのがまだ救いである。知ったところで身分差もあり、抗議も何もできないのだから。

 そして、そのどちらとも会えはしなかったが、歌の贈答をしていたそうだ。寝込んでいた時もお見舞いの歌を貰えたらしい。

 ひどく悲しい目にあっても、女性に対する気の多さは相変わらずなようで安心する。


 そして、神無月の朔日だ。

 兄は、伊予介一行に餞別を送った。その中に兄が隠して持って帰った小袿も入れておいたそうだ。

 かくして、空蝉の君は光源氏を振り切って、伊予まで逃げ切ったのである。あっぱれだ。

 ちなみに軒端荻は蔵人少将という人と結婚した。


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