第3話 雨夜の品定めの話2

 兄・光源氏が語る。

中の品なかのしなというのはね、成り上がった家・もともと上流階級で落ちぶれた家・受領ずりょう階級のことをいうんだ。」

「そうなんですの。中の品の方々のなにがよろしいんですの?」

「姫宮には何も関係がない話だろう?」

「そんなことありませんわ。もし、背の君に先立たれ、娘しかおりませんでしたら、娘ともども落ちぶれるしかありませんもの。参考までにお聞かせくださいませ。」

「大丈夫。その時はこの兄が後見して差し上げよう。娘がいたら時の帝の后にでもしてあげるよ。この屋敷で不安なら、兄の屋敷へ来るがいい。」

「まあ。さすがおにいさま。頼りになりますわ。それでもお聞かせくださいませ。」


 知っている。光源氏は自分と関係のあった女性が困っていたら、引きとって面倒をみる人だ。心配なんてこれっぽっちもしていない。ただ私は雨夜の品定めの話が聞きたいのだ。


「残念ながら、落ちぶれた家の話はあまりなかったんだ。ひっそり荒れ果てた家にこんな人がっとなるのが珍しくていいとか、親兄弟が見苦しいのに本人だけがきれいなのもいいとかそういう話だったよ。あとは金銭に余裕のある受領階級の娘はけっこういいだとかかな。」

「あら。参考になりませんね。」

「そうでしょう。男から見てどこに素敵な女人がいるかって話だったからね。」

「おにいさまの参考にはなりましたの?」

「さてね。」

 参考になったの知ってるよ。ふふと笑うだけにとどめておいた。


「あとはどんなお話をいたしましたの?」

「ほかは、彼らの過去の恋の話さ。」

「お聞きしたいわ。」

「ダメだよ。」

「一番印象的でいらしたのは?」

「頭中将の常夏の女の話かな。」

 夕顔の話だ。聞きたい聞きたい。

「中の品の方でしたの?」

「そうだよ。」

「どんなお話ですの?」

「簡単にだけだよ。長いこと通っていて、愛していた方がいたけど、足繁くは通わなかったんだって。北の方もその方になにかしていたみたいで。それで最後に会った時に、庭を眺めて泣いていた。しばらくして次会いに行ったら、いなくなっていたそうだよ。」

「まあ。なんてこと。」

「娘もいたようで、もう一度会いたいとお思いなようだ。」


 あなたが見つけるんですけどね・・・


「とても切ないお話ですわね。」

「ああ。君の参考にはならなかっただろ?」

「はい。でも、興味深いお話でしたわ。また色々なお話をお聞かせくださいませ。おにいさまの体験談でもよろしくてよ。」

「わたしの姫宮は好奇心旺盛だな。」

「ふふふ。」

「さて、左大臣邸に向かうとするか。」

「そうですわね。おにいさまには上の品うえのしなの素敵な北の方がいらっしゃるのですし。」

「正妻としては、信頼もできるし申し分のない方だよ。」

「それなら、大事にしてさしあげてくださいまし。」

「わかったよ。」


 さて、中の品めぐりにいってらっしゃいませ~心の中で手を振った。

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