第2話 雨夜の品定めの話1

 兄がまたやってきた。さあ、昨日も一昨日も雨だったよ。あったんだろう。雨夜あまよの品定め。心はギラギラしているが、顔に出さないように気を付ける。

「おにいさま、何か変わったことございまして?」

「うん。まあ・・・」

 言いにくそうだ。好き勝手に話していたんだものね。

「わたくし、おにいさまや頭中将さまのお噂をお聞きするたびに、うちの殿にもそういうことがあったらどうしましょうと思いますのよ。」

「かの君に限ってそれはないよ。」

 私もそう思う。

「参考までに男性が女性をどう見てるのかお教えくださいまし。」

 かわいい妹のおねだりに勝てるなら、勝ってみろ。

 思った通り、兄の負けだ。

「これは、私の意見ではないよ。」

「はい。」

 

 今日は兄は一人なので御簾みすの中に入ってもらった。几帳きちょうはある。几帳も押しのけたいところだが。

「先日ね、また宿直をしてたんだ。そこに頭中将がやってきてのんびりしてたんだ。

 そんな時に、彼が、私の厨子ずし(書棚)を見たいというものだから、どうせ差支えないものだしと思って見せたんだよ。」

「まあ。他人との文をお見せになったのですか?わたくしのも?」

「大したものはなかったからね。君からのは見せていないよ。」

「ようございました。」

 頭中将に情報を与えないでほしい。興味を持たれたら終わりだ。

「お返しに彼のも見せてくれと言ったんだけど、そうすると彼が語るんだ。

 なかなか理想の女性はいないって。自分が優れていることを鼻にかけて他の人を見下す女性は見ていられない。って。」

「そうなんですの。」

「親に大切にされている女性ほど、欠点が隠されていて、付き合っていくうちに本性が見えきてがっかりしないことはないって言ってたよ。何かあったのかな?」

 あったんでしょう。きっと。頭中将も失敗談おおそうだもんね。

「かもしれませんね。お気の毒に・・・」

「ね。そして、ちょっと気になって聞いてみたんだ。「一つも才能がないひとなんているのか?」って」

「まあ。」

「そうしたら、そんな人のところには騙されて寄り付きようがないってさ。そういう人と完璧な人は同じぐらいいるはずだ。と言うんだ。」

「まあ、そうなのかしら?」

「どうだろう?上の品うえのしな(上流階級)の女人は、大切に育てられて、人目につかないので、様子が自然と格別だと。中の品なかのしな(中流階級)の女性は個性があるって、下のきざみといふ際(下流階級)には興味がないってさ。」

「まあ。物知りでいらっしゃるのね。」

「わたしもそう思って、もっと聞いてみようと思ったんだ。」

「おにいさまは何がお気になりになったの?」

「中の品ってどういう人たちのことを言うのかなと思ったんだ。」

「そうですわね。どういう人たちのことを言うんですの?」

 わくわくと私は先を促した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る