第5話 先帝の四宮(『桐壺』藤壺の宮の入内)

 兄は源氏に臣籍降下してもなお、父の鍾愛の息子だった。ほとんどの時間を父と過ごす。

 そして、その父には問題があったのだ。愛する妻を失い失意のどん底。もし現代にいたら誠実で素敵な人だと思いますよ。だが、しかし、時は平安、しかも父は帝。そのうえ、摂関政治などではなく親政しんせいつまり天皇自ら政治をしている天皇なのだ。左右大臣の藤原氏とはバランスをとっているし、恋に溺れたこと以外はいい天皇なのではと思う。

 史実の醍醐天皇しかり、親政を行う天皇には女御更衣がたくさん。みんな天皇と縁が欲しいわけです。何年も落ち込んだままの天皇を助けようと、たくさんの女性が紹介されたわけです。紹介と言っても入内。見向きもされなかった女性かわいそう。


 そんな時、父桐壺帝に仕える典侍ないしのかみが言うわけです。

「とても似ている人がいます。」

 と。


 どんな人か

 先帝の四の宮(内親王)の

 御容貌おんかたちすぐれたまへるたきこへかくおはします(めっちゃ美人って評判)

 母后(母は中宮!私と違うよ!結婚しなくても優雅に暮らせる)

 世になくかしづききこえたまふ(すごい大事にしてる)


 て原文には書いてあったよ。同じ女四宮でも、更衣腹(母が更衣)と后腹(母が中宮)の先帝の四の宮、のちの藤壺宮じゃ、天と地との差があるわけです。


 というわけで、父は入内しませんか?妻になりませんか?と誘うわけなんですけど、そこは母の中宮が強い。

「いじめられて亡くなった人(桐壺更衣)がいるところに大事な娘をやるなんておそろしい。」

 とのらりくらり交わしてくれるんですね。

 やっぱりいいなあ。身分の高くて後見のしっかりしているお母様。私も欲しい。

 こんなしっかりしたお母様がいるのに、どうして入内じゅだいするようになったのか、このお母様なくなっちゃうんですね。


 この先帝の后が亡くなったあと、また父が入内を誘います。

「私の姫宮たちと同列にあつかいますから・・・」

 そらそうだ。のちの藤壺の宮さまは兄、光源氏のたったの5歳上。父の女四宮の私の6歳上だ。私たちには異母姉は3人、異母兄が1人いるのだ。もしかしたら一番上の方の方が年上かもしれない。まあ平安時代、男性が上の年齢差はあまり気にされないみたいですが。

 と熱心に口説く父と、后腹なのになぜか東宮になれていない、藤壺宮の兄宮の兵部卿ひょうぶきょうの宮の後押し。妹が今の天皇の中宮になったりしたら権力が手に入るかもしれないからね。あと周りの人々の勧めもあって入内されることになりました。


 その結果

 御容貌かたちありさま(見た目・様子)あやしきまでぞおぼへたまへる(びっくりするほど似てる)

 御際まさりて、おもひなしめでたく (身分が高いから、そう見えてすばらしい)


 そっくりなうえに身分が高くて素晴らしい。

 桐壺更衣と違って身分が高いから寵愛して問題なしと見て、周りもいじめたりせず尊重してくれるから、本人も満足。

 桐壺帝も、桐壺更衣を忘れたわけではないが、これはこれで愛しいって心慰められたそうだ。

 よかったね。

 そうして、日々が過ぎたころ。兄の光源氏が訪ねてきた。


「姫宮、藤壺の宮様にお会いしたよ。素晴らしく美しくかわいらしい方だった。私たちの母によく似てるそうだ。」

「そうなんですね。」

「本当におきれいな方で、お優しくて・・・」

 はい。初恋いたしておりました。私が引きこもっている間に、父と一緒にお会いして、母と似ているというところから始まって、執着しはじめておりますね。私はしりませんよ。物語の流れを変える気はないのです。モブとして埋没したいのです。

 それでも、先を知っているだけに、あーあという気持ちにはなる。

「どうした姫宮。今度は、兄と一緒に参ろうではないか。姫宮もきっと好きになるよ。父君も、仲良くしてくれるようにお願いしてくれたんだよ。」

「はい。そうですか。」


 だが、前世は源氏物語オタクのこの私。藤壺宮は見てみたい!

「ぜひ、ご一緒させてくださいませ。お兄様。」

 兄と一緒に藤壺宮を訪れることになった。






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