第2話 身の振り方

 さて、そろそろ現実逃避をやめようと思う。

乳母めのと・・・」

「はい、姫宮さま。どうされました?」

「お兄様はおいくつなの?」

「兄宮様、二宮様は姫宮様の一つ上の六つでございます。」

「むっつ。」

 頭の中にある、源氏物語の年表を開く。光源氏が6つということならば、母桐壺更衣きりつぼのこういが死んで3年か。桐壺更衣の母北の方は、生きているのかな?

「おばあさまは・・・」

「先日お亡くなりになりました。ですからお二人は内裏だいりに引き取られたのです。」


 光源氏が生まれる。

 私が生まれる。

 母桐壺更衣がなくなる

 桐壺更衣の母の北の方がなくなる

 内裏に引き取られる。←今ここ

 という具合だろうか。


 私の知っている源氏物語と同じ流れのようだ。私、もとい女四宮という存在がいる以外は。

 そもそも、桐壺帝には女三の宮までいなかった気がする。出てこなかった、もしくは覚えてないだけかもしれないが。


 それでは、これからどうするか。

 母は更衣。天皇の子を産んだので御息所みやすんどころと呼ばれる。死んだあとに女御と同じ身分にされた。

 でも、しょせん更衣。天皇の后妃では下の身分だ。私が一品いっぽんの宮となってお金や土地をたくさんもらって優雅に暮らせるということはないだろう。もし、運よくお金をもらえても、はかばかしき後見うしろみがないと書かれているように、後見してくれる縁戚がないので(いても権力がない)危険だ。


 じゃあ、どうするか。降嫁だ。更衣腹こいばらとは言え皇女、大事にしてもらえるだろう。ただし、年代は違うが、柏木かしわぎのようにほかに臨む皇女がいる場合は別である。調べる必要がある。なんせ、物語にでてきた男性は碌なのがいない。

 あとは、藤壺宮ふじつぼのみや弘徽殿女御こきでんのにょうごの猶子(養子)をめざそう。そうすれば、降嫁をしても無下に扱われないはずだ。いや、どちらも日陰の身になることがあるので微妙か。もし、猶子になったとしても、継子いじめが行われると困る。弘徽殿女御のほうが姉宮がいるので危険か。とりあえず、会ってから考えよう。父君に会わせてもらえるよう交渉しよう。藤壺宮にいたってはまだ入内していないしね。


 もしくは、光源氏に激似の妹と触れ回ってもらって求婚されるのを待つか・・・。平安貴族は噂で恋をするから、噂さえ流せば勝ちだろう。ただし、垣間見かいまみされまくって困るかもしれない。のぞかれるのはいやだな。数人の女房は絶対そばにいてもらおう。

 琴や和歌の練習をしなければ、光る君の妹なのにっと悪口をたたかれかねない。恐ろしい。

 大体の方針は決まった。後は行動あるのみ。と言っても平安時代のお姫様は引きこもりだから、父君に手紙を書くことにした。


 乳母に、時間があったら会いにきてほしい旨を文にしたためてもらう。

「こんなことをお書きにならなくても、帝はいらっしゃいますよ。」

 と乳母はいうが、私ははやく会いたいのだ。


 その日の夕方、帝は桐壺に来た。いいのか。女御更衣あまたさぶらひたまひけるじゃないのか?

 とも思ったけど、亡き愛妻の忘れ形見への優先度は高いのだろうと思うことにした。

「姫宮や、この父に話があるのかい?」

「はい。私、おたあさま(母)が欲しゅうございます。」

 あ、間違えたかもしれない。桐壺帝の顔が悲しげにゆがんだ。

「父だけじゃダメかい?」

「ほかの姫宮にはおたあさまいらっしゃるとお見受けします。宮にもおたあさまをくださいませ。」

「そうかい。そうかい。」

 考え込む桐壺帝。

「その話はまた今度にしようね。」

 ちっ、そんなに簡単にいかないか。光る君は一緒について行っていろんな人に可愛がられていたって描写があるのにな・・・

「宮も兄君のように、お側にいとう存じます。」

「そうかい。」

 父の顔が明るくなった。こっちから攻めればいいのか。桐壺帝のニコニコ顔をみてうまくいきそうな気がした。


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