シアの辿り着いた場所①〜何でタツァがウロウロしてんの?

「蘭子、先に言っておきたい。世間にはタツァのヴァカァが尻の穴がどうしたとか言って騒いでいるせいで誤解を生んでいるけど、どうやら私は…始めてのエッチはタロァだった。私が…騙されていた時は本能で必死にお尻で誤魔化してたみたいなんだ…」


「シアさ、それはそれでヤバくない?誤解じゃないし…」


 私はとりあえず蘭子を睨んだ、そういう所もタツさんに似てきたねと言われて余計に腹がたった。

 

「と、に、か、く!誤解!だから!初めてはタロァ!」


「分かったよ、分かった!それで…私に何を聞きたいの?それより私のほうが聞きたい事、沢山あるんだけど?」 


 私は首を傾げる、私の事なんか知ってどうする?


「そういう所だよね、シアは。」


「良く分からないけど…とにかくタロァだよ、タロァ。蘭子なら分かるでしょ?私のここまでの道程を…」


 ため息をつきながら蘭子が缶チューハイを飲む…コイツ…人の相談を…


「あぁ…まぁ…ね。でもまぁ良かったじゃん、おめでと」


「何か軽い!とにかく…タロァに好かれたいの…絶対に嫌われたくない…どうすれば良い?」


「いや…どうもこうも、大人の恋愛を愉しめば良いんじゃない?もう、どちらも高校生じゃないんだから」


 私は本当に困っていた…だってタロァは昔から自分の事を話さないから…

 やっと叶った願い…しかし問題は山積みだ。


 距離も心も、離れて気付いた…私にはタロァだけ。

 タロァの為なら何でもする。


 しかし、私は芸能界から引く話をしたら『せっかくだからやれるところまでやるのも良いんじゃないかな』とか言う。

 

 私がタロァ好みの女になると言ったら『シアはシアのままでいてくれよ、俺の好みとかにならなくて良い』とか言う。


 不安だ、不安で一杯だ。ついつい仕事中のタロァを覗いてしまう。

 最近、サラは免許を取り古本屋で働きながらタロァが前に乗っていたバイクを直しているらしい。

 タロァは鬼頭さんとやらのバイク屋で働いているが、そこでサラと一緒に直している…羨ましい…


 タロァを信じている、信じられないのは常に自分。高校時代、どうにも出来なかった…そして今も何も出来ない自分だ。



 今日はモデルの仕事…歌もそうだが正直何でやってるのか分からない。

 写真の前で編集やカメラマンが必要だと思うポーズをとる。

 他のモデルに言われる。

【どうやったらそんなにキメられるんですか?】


 そんなの分からない。高校時代にこの世界に入って、言われた事をやってたら出来た。

 歌もそう、コツを教えられそれを実践するだけ。陸上もそうだった。


 やってすぐ出来るのは選ばれた人間だけというが、勝手に選ばれた人間にされた本人が一番当惑している。


「どうしよう…頭がおかしくなる…」


 心が弱くなる…そしてこんな時に限って…




――対魔忍だよ、男は大体、対魔忍が好き――




「タツァッ!うるさいっ!どっか行けっ!」


 ザワワ…シアさん、どうしたの?…


 回りの若いモデルが引いている…いけない…私はタロァと付き合ってから余計な敵を作ったり変に目立つのをやめたんだ。

 少し前の、誰彼構わず噛みつく私は止めたんだ。


「ごめんなさい…ちょっとイライラしちゃって…」


 私は手でゴメンネとポーズを取りながら控えの部屋を出る。


 今日の撮影は終わり、仕事が終わったらタロァの家に行く予定だ。

 家代わりにラビィというデザイナーから借りた倉庫に荷物を取りに来る…と…例の赤い変な全身タイツみたいなのが置いてあった。


「タツァ…私、絶対こんなの着ないから…」


 椅子に座りコーヒーを入れて飲む…落ち着け…落ち着け…


――タロァマンに好かれたいんだろ?だったら対魔忍――


「タツァ!そんな訳あるかぁ!バカァっ!」


 どうせどっかに潜んでいて…私に語りかけてきてるんだろう…


――タロァマンも言ってたなぁ…対魔忍、良いですねってな――


 ホントに?いや、騙されるな…そんな訳…


――襲ってくるだろうな、間違いなく。オークのように…な――


 タロァが…襲ってくる!?


――あぁ、そしてお前は合体したままアヘ顔で待を練り歩かされるアイドルになる、アヘ顔で――


 そんな♥!?タロァ街中は駄目だよ!

 タロァ…そんなに我慢出来ないの!?♥

 気付けば変なピンク色の全身タイツを着ていた…我慢出来ないのは私だった。


――それを着てダクトから中に入って登場しろ、そしたらタロァが…――


「タロァ!待ってて!すぐイクから!」


「オーイ、シア…コレ着テイケ!ソノ、カッコウデ ソトヲウロウロ ダメダヨー」


 レビィが何か言ってコートを投げてきた。そうだ、タロァにバレない様にしないと…バレないように?


 様々な矛盾を感じながら、それでも外に飛び出していた。



 〜そして今、換気口の中からタロァの仕事風景を覗いている。

 タロァとサラがバイクを弄っている。

 サラは大分、変わった。

 古本屋を営みながら、自分のバイクを改造し、バイクの絵を書いている。


 生き物は空想であっても、もう書けない。

 書きたくない。

 将来はバイクのデザイナーに、今ある大事な物に命を吹き込む人になりたいそうだ。


 格好や性格も大分ラフになった。

 ツナギに編み上げブーツを履き、髪を後ろで結び活発な雰囲気な女になった。


「先輩、ここどうすれば良いですか?」


「ん〜鬼頭君の話だとコッチで代用出来るって聞いたけど…なんせ古いからね。それに事故車だし…」


「ハハハ、諦めませんよ!サヴェージ君を生き返すんですから、いつか絶対!」


「そうだな…サラ…ありがとな…色々と。」


「良いんですよ、そういうのは!自分の為ですから!私が愛したのはサヴェージ君だったと気付いたんです(笑)」


「ええ!?そうなの?そりゃ勝てんわ(笑)」



 ……………なに…良い雰囲気になってんの?タロァ?私の事、好きって言ってたのに?

 サラもおかしくない?そんなんだったら私に…


「はぅ!?だめ…駄目よ…顔が…」


 ダクトのアルミに自分の顔が反射して見えた…殺人エルフ…意味は分からないがとにかく殺人事件を起こしそうな顔をしていた。


「シア!?」「お姉ちゃん!?」


 バレた!?


「ヴォアッ!?違う!わた!オレはタツだ!」


「「え?」」

「いや、良いから降りてきなよ」


「ちが!私はタツァ!あぁ!」ドサッ


 タロァにダクトから引きずり出された…

 彼氏と妹のいた密室に、変態全身タイツヒーローコスプレで現れた私…恥ずかしい…


「お姉ちゃん…その格好は…それに何で換気扇の穴みたいな所から覗いていたの?」


 私はサラに…尊敬されるお姉ちゃんであろうと思って、頑張って来たがコレは言い逃れ出来ない…


「いや…ごめん…コレは…「アハハハハハ!先輩の言ってた通りだ!ホントだったんですね!」


 私は急に笑い始めたサラに驚愕した。

 今までも色んな事が…罠があった…もしかしたらここまでが全て罠?私の尊厳を目茶苦茶にするための…


「え?いや、お姉ちゃん、それは流石に駄目だよ(笑)隠して隠して!でもアレだね、メグミちゃんと同じだ、これからは先輩の事、外でも義兄ちゃんって言わないと駄目かもね(笑)」


 何が駄目?目線を追うとそこには股部分が前開きになっており落ちた拍子に足が開きアレを丸出しにした哀れな姉の私がいた…


 パタンッ!


「違うっ!サラ!コレは違う!コレはタツァがあの!その!」


「良いんだよ、お姉ちゃん。無理に取り繕わなくて(笑)先輩から聞いてたの。先輩の前でのお姉ちゃんの事」


「え?タロァから?私の事?」


 どんな事を言ってたの?


「それが本当のお姉ちゃん何だよね?自然体のお姉ちゃん…もう私にも周りにも取り繕う必要はないんだよ?それにお母さんも、もういないから」


 お母さんの事を言った時、サラが少し複雑な表情をした。


 お母さんの前では、私は何でも出来る姉。

 そしてサラはお母さんにとって何も出来ない妹だった。

 今、まだ丸メガネはかけてるけど独りで頑張っているサラを見て急に情けなくなった。

 タロァが優しく笑って手を伸ばす。


「いや、流石にコレは本当のシアじゃないだろう…この格好とか換気の穴から出てくるのはタツさんになんか言われたんだろ?」


――正解だ…タロァマン、流石オレに似ているとヒロに評価された者也――


「タツさん!?いや、似てないっすよ!?子供の時のタツさんにちょっと似てるって言われただけ!今は全然!」


――自分に似てると言われて全力で否定されたらオレが傷付くと思わないのか?まぁ良い…愚かな弟子、シャーよ、お膳立てはしたぞ…頑張れ…あ、ヤベ――


 ガシャァァァン


 突然置いてあるバイクが倒れ、サラがビックリしてスパナを構えた。

 と思ったら高速で動く人影が出ていった。


――弁償はしない、決して弁償はしないぞ!――


「何だったんだ、あの人は…」


 全員、影が出ていった方を見ていたが、サラが私に微笑んで片付け始めた。

 

「まぁ…色々あったし昔の事は、昔の事だから。お姉ちゃんも忘れてとは言わないし、私の前でも奇行をしろとは言わないけど、別に隠さなくて良いと思うよ?私にも、世間にもさ」


「え、いや…う…あう…」


 何も言えなかった、何も出来なかった…


「じゃあ2人共、また今度ね〜!お姉ちゃんも同棲するまでは倉庫じゃなくてうちに来れば良いじゃん。お祖母ちゃんもいるし、待ってるよ!」


 クルクルクルとスパナを回して去っていく妹…


「あーいおつかれー!シアもお疲れ様。今日も仕事だったんでしょ?じゃあさっさっと片付けてうちに行こうか?」


 わ、私…この格好のまま?そうか、タロァも表立ってこの格好を好きって言えないもんな…

 いそいそコートを取りにバイク屋の外を出る。


「おや、シアちゃん?太郎のお迎えかウワァ!?」


「鬼頭さんこんばんは!またゆっくり来ますね!」


 鬼頭さんに遭遇したが、対魔忍姿が不味かったのか、驚いていたのですぐ逃げた。


「おまたせ、じゃあウチ行こうか?ご飯食べた?今日は家に2人共居ないから何か買って帰るかぁ」


 タロァは今、メグミの家族と一緒に住んでいる。

 タロァの義理のお母さんが少し前に再婚した。

 その後、義母さんの妊娠が発覚したが、メグミがすぐに家から出てしまった為、タロァがお手伝いをしているらしい。


「元気な赤ちゃん生まれると良いね」


「そうだなぁ、弟か妹か、どっちなんだろねぇ…メグミもたまには帰ってくれば良いのにな」


 何気なく言ったがタロァとは血が繫がっていない兄弟、家族…それを受け入れ、愛しているタロァ…


 私が芸能界で色々知り、経験したように…タロァも色んな事を経験していた。

 私はそんなタロァを何処か尊敬の眼差しで見ていた。


――クソ芸能人、その名はシャー…『こんなのファンにバレたら大変だょー』なんて舐めた脳みそのシャー…余裕ですね――


「タツァっ!黙れっ!」


「え?何処までついてくんの?もう家に帰るよ俺等?」


――一般人と付き合ってあげてるんですよ、私…的な思考のシャーよ、神話になれ(笑)――


「そんな訳あるか!失せろタツァっ!!」


 ロマンチックなタロァとの時間はいつ訪れるの!?


 

 

 

   

 

 




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