人生でいちばん長い日〜恋愛教授の最終講義、そして快楽エルフと夢の動物園―成人の日②

「聞け…タロァマン…オレの話を…最後の講義を…」


 最後の講義とは何だろう?

 この人はすぐ何かに影響を受けるらしいからまたなにかに影響を受けたのだろうか?

 いや、それよりシアがゆっくりだけど、出て来てるから見たいのだけれど…


「見ろ…あのボワッとした顔…あの殺人エルフは…肉欲エルフは…頭がイカれてる…キ…顔ですわ…」


 この人が言うか…いや、そういう言い方は良くないな。


「この間…シアと…電車乗ったんだ…オレが座って…シャーはオレの前に立って吊り革持ってて…そしたら酔った少し悪そうな若者が…いっぱい乗ってきた…十人ぐらいの…男女が混ざった感じの…」


 え?なんの話をしてるの?


「オレは…ヒロがいないと…怖いし人見知りだから…必死に座席の棒に密着しながら…寝た振りをしていた…そしたら近くで騒ぐんだ…アイツラ…」


 あぁ…まぁ…それは嫌ですね…


「で…酔ってるからアクションが大きく…たまにどんってオレの身体に当たるんだ…友達の酔ってる奴をカメラで撮ったり…オレを挟んで…そういう時…オレは息を止めて寝た振りをする…そしたらシャー…何したと思う?…」


「いや、わかんないっす…」


「聞こえる様にな…『チッ!』って舌打ちしたんだよ…舌打ちじゃないな…『チ』って発音した…言った…やめろって…思った…刺激は…」


 なんて言えば良いんだ?そもそもこの人は世界最強じゃないのか…


「分かるだろ…タロァマンは…あの感じ…悪目立ちじゃない…無意味に…嫌な感じで目立つ感じ…ヒロもやるんだ…中学の時も…電車でいきなり…『騒ぐと殺すぞ』って…立て籠もり犯や銀行強盗じゃ…ないんだから…」


 ヒロさんが言った『今、何でそれを言う…』


「タロァマンなら…わかるだろう?…シャーは…一人の若い女の頭を…掴んで…走ってる電車の窓から出そうとした…『女ならうるせぇのとめろよ、近付いたら女落とすぞ。お前らのせいで私は…』とか言いながら…自分が上手く行かないのを人のせいに…オレはな…勇気を振り絞って…シャーを掴んで電車から飛び降りた…シャーはオレに…ブチギレたよ…殺す気か?と…そりゃお前だろ…って…」


 この人は…ウンコ我慢してんだよな?


「…タロァマン…お前はオレと同じだ…とんでもねぇもんに惚れちまった…惚れられちまった…オレは…ヒロに…ついて行くしか無かった…追い付くために…変わるしか…狂うしか無かった…お前は…逆だが…変わるんだ…お前があの狂ったエルフを…支配するんだ…あの変態エルフも…それを望んでいる…もうお前の言う事しか…ありゃ聞かん…」


「良くわからないですが…それはどうやって?」


「ヒロがオレにしたように…押し倒せ…押し倒して…おっぱいもんだり 股間を連打しながら…『言う事を聞け』『俺に逆らうな』って言え…ヒロがオレに…したように…ロッカーや…狭い所に押し込め…ヒロ狂ってるよ…ヒロやめてって言ってるのに…やれ…やるんだタロァー…嫌よ嫌よも…好きのう…ち…ヒロやめっ!?好きのうんちいぃっ!?ちょっと…出…」


 プリ


 ヒロさんが下腹部に拳を押し込んで『黙らないと殺すぞ』と、銀行強盗と同じ事を言った…後、変な音がした…


 そして壇上のシアはマイクの前まで来ていたが上を向いてぷるぷるしている…同調って…まさか漏らした!?


「もう一度言う…オレと同じだ…オレは…子供の時からヒロと恋人になるんだと…少女漫画を見てずっと思ってた…オレは大人しい女の子だったんだぞ?…ところがどっこい…ヒロは色物か少年のケツしか好きじゃなかった挙げ句もう一人の出来る女風のイカ臭え奴に堕ちた…オレは…試行錯誤した…結果的には狂った…ヤケクソにもなった…それが…今のオレだ…それでも変わったから付き合えた…しかも付き合ってもヒロが叛逆王とか怒絶望大帝とか呼ばれて、漫画の十三何とかとか十本何とか色物…みたいな売春王(アイカ)やら変態王(イクエ)やら糞臭王(ネコ)やら昆虫王(暗転)やらがヒロを狙い…性癖は今話題の少年のケツ…今なら大問題…そんな狂ったヒロと馬鹿共から…オレがヒロを奪った様に…狂うんだ…」


 震えながら俺に指を差すタツさん…


「お前が…人に食便を強要したり…やたらカリカリした発情期の猫みたいな…暴力衝動で喧嘩を売りまわる馬鹿エルフの…クソアイドルを束縛しろ…ファンから奪っちまえ…狂っちまえ…オレに出来た…お前にも…頼んだぞ…ぞ…やめぇ!?ヒロ!やめてッ!」


 プリプリ


「何で全部俺のせいにしてんだよっ!」


 何か凄い勢いて横で喋っているが…俺はシアのスピーチが聞こえた…


『皆さんこんにちは…グッ…アアォ!?…こんな事は言いたくないけど…私はアンタ達が嫌いだ…』


 恨み節…要は追い詰めると出る本性…昔は丸出しにしていた本性…今のシアの本性は…憎しみ…か。

 まぁずっと無理してる感はあったけど…


 ヒロさんがいよいよケツの穴が決壊しかかっているタツさんを担ぎ言った。


「まぁ…殆ど嘘だけど…タツが人見知りで克服しようとした話は、あんまり人に言わないんだよ。だから似てるんだろうね、太郎君が自分に…何かよくわからんけど…自分にも出来たんだって言いたい…のかな?俺から見ても少しだけ…昔のタツに似てるよ、太郎君は」


 正直、今のタツさんに似てると言われるのは…俺は昔のタツさんを知らない。

 今の『後、二、三分でアウト…』とか言ってるタツさんしか知らない。


 しかし変わる…か…俺に出来る事…シアに出来る事…


 気付くと横にサラとメグミがいた。

 何故かサラが頬が赤くなり腫れていた。まるで殴られた様な…


「何か勘違いされたら困るけど…サラを引っ叩いたのは私じゃないよ?《お兄ちゃん》…それとサラにお兄さんって呼ばせるなんてシスコンってるね(笑)」


「メグミちゃん、違うよ!お兄さんって言い出したのは私からだよ!それよりお兄さん…お姉ちゃんと和解してきた…ついでに…ついつい発破かけちゃって…そしたら分かりました…あの人は…ずっとが正しいと思っています…」



「お兄さん…お姉ちゃんを…お願いしていいですか?前は、選ぶのはお兄さんって言ったけど…私の為に大切な時間を使って貰ってるのに…それでも…お願いします…私が言うのもおかしいけど…大切な姉だから…どうか姉の…間違った道を正して下さい…お願いします」


 サラは頬を抑えながら優しく微笑んだ。

 壇上のシアは股を締め、内股で床を蹴りながら憎悪の目を向けている。


 プリプリプリ


『何がアイドルだ…何が歌姫だ…ミ…何が…ミューズだ!?お前らのせいで私のあいしたぁグワッあっ♥タ、タロァ♥どこ…!?♥た、タロァ!♥』


 最後にタツさんの声が聞こえた。


「いよいよクライマックスだ、オレも…アイツも…な。脳がやられて漏らしながら逝くだろう…しかしタロァ…時に傲慢であれ!なぁタロァ!?愛されるのは良いぞ!愛され傲慢になれ!傲慢の中に愛が…ヒロ!もう一人子供むんちゅう!♥チュー!♥「ムゴッ!?ウンコ漏らしてんだから黙れタツっ!!」


 プリプリプリプリプリ


 ドタバタしながら2人はどっかに消えた…


『クソが!お前らのせいでわたしあ!?…タロァ…ンガ!?くしょ!?でりゅ!?♥タロァッ!…たす…け…』


 シアが憎悪と哀しみにまみれ涙目になっていた…

 あぁ…昔だったら恥ずかしいとか、身の丈に合わないとか…色々言い訳にして…立ち止まってたんだろう…分かってるよ…そして今はもう…


 俺は駆け出す…後ろから聞こえた…


「「「行ってらっしゃい、お兄さん」お兄ちゃん」太郎」


 『『『頑張ってね』』』

 

 3人の応援…そして頭に響いた…


―――ずっと見ていたけど…ようやく決意だけじゃなくて行動に出たわね…ホント長いわ…でも多少でも知り合ったよしみ…3人の女に応援されるなんて素晴らしいじゃない…良いわ…手伝ってあげる…翔ばして…すり替える―――


 突然身体が軽くなった。参加者の眼が虹色になる。

 そして、ジャンプすると、まるで飛んでるみたいにフワッと身体が浮いた。

 ゆっくりした、景色…自分の身体なのにバイクに乗るのと同じ感覚…シアの所まで俺は翔んだ。


 最後までファンタジーだな、でも…シアを見ると思う。

 タツさんと同じぐらいの身長なのに…タツさんは『最近ダイエットしてないから』とか言う、意味不明な理由でバッキバキに膨れた筋肉だったけど…


 シアはスラッとした長い脚に幻想的な身体のバランス、美しい髪と整ったパーツ、翆色の瞳、まさに妖精とかエルフだっけか?

 まさに夢の世界の住人の様な…そんな女の子にアプローチするんだ…少しぐらいファンタジーでも良いだろ?


 涙目のシアがこっちを見た…口を開け目を見開き、信じられないものを見る目でこちらを見ていた。 

 

「た、タロァ!今は駄目!今はああああ!?♥」


「関係無い、シア…行こう、一緒に!」


 近付けば近付く程、シアはとても美しくて、確かに俺のようなチビで外見は平均以下の男には勿体無いぐらいで…お姫様抱っこで持ち上げるととても軽くて、だけど俺の腕から身体がはみ出しまくるけど…


「タ!?♥タロァ!♥好きい!♥でもダメぇ!♥触っちゃ!見ちゃダメぇ!♥うあっ!♥ゔぁあ!♥」


 抱きしめ返して来て身体を丸めると腕にスッポリハマった。必死にお尻を俺の腕に当たらない様に身体を捩るが関係無い。

 シアは白いスカートの下にエナメルっぽいショートパンツを履いていて、デザインなのか両足太ももと腰にベルトが着いているがそれを全力で締めていた。


「おあああッ゙♥ダメぇッ゙♥だみぇなのおぉッ゙♥んおおおおおおおっ゙っ゙!!??ㇹッ゙!!♥♥♥」


 音はしないが俺の腕や胸の中でシアの身体がガクガク痙攣している…

 白いパンスト履いてるせいで染み出しているが…

 多分、タツさんは別の何処かで盛大に漏らしてんだろう。

 そんな感じがする。でも、そんなの関係無い。


 俺は行く所がある。シアを抱いて走る…シアがいたはずの壇上…後ろから気配がした。


『ん?あれ?何でボク壇上に?シアの代わりに成人式のスピーチしろ?はぁ?何で?浣腸した?いや意味分からないんだけどマジで…またいきなりこういうの…アマテラスだろ!?ふざけんなよっオイ!うおおおお!?』


 シアの事務所の社長がいきなり現れて何かキレてるが知らない。


 シアはずっと、身体を全力で密着させながら


『タロァ♥タロァだ♥格好いいよぅ♥』


 と俺の名前と過剰評価を呟いている。


 俺の行く所、そうだな、あそこが良い。 

 昔…高校の時、下校の時に、なにかある度にシアに近所の公園に引きづられていった。

 今度は…そこに俺がシアを連れて行く。


 不思議な力のせいか、あっという間に着いた。

 俺は公園のベンチにシアを座らせるように降ろした…


「ちょっ!?待ってタロァ♥置いちゃだっ!」


ブシャっ!ミチミチミチミチ…


「ぎゃあっ!?♥いやぁっ!見ないでぇ!?♥」


 ショートパンツのベルトが限界突破した、座った衝撃で両太ももとお腹の辺りから盛大に茶色いなにかが飛び出した…


「あぁ…お願いっ、タロァ…嫌いにならないでぇ…」


 また涙目になって悲しみに満ちた顔になる。


 シアがこんなメンタルになったのは俺のせいだ…昔のシアなら漏らしても笑っていただろう…いや、漏らす自体は俺のせいじゃないけど…

 いつもの様に優しい言葉をかけようと思った…けど…


 …タツさんが言っていた…狂っちまえ…と。

 優しい言葉なんざ望んじゃいない。

 まともなやり方なんて通じない、とにかくお前がやり過ぎだと思う事をやれと…

 俺のやり過ぎ…俺の知ってる…


 俺は再度シアを抱えて公園のトイレに向かった。

 そこに座らせコルセットでスカート風になっているドレスの様なワンピースを捲り、ショートパンツを脱がした。

 茶色くなった、同じく純白ストッキングもパンツごとずり降ろす。


「た!たた!?タロ!?タロァ!?あ!♥あぁ!?」


 懐かしいな…高校の時、こうしてシアを混乱させて良く逃げた。

 シアは…ずっと攻めているようで俺が動くと待ちになる。

 だからずっと期待して待ってたんだな…いや、諦めてたのかもな。

 諦めてたから今度は性格まで変えて普通になろうとしたんだな…

 

 凄く傲慢な考え…全部俺の為だって…だけどタツさん…あぁタツさんってちゃんとしたこと言ってたんだな…多分


 トイレ姿のシアの口を塞ぐ、力が入って無いが俺を押しのける様に胸に置くシアの手を、掴んで壁に押さえつける。

 

 ガンッ!…ぴ!ゔいいいいいいん…


 勢いでなんか当たったけど気にしない。

 唇を離し、伝えるんだ。


「シアの瞳は、相変わらず美しい色しているな…ジャングルかよ?オレはそのジャングルから動かない…永遠にそこに住むと決めた、嫌とは言わせない!」


 シアは瞳の色を褒められると喜ぶみたいだが…こんな台詞、よく言ったもんだな…


「た、タロァ!♥…馬鹿!♥馬鹿!♥バカァ…♥」


 久しぶりに馬鹿って言われたな、シアが泣いている。

 告白はトイレ、無茶苦茶な台詞、だが、俺らしいじゃないか?


 もう一度、唇を合わせる…力強く…シアも受け入れる…いや、唇が包み込むように…


 …いいいいいいん、ピ!シャアアアアアアア


 ビチャッビチャッビチャッビチャッ


「ずっと…待ってたんゔぁッ!?♥ンフッ!?♥んふーーーーーーーーーーーーーーーーーー♥♥♥♥♥」


 あれ?シアの身体が凄まじい痙攣をしている。

 足で押さえつけてるけど腰が凄まじく揺れ、よく見ると、曲がっていた膝が真っ直ぐ、ブーツを履いた爪先までピーンと伸びている。

 

 あれ?ウオシュレット動いてる?


 眼が白目になっては戻りを繰り返し、顔は喜怒哀楽が凄まじい速度で切り替わる…絡めていた舌まで痙攣している…何これ?

 申し訳ないが俺は童貞だ。女の子は良くわからないが…


 …いいいいいん…ぴ!


 急に脱力し、崩れた…舌が出っぱなし、白眼になりっぱなし…よく見るとウオシュレットが終わったらしい。

 最近の公園は最新鋭の機械使ってんな…じゃなくて


「おーい、シア?」「……………………」


 返事がないな…参ったな…うーん、そうだ。

 俺はもう大人なんだ…だからアソコに行こう。


 ………………………………


 シアをおぶってロビーを通る。

 ホテルブリッジ、地元のラブホだ。


「ちょっとお兄さん、その女の子、気絶してない?事件は勘弁してくれよ?」


「あ、いやぁちょっと酔いつぶれちゃって…」


 顔は見えないが怪しまれてるなぁ…


「あー、その女の子…顔知ってるわ、シアラか?だったらお前がタロァか?あぁはいはい、そうだわ。から聞いてるよ、一番良い部屋用意してやる、だから今後ともよろしく…」


 誰かの知り合いだろうか?チラッと見えたのは完全にヤクザだったけど…


「どうぞごゆっくり、でも複数人で入ったりウンコ撒き散らしたりそれを妹に見せたりはやめてくれよ(笑)」


 それ、成人式のスピーチの人じゃない?

 とにかく会釈だけして中に入る。


 まず、風呂に入る。

 シアの方が身体は大きいが、たまにビクっとなる程度で、脱力したシアは洗いやすい…ガウンを着せてベッドに寝かせた。


 俺はいそいそと、まず明日、ここを出る時のためにシアの服を整理していた。


 色々な所にウンコ…ついてんな…今日は俺、スーツだから帰りはTシャツで良いか。シャツとかはシアに着せるとして足の長さ的に…ショートパンツは無いと駄目だな…洗っとこう…

 

 一通り荷物を整理して、飲み物を飲む…凄いロマンチックな灯りが幻想的な大部屋…コレがラブホかぁ…金足りるかな…


 なんて思ってたら視線を感じた…シアだ。

 だけどシアは真上を向いてそれじゃ寝れないだろぐらい身体が真っ直ぐ…明らかに起きていると思うが目をつぶっている…瞼に力入りまくりだ。


 そう…まるで待ってますと言わんばかりに…

 

 

 

 

 

 



 


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