シアに続くかも知れないタロァの道②だけど成人式の日までは一瞬のような

『タロァ、見つけたぞ!狂った洋ピンエロ、略してピエロのシャーだ!』


 夜中に突然、バイク屋で知り合った人の奥さんから意味不明なメールが届いた…


『お久しぶりですね、タツさん。お元気ですか?何ですか?』


『タロァ君、我が弟子であり無敵のアイドル気取りのシャーは、君がいなくなって崩壊した。町中で、アイドルに群がる大きな少年(心のみ)達に、まるで戦後の米軍のように『ほらほらお飲みよファッキンス◯イブーん?』とチョコを配るかの如く黄金水を蒔き散らしながら仰り、幼子のような目をしたファンは『ギブミー黄金水!』と群がっておったんじゃー。君にも責任があるやいなや?同じ様な事を繰り返し『後◯園遊園地で私の前門と貴様の肛門が握手!』と去り際に言ってますが、無敵のアイドルは嘘をつくそうなので大きい子供達を遊園地に集めてネバ―アイランド、マンションから子供を落す振り、よろしくお願いします』


 なんだコレ…夜中に見るにはちょっとハードというか…とりあえず、旦那さんの方がメール得意な感じだから送ってもらおう。


『博之です。肝心の電話番号は聞いてないようです、ごめんなさい。タツの文章力ではあんな感じだけど、ペラペラ話をしていた内容を推測すると、どうやらシアさんは太郎君と付き合えない腹いせに、通りすがりのファンに小水を一気をさせているらしい。腹がパンパンになったファンの腹を踏みながら『アンタ達、こういうのが良いんでしょ?』と言って大事な部分を見せつけていたらしい。本当かどうか分からないけどタツは嘘は付けない(ちゃんとした)のでそれに近い事はやっていたようだ。やっぱり芸能人は色々感性が違うのかなぁ』


 芸能人でも感性とか関係無いんじゃないかな?

 シアは昔から変な所があるし…しかし人にオシッコかけるって…まぁ懐かしいな、ウンコ投げつけられたわ…そう言えば…


「そう考えると変わってないのかな?」


『そうですか、まぁシアはそんな感じで安心しました。もし、また会ったら俺の電話番号伝えて下さい。もしくはわかったら教えて下さいね』


『安心!?お前ら2人揃ってどうかしている』


 タツさんからすぐにメールが着たが無視した…



 あの日から俺は九州で生活している。

 高校を卒業した俺は、誰かの道ではなく、自分で道を選んでみた。


 そしてサラの傍にいるけども…心は戻って来て落ち着きつつある。

 

「サラ、シアをタツさん達が見つけたらしいよ?あんまり変わってないみたい…」


「そうなんですか?先輩はずっとお姉ちゃんと一緒でしたもんね、お姉ちゃんの子供の時かぁ…どんな感じだったんですか?」

 

 結局、俺との関係は兄妹や近所のお兄ちゃん程度の関係に収まった。

 それをサラは望み、俺はフラレた形になった。

 サラに言わせると、私が好きになれば壊れるし、先輩は好きになろうとするし、どっちも間違えている様な気がしますけどね?と、笑いながら言った。


 そしてサラは、昔のシアの話を聞きたがった。

 心の底では目の敵にしていた姉に対して…サラも色々思う所があった。

 しかし、姉に敵わなくて、願いも叶わなくて、失い続けて残ったものがサラを強く大人にした。


 弱い事を認めたサラが依存し見つめた先は、自分のこれからの人生、環境、そして過去を見つめる事だった。

 これから先、サラは本人曰く恋愛をする事は無いという、人との距離感が掴めない。生き物より無機物の方が安心するらしい。


 ただ、その過ちとも言える経験を糧に、大人になろうとしている。

 そして更に先で、また恋愛や芸術的な衝動を知れば壊れるかも知れない。

 それでも同じ過ちはしないように学びたいと言う。

 家族、姉妹、友達、知人、他人、そして目の前に見える世界現実を知ろうとする。

 それをまず、俺から知ろうとしてくれた。


 同時にそれは、何も見ず依存という形で寄り添っていた俺の心から離れていく事と同じだった。

 以前の俺なら寂しい気持ち、裏切られたと思うかも知れないが、今は心から応援できる。


「高校2年の時は酷かったな…よく裸で追い回してきたり、いきなりトイレに押し込まれたりしたよ…」


「動物みたいですね(笑)」

「動物みたいだったよ…」


 ひとしきり笑った後、サラが言った。


「お姉ちゃんって賢いから…先輩にだけはそうしてしまうんでしょうね…周りから見た印象は昔も今も変わらないんですよ?何でも出来て、心に厚い壁がある姉でした、だけど肝心な時には逃げてしまうんですよ。姉妹揃ってそういう所があるんです…申し訳ないですね」


 思い出す…動物園で距離を取ろうと言った時…あんなにアクティブにアプローチしていたシアが泣きながらどうすれば良い?と繰り返し言っていたな。

 そんな事を言うとサラが微笑みながら言った。



「他人事の様で、なおかつ理屈だけ言えば、お姉ちゃんがそんな事は無いって否定すれば良いだけなんですけどね…先輩も丸投げで逃げ出して酷いですが、姉は委ねられてるのに答えを人任せにしてしまう…本来の姉さんは優しくどっちつかずなんですよね」


 私が言う事ではないけど…と、苦笑いするサラ。

 シアかぁ…何処かで諦めた時の感情が出てくる、一度は諦めた、そして今いけば姉妹どっちもいきたい奴になってしまう…でも会いたいなぁ…


 今なら普通に話せる気がするから。


 ちなみにサラは今、歩くリハビリをしている。

 心は整ってきたが、身体を追いついて来ない。

 でも…もうそろそろ帰って古本屋のオーナーに話を通さないといけないな…今は秋、来春には向こうに帰れそうだから、一旦帰るか…


 そんな計画を経ててる時にシアから電話がかかってきた。


『た、タロァ君?げ、元気?』


 久しぶりのシアの声…ちょっと挙動不審気味だ。

 どうしたんだろう?

 この姉妹の事を少し知った今は…シアも色々大変なのかも知れないと思った。


 結局、九州から地元に所要で帰るついでに、シアと2人で会う事になった。

 まぁサラにはフラレているから浮気ではないよな? 

 なんて思いながら当日…


 シアと待ち合わせかぁ…色々と思い出す。

 あぁ…懐かしいな…あん時はバイクは無かった。

 自信が無かった、何もかも…怖くて憎かった。

 駅で待ち合せは同じ…行き先と感情は当時と大分違うけど…

 

 昔はこんなにシアの事を見れなかった、考えられなかった。自分の事ばっかりだったな。

 そして今、駅で待っているシアを見た時、その美しさに眼を惹かれた。

 髪は黒くしてストールで鼻まで隠して、ダボッとしたコートを着てるけど明らかに異質な存在感。


 それでも感情に波は立たない、昔とは違う。 


 俺自身は第三者のような目で見れた結果…こりゃあ目立つわ…と一人でツッコむ。

 


 何やら活動停止していたらしいが、オーラが凄いな。

 雰囲気が大分近寄り難い(威嚇的な意味で)ので周りでザワついているだけだが…何だろうな。


 シアがこちらに気付き笑った…笑った?

 何か違和感…邪悪な感じだったのは気の所為だろうか?

 

 しかしまぁ…好みなんてものを超越する。100人いたら99人が納得する。

 この人は皆に好かれる、一目置く、一度引き込まれれば、誰か一人のものになるなんて現実は見たくない。

 その姿は偶像崇拝に近い。それがシアなんだな。


「タロァ!久しぶり!アァ…トロ…ァア…♥!け、ケーキ屋!行こ!?美味しいケーキ屋あるの!」


「そうだな、じゃあ連れてってくれるか?久しぶりの都会で疲れちゃったよ(笑)エスコートしてくれるか?」


「うん!♥行こう行こう!」


 トロぁ?とにかくシアに付いて行く。シアが腕を組んでくる?


「シア?どうしたの?「何が!?」


 グゥっと掴んで離さないし、汗メッチャかいてるけど平気か?

 しかも周りに近寄るなオーラが凄い…コレは以前の経験を踏まえた上での行動だろうか?

 だとしたらパワープレイ過ぎる気が…

 余りの挙動不審とオーラが酷いので、念の為に持ってきていたサングラスと帽子を貸した。


「ヴォア!?♥ありがとぉオオオア♥タロァア♥クウウウウウウ♥」


  

 ちょ…まるで蛸のように絡み付いて俺を殺すんじゃないかぐらい締め上げてくる…可愛いとかそういう話じゃない、前と…イヤ、前よりヤバい。

 シアは以前よりヤバくなってる…なんでだ?

 確かに色々あった…色々あったが流石にコレは…


 ケーキ屋に着いた…お洒落なケーキ屋さんで、ちょうど奥に外から死角になるテーブル席があったから奥に座るすると手前にシアが来るから周りから見えな…え、横に並んできた。

 2人で並んでシアは紅茶とケーキ、俺はコーヒーとパフェを頼んだ。

 ただし、距離が目茶苦茶近い。というか肩が密着している。俺が壁際に寄ると寄ってくる…相撲?

 

「ひ、久しぶりに甘い物だからついついパフェにしちゃったよ(笑)俺、今働いてっからさ、今日は奢るよ」


「驕り!?タロァ!驕ってるの?でも、そんなタロァも…良い♥ンフゥー♥」


「え?なにが?」


「ねぇねぇタロァ!それでね、髪染める時ね…」


 何かペラペラ尋常じゃないペースで喋り続けるシア…とりあえず話を進める。


「そーいやタツさんからいきなり連絡来てさ…」


 シアの目が一瞬で濁った…どういう事だよ…


って嘘ばっかりつくでしょ?日本語怪しいし頭もどうかしているし…タロァに私のこと嘘ついて距離を作ろうとしているんだ…信用なんか出来ない、虫と同じ反射でしか生きてないんだから…」


 呼び捨て…急に凄い口が悪くなった…敵意しかない言葉を吐きまくるシア…悪口が全く止まらない。まさに言葉悪口のマシンガン。




 そして最悪が被る…店内では死角と思っていた店に何故か現場作業員の格好をした、今まさに悪口を言われている本人…タツさんが何か爺さんと一緒に入ってきた…


「た、タタタ、タッチャン、この店、知り合いの店だから、お、おにぎり食っていいぞ」


「ほう、本当に?最高じゃん…昼飯食うって言ってんのに秀爺がケーキ屋入るとか言うから、とうとうボケたと思ったじゃ…ん?…んん?」


 ニチャアっと笑ったタツさんは紙ナプキンに何か書いて見せる。


【オレとお前は 他人 黙ってろ 素敵な0930(オクサマ)より】


 そして気付かれ俺は、謎の命令…どうすんだコレ…


「でも…あの人…タツさんを見てると思う…タロァ…やっぱりタロァだ……私には…タロァしかいないんだ…私の…」


 真後ろにそのタツさんがいるとは知らずに、今度はシアが顔を寄せてくる…目が熔けている…

 片手を掴み自分の胸に寄せる…まるでバイクのエンジンの様に激しく打つ鼓動…


『この鼓動…タロァといる時だけなの…本当の私…動物になれる私…好き…好きなの…タロァ…タロァ♥タロァ…タロァ…ア…』


 何やら愛の告白をしながら指を口に入れペロペロし始めた…が、それどころじゃない…その後ろでタツさんがジーっと見ている…いや、携帯?で撮っている…最高に不安しか感じない告白…


「いや、その、まぁありがたいというか…ちゃんと応えなきゃいけないね…色々あったし…『カシャア』ぐ、とりあえずここではちょっと…」


 タツさんがヤバい、シャッター音なってるよ…どういうプレイだ?

 このシアを見られるのは、本人としても望まないだろうし…しかし…

 そしてシアもヤバい。シアの眼が獲物を狙う獣の眼になっている…

 懐かしい眼だ…芸能の世界に行ってしなくなったと思ったがそういう訳では無いらしい。

 人間がしてはいけない眼…動物では当たり前かも知れないが、人間でやったら狂気…こうなるとシアは常識から外れた行動を取る…高校1年の時、下校時によくシアがなっていた状態…欲望の塊、発情期の獣。

 このシアがいたから…高校の時の俺は、他の男に靡いたと勘違いした時にショックが大きかった…結局誰でも良かったんじゃないかと自暴自棄になった。今思えば…恥ずかしいなぁ。

 本人曰く頭がシンプルになるなんて言ってたな…なんて冷静に考えている場合じゃなくて…


「シア、とりあえずここをで…んグッ!?」


 いきなりキスを…じゃない!?何か飲まされてる!?何やってんの!? 


 その後ろでタツさんがニタニタしながら紙ナプキンにペンで『助けてやろうか?』と見せる…手で結構ですと横に振っていると…意識が朦朧と…してきた…シア…何やってんの?…そんな事を考えながら…眼の前が暗転した…






 シアは動物…シアはとても綺麗な…それでいて強く逞しい動物だった


 誰もが羨む容姿に、世界に迎合する賢しい知恵、そして現実とする優れた身体


    ―――僕が憧れた動物―――


 身体が動かない…目隠しをされ縛れている…だけど気配で分かる。

 近くにシアがいる。きっとシアが…




 何で?とは思わない。俺になって理解った。

 サラを少なからず理解することで理解った。

 子供の時は動物…大人になったら寂しがりの動物の女の子、メス。

 巨大な動物…やる時はとことんやる…


「やっちゃった…♥連れてきちゃった…♥」

「カラダ…♥キレイにして…げる…♥わたし…の…わた…し…だけの♥タ…♥」

 

 シア、この動物はツガイを欲している。

 番は自分で決める、決めたら揺るがない…何時までも何処までも…妹の事はぶっ飛んでる…


「ハア♥…ペロペロ♥…アハァ♥…タロァ…あじぃ♥アハァァ♥」


 まだまだ世界が狭かった時…僕は子供だったから、永遠に愛してくれると思っていた。

 だけど世界はとても広くて、僕はそれに圧倒された。


 ピチャン…ピチャ…ピチャ…チュー…

 

「シア…コレは違うと思う…少なくとも…俺は違うと思う…」


 脱がされたと思われる上着、身体をまるで味見するように舐め回すシア…


 目隠しを取られ見えた先には…きっとブランド物のお洒落なワンピース…何でも似合うシアが着ればその服は一級品になる。


「タロァ…必要…タロァが…タロァじゃないと…タロァしか…コレを撮る…一生残す…上書きする…」

 

 俺はなんて女性に愛されているのだろう。

 美しく 賢しく 嫉妬深く 愛情が深い。

 この贅沢な人生を享受すべきなんだろう。

 だけどな、まずやる事は、お前の妹の事は俺が責任を持って社会に…え?


 獲物を狙う動物の眼をした、大の字仰向けに寝る俺の上に四つん這いで跨るシアの後ろに…

 お寺で見るような阿修羅像がいた…顔は狂喜を現し、その手は今まさに飢えた獣を断罪するかのようにのびてきていた。


「タロァ♥ずっと…♥一緒…♥タロ…ぁ!?」


 シアが気付いた時にはその腕はシアの首に回っていた。

 獣の感というのか?それでもシアは阿修羅像の腕の中に、自らの腕を一本入れて防ごうとした…

 

「不肖の弟子!シャーよ!NTR探偵は不正を許さない!貴様のやっている事は間男と一緒…撮影し『言ったらばら撒くからよ』と言われ脅す!警察に言えば良いと思うが!何で言う通りにするのかなと思うが!後、この龍虎オリジナル『窒息昇り龍』は敢えて片腕を挟むことによって…感度百倍かん腸をスムーズにインサートする!とにかくざまぁシャーまっしぐら!」


 タツさんが武術の達人とは聞いていたが…ここまで実力の無駄遣いをしている人を初めて見た…シアも運動能力は相当高い。

 そのシアをまるで赤子のように鎮圧し、後ろから抱きつく様に片腕で腕と首を締め、その腕の手で空いてるシアの片腕を掴む。


 そのまま残った手で何やらケツに挿している…まさか本当に浣腸!?


「ギキッ!?タツ…シネ…タロァ…私…タロァに…タロァ…に…」


 首を締められながら俺に手を伸ばし、人殺しの様な顔で何とか逃げようも足掻くシアが、俺から離れていく。


「ケツがゆるゆるシャーよ…眠れ…今はまだタロァに挑むのは早い…コイツはイベントボスチ◯ポ…」

 

 シアの身体が激しく痙攣している…顔色が青紫になっていく…宙を見ていた眼か…最後に俺を見て泣いている様な顔になった後…失神した。


「タロァマンタ…弟子に変わって詫びよう…今回の件…許してやってくれないか?」


「許す許さないも…サラには振られましたから…だから別にシアとデートしても何しても問題ないんですが。とりあえずシア失神してるので離した方が…」


 ゴトンッ!とシアを転がし俺に向き直るタツさん。俺の手足を縛っていたものは、タツさんが何かを投げると切れた。

 武術の達人と言われるだけの事はあるけど途中何言ってるのかさっぱり分からなかった。

 俺はこんな化け物みたいに強い人が、こんな思考回路なのって本当にヤバいんじゃないかと思ったがそれはさておき…


「ありがとうございます。もしシアが起きたら伝えてもらえますか?近いうちにこちらに帰って来ます。サラと一緒に。俺は一度はサラと生きると決めた身です。だからサラにフラレたとしても社会復帰出来るまでは一緒にいるって決めてます。その間に気持ちの整理をしたいと思っています。それまでに心変わりしていなければ…シアとの事を本気で考えたいと…」


 


「…なにが?それって長い?こっちはとにかくそっちがメントレみたいにあんまり長いと、嫌なんだが…」


 長い、長くないで判断さてしまったが…


「1年近くかかるかもしれません。それまでにシアの心が変わったら仕方ありません…」


 不安だから一応、ここはシアの家?にある便箋に手紙も渡しておいた。

 

「とにかく恋愛指導者兼、夜のアドバイザー《導き手》のオレに任しておけ、今はまだ洋ピンの様にモンスターの喘ぎ声の様だが…ちゃんと妖艶な喘声を、テクニカルな言葉攻めが出来るように修行しておいてやる」

 

「?…よく分かりませんが、よろしくお願いします?」


 こうして俺は、シアとは理由の分からないまま別れた…


 そして冬…はサラのリハビリには向かなかったらしい。サラの身体は動かなかった。

 俺も冬の田舎…年末年始の郵便局員は忙しく、手伝いはままならなかった。

 ただ、サラは九州の家に帰ってきていた。

 まるで家族の様に、お祖母さんと俺とサラは兄妹の様に年末年始を過ごした。

 血縁がなくなった俺だが、新しい家族がまた出来た。

 


 そして春、少しつづリハビリが進んだ。

 現代の医学では解らない様な肉体的な後遺症もあるらしい。

 歩ける様にはなったが、とても疲れやすいらしい。

 それでもサラは、姉や友人に会うために頑張った。戻って…本屋で働く、皆に謝るんだと頑張った。

 その様子を見て、お祖母さんが家の土地と果樹園を売って私も東京に行くと言い出した。

 行くのは東京じゃないけどと言ったが伝わっていなかった。


 

 夏になるとサラも大分普通に動けるようになった。

 引っ越しも大規模なものになり、結局前にバイトしていた古本屋兼、一軒家を買い取る事にした。

 しかし郊外のお祖母さんの蓄えもありローンという形だが住むこ事になった。


 一つ変化があるとすれば、シアをテレビで見た。

 忙しくて気付かなかったが春頃から音楽活動やモデルを再開していた。

 シアとは連絡が取れなくなった。

 修行中だからとタツさんを経由して伝言をしていた。


 タツさんからの返事は決まっていた。


『コイツは殺人エルフ、まだ調教が足りない。もうちょっと待て。安心しろ。開通している後ろの穴から精神注入棒で更生させる』

 

 そして毎回写真がつく、凄い形相でカメラを睨むシア…場所がトイレだったり、変な忍者みたいな格好してたり…その全てのシアがカメラを睨んでいた。


 テレビにでて普通にしているが、 送ってくる写真は大体、変な格好、変な場所で、カメラ目線で睨んでいる。

 何が起きているのかさっぱり分からなかった。



 そして…また冬…いよいよ神奈川に帰る日が来た。

 今度はサラとお祖母さんと一緒に。

 思えばクリスマス前の12月…常に何か変化があった。

 劇的に変化する毎日に頭がついていかなかった。

 中学までの僕でいた時には考えられない変化。

 その変化の象徴とも言える女の子がおずおずと言った。


「兄さん、今までありがとうございます。向こうに着いてもよろしくね」


 まだ少女のような外見、高校に行っていれば高校3年…には見えない幼い顔の女の子、サラ。


「あぁ…あっちでも頑張ろうな」「うん!」


「ハハハ、すっかり兄妹になっとんね。仲良きことはよかことばい」


 お祖母さんにちゃかされながら荷物をまとめる。

 サラの心は少し前から平穏のままで、身体も動くようになった。

 今はお祖母さんの果樹園の手伝いや引っ越し準備を手伝っていた。

 何となくだけど…今のサラは自分のエリア、自宅や自分の病室以外で肉親以外の男と関わるとトラウマのように過去が蘇る。

 担当医の女医曰く、大きく分けるとPTSDのようなものだそうだ。

 俺は兄として接した。それが一番違和感がないからだ。

 そしてサラが言った。


「お姉ちゃんの事…一緒になってとは言わない…です。だけど…少しでも気持ちがあれば…考えてほしい…かな…と…」


 何となく分かっている。ここまで男が駄目になったサラが俺を内側に入れる理由。

 シアともし一緒になれば、俺は義理の兄だ。

 そこに血の繋がりは無くとも関係性は兄妹になる。

 サラは九州に来て、意識がハッキリしてから今まで俺を兄のように慕う。

 医者にも言われた、心の病はイメージを変える事だと。

 

「分かっている、でもそれは相手、シアもいる事だから…サラもそうだけど俺も会わないとね。帰ってすぐ成人式…皆にも会えるしさ。」


 卒業してから2年近く…皆、どんな風に変わったんだろう?

 九州での生活は、忙しくて連絡が取れなかった。

 シアに至っては連絡の取りようが無かった。


 シアはある時期から、またテレビの音楽番組出るようになった。少し前からライブハウス等では歌う事を再開したらしい。

 最近は名曲のカバーを歌う、そして懇意にしているブランドのモデルとして雑誌やネットでその姿を見る。

 九州の片田舎でも見える…全国的な人気だ。

 どうやらタレントやら女優業は完全にやめたようだ。

 テレビの音楽番組で普通に話すシア。


『私の歌で元気になってほしい そして大事な人達を応援したいです』


 当たり障りのない、だけど誰しもが喜ぶ言葉を選ぶシア。

 最近のシアの形容詞は『強い女』

 様々な苦難を乗り越え、復帰したモデルであり力強い美声を持つ歌手。


 しかし…タツさんからは、シアが『殺してやるッ!絶対殺してやっ!?イヤ!タロァアァ♥』と叫びながら急にアヘ顔になったりする謎の動画や、殺人エルフがいつまでも更生しないというメッセージとか、意味不明なものばかり来る。

 まぁ、メンタルというもので測るなら最大限に不安定に見える。

 


 そして…九州を離れる日が来た。

 空港に着いた時、懐かしい気分になった。


「この空港も少し来ない間に変わったなぁ」

 

「前は一緒に来ましたね、兄さんが停める所知らなくて迷った時ですね、フフフ」


 俺とお祖母さんとサラが飛行機から降り荷物を受け取る。

 何となくそれを見ても、誰も口にしなかった…


『何処までも翔んでいこう!』


 壁には何枚も何枚も、旅行会社のポスターだろう。

 空に跳び出す様のポーズのシアが壁一面に何人もいた。

 皆、気を使ってくれてるし、サラも気まずそうだ。だけどね…


「シアは頑張ってるなぁ…俺も頑張らないと。まだ何にも決まってないけどね(笑)」


 俺は敢えて触れる。姉妹に隠し事はなしだ、そして兄妹にもな。分かり合う為に帰ってきたんだから。


「おーい!お兄ちゃん!サラ!こっちこっち~!」


 メグミが手をふる。相変わらず出来た妹…だと思うけど…何か違和感が…


「メグミちゃんっ!」「サラ!元気にしてた!?」


「ごめんなさい!メグミちゃん!ごめんなさい!謝りたかった!ごめむぎゅ!?「ハハハ!謝るな!良いんだよ!元気で出会った頃のメグミならそれで良い!」

 

 メグミが謝り倒すサラの口を引っ張った。サラは泣いていた、メグミも涙ぐんでいた。

 

「お祖母ちゃん…じゃなくて薫さん、初めまして!家は私ともう一人の友達の蘭子さんとで片付けときました!今日から住めますよ!それとローンですが…」


「メグミ、ローンがどうしたの?」


 まぁその話は後で言いながらメグミの乗ってきた車…何これ?軍用ジープ?デカいって言うか何てもん乗ってんだ…デカい車を軽快に乗りながらメグミは言った。


「急にシアさんが大家さんに会いに来て、ローンを一括で払って行きました…薫さんによろしく言っておいてほしいと…」


 シアはどうしたんだろう。いや、立ち止まるな、すぐ知ってる人に電話だ。

 タツさんに良く分からないけど会えるようにセッティングしてもらおう。


「もしもし?タツさん?今日帰ってきたんですが…シアに会いたいと思いますがどう『ちょっと早いな…』


 ちょっと早いってなんだろう…すると急にテレビ電話に変わった。

 シアが…M字開脚で縛られてカメラを睨みつけている。

 

『ハァハァ♥タツぅ!コ■ス!アンタは絶対にコロ■!タロァにあわせろ!早く装置をはずせぇっ!この下痢便クソ野郎!しね!シネェェェ!!オウフ♥タロァァァぉぁぉ♥♥♥イエアアアアアアア!!♥』


「ご覧頂けただろうか?このアイドル、エルフの美貌を持つと言われていたが、今や殺意を撒き散らす洋ピンアヘ顔ガール…どうすればなおるのか?分からん」


 この人は動画の度に『ご覧頂けただろうか?』という怖い動画の始まり方をしているが、いつもシアがコ■スとかシ▲とか言ってのはタツさんに向けて言ってる様な気が…


『まっれぇ♥たろぁっ!♥たろぁっのこっえっ!♥タロァに、ちゅながってりゅのぉ?♥タロァアアアアアア♥タアアアアアアっっ!!♥』


『安心しろ、コイツは成人式の日、タロァマンの行く会場でスピーチがある。それがコイツの最後だ…ウハハハ』


「タツさん、趣旨変わってません?恩があるのであまり言いたくないですが…ヒロさんに確認取っても良いですか?」


『何?趣旨?とにかく嫌な予感がするからヒロには言うな。言ったらシャーをウンコバケツの刑に処す』


 後、もう少しで成人式…そこでシアに会えるらしい…大丈夫だろうか?


 


 

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