一寸の地を這う虫、五分の魂は歩みを止めない…ただ歩き続ける

 色々あった…色々あったようで…結局やる事は1つだけ。

 サラに会って…話し合って…日常に帰る事だけ。

 何も難しい事は無い。ただ、お互いを知って…分かり合うだけだ。


 バイクごと車がぶつかり、タツさんが間に入ったとはいえ衝突した。

 タツさんは大丈夫って言ったけど…擦り傷だらけだし骨折れてるかも…それでも…


 俺はただの人だ。あの人達は違うと思う。

 だから歩くんだ、地を這って、惨めでも、情けなくても、それでも、今でもサラの事を見ているよって伝えなきゃ。


 足を引きずりながらホテルに着く。

 外から見ると上階で窓ガラスが割れ何かのぶつかる音、破壊音や叫び声が聴こえる…


『お兄ちゃんは危険だから安全な所にね』


 メグミには心配されたけど…一寸の虫にも五分の魂っていうからな、役に立たないかも知れないけど…と、思って上を見ていると窓から人影が飛び出してきた!?

 ロープを巻き付けホテルの柱の部分を選び蹴りながら降りてくる。


 変な変身ヒーローみたいな格好をしたメグミだった…よく見ると服はボロボロで色んな所が怪我している…何をやってるんだ?


「お兄ちゃん!良かった…ここまで無事来れたんだね!今…上にサラがいるの…意識が曖昧で操られている感じだけど…私が呼びかけたら反応した…もしかしたらお兄ちゃんなら…」


 サラが上にいるのか、だったら…


「でもね、正直言うと…私は…お兄ちゃんに危ない目にも合ってほしくない…もし、サラに裏切られたっていう気持ちがあるなら…ここで引き返しても良いんだよ?暗転さんに言われたの…此処から先は覚悟が無ければ来るなって…家に帰っても良いって…私だけ逃してくれたから…だから…」


 メグミの手を掴み頼む…大事な妹に申し訳ないが…


「メグミ…連れて行ってくれないか?上まで…サラのいる所まで!頼む!」


「ンフフ♥お兄ちゃんに頼みごとしたね?良いよ、いつか身体で返してもらうから(笑)」


 妹のメグミが肩を貸してくれるが…メグミってこんなにゴツかったっけ!?というぐらいしっかり支えてくれる…ひ、人は見かけによらないなぁ…


「何?どしたの?身体触れて…こ、興奮した?♥」


「いや、ゴツく…頼もしくなったな…兄ちゃん嬉しいよ…」


「ゴツ!?何それ…ま、まあ…私は暗転さんに会ってからずっと鍛えているし、才能あるらしいからね。シアさんとは別方向で才能あるのかもね。昔は周りより体力とか力があるとは思ったけど、そもそも対人関係苦手だし、こんなのどうでも良いかなって思ってたけど…周りと違う事で今は助かっているかな?アハハ」


 そうなんだ…薄々…気付いていたんだ、メグミや…そしてシアは人として一段抜けている。

 一段抜けているから周りと普通に関わる事が出来ない…普通の人は憧れて…親しい普通の人、俺や蘭子は距離を感じる…子供の時からずっとそうだった。


 それについて、釣り合わないとか俺とは違うとか考えていたけど…


「でも、そんなん…関係無いよな…俺の妹は…かわいい妹だ」


 そしてサラは…芸術的な才能があるようで…いや、あったとしても…


「そうそう!かわいい妹だよ!犬山家のアイドル!メグミだよ!なんてね♥(笑)」


「そうだ!自慢の妹だ!メグミの兄というだけで俺は引きこもりにならず学校に行ける!」


 それは多分…もう枯渇していて模倣と自分ではない誰かに作られた存在になってしまった。

 それに…本当のサラ…優しい才能を持つサラは押し込められてしまった


 エレベーターに乗りメグミが9階を押す。


「お兄ちゃん…降りたら多分、ロビーは滅茶苦茶になってると思う。私が最後に見たのは景色は、サラを人質にするようにサラの後ろにシスターみたいな格好の女の人がいる…多分、その人が一番危ない人。後二人いたけど…男の人が入ってきて暗転さん達や敵の2人をなぎ倒してサラを人質にしているシスターをサラを無視して襲いかかっていた…お兄ちゃんはサラを救って…私がフォローするから!」


「分かった…何かよく分からないけど何とかやってみるよ…突っ込むしか…ないんだよな」




 チーーーーーーンッ!





 そして運命の扉が開いた。


 黒煙 血 瓦礫 見た事無い機械 人が死ぬ道具 刃物 銃火器

 

 サラとシスター、向かい合い複数の巨大な黒腕で2人を殴りつける男


 世界観は分からない 俺はただの人だから


 サヴェージが言ってた 俺にはただ走る事しか出来ない 大事な人がいる所まで だから走る


 だから駆ける 全力で サラの場所へ


 ボロボロの人達 知ってる人 暗転さんが叫ぶ


「何で戻ってぎだっ!?逃げるだよぉっ!」

 

 もしこの不幸が蓄積されれば 人は壊れるんだろう


「サラ!正気に戻れ!お兄ちゃんが来たぞ!もう拒絶しなくていいんだ!こっちに来い!サッ!?ガフッ!!」


 突然メグミが弾け飛んだ 飛びながら、俺の目を見ながらサラを指差していた

 メグミ、ゴメンな ありがとう


 そして…サラ…あぁサラだ…派手な化粧…似合わないな…走る俺を悲しそうな目で見る


―――なんで きたんですか しってしまったんですよね だったら もういいじゃないですか―――


 響く 心に響く サラの拒絶 それでも俺は走る


―――わたしは きもちを かくしながら せんぱいのまえには たてないから あやまるなんて いみないから―――


 まだ俺は子供で 気の利いた言葉 救い奪いとる力は無いけど 


―――しってしまったんです どんなセカイでも おねえちゃんよりひどいうらぎりを くりかえすわたしのこころ せんぱいのまえに たつしかくはない わたしは わたしは コナイデ――― 


 それでも そうじゃないんだ!サラの身体の周りに光の壁のようなものがあり進めない よく見ると黒腕の打撃も光の壁に弾かれている

 

『進め 青年よ 女の子の元へ 挑む者は いかなる時も強く勇ましくも美しい ミカエラ 君にもこんな時があった』


 巨大な黒腕が俺に向かってくる何かを弾いた


 怯まない 止まらない この人は俺に道を作る


『ヘカトンケイル ナゼ コレヲタスケル? コノオンナノ ココロノカベㇵ コワセナイ ソノオカゲデ オマエハ シヌノニ』


 男の人に光の槍が刺さっていく 何本も 何本も


『タツさんは僕には言った 彼の事だけは止まらない オレにはそもそもそれ以外は無い コケシにかけて 後、VRのアダルトは凄かった ありがとう…と』


『ヒロ君は僕に言った 例え大事な人を失ったとしても 挑むのをやめない 諦めない事は真実に辿り着く 例え自分は届かなくとも きっと誰かが辿り着く だからべッ君も諦めるな…と』


『ヘカトンケイル オマエガシヌコトニ ヘンコウハナイ コノオンナノカベモコワセズ ワガヤリモ サケラレヌ ソシテ カノカタヲオロシ セカイヲカエル』


 男の人は血を吐き 槍は刺さると消え 刺さった所から血が吹き出す それでも俺の道を作り 殴るのをやめない

 

『この少年が挑む事 それは僕等が諦めた事に挑むと同じ 大聖堂カテドラルを作ったのは 次の時代に挑む 僕や君 諦めた者達がもう一度挑む為の聖堂だ 世界を一つにするという愚か者を 打倒する為に集まる場所 それが大聖堂カテドラルだ』


光大聖堂カテドライトなどという 決して遠い過去にヒロ君から逃げた 光を名乗る愚か者を!呼び起こす為ではないッ!僕は!僕等はッ!愚か者の眼前にヒロ君を!【絶望に挑む者】を立たせる為の魂だッッ!なぁっ!タツさんっ!!』


 何かコケシのような物が男の人の懐からコケシの様な物が転がった その瞬間、空間が歪み 男の人とシスターが真逆の方向に吹き飛んだ


 男の人はホテルのロビー、全面窓ガラスの壁を突き破り外に飛び出した

 シスターはコンクリの壁に激突し崩れたコンクリで見えなくなった


 シスターが離れると正気に戻ったように所在無く目を泳がせるサラ

 突然、サラの周りの光の壁が無くなった

 走り抜け、やっとサラを抱きしめる

 昔、絶望した時に抱きしめられた時と変わらない…華奢な、だけど女の子のサラ

 

「サラ!久しぶりだ…会いたかった…話したかった!メグミも心配してる…シアも…蘭子も!皆心配してる!なぁ帰ろう?あの本屋にさ、これからの事はゆっくり考えよう?俺達にはまだいくらでも時間が…」


 ゆっくりと両手で俺を押し、目を逸らすサラ


「先輩…もう駄目なんですよ…引き返せないんです 私は…先輩を裏切り…メグミちゃんを裏切り…お姉ちゃんと違って自分の意志で裏切った…叶わない事を叶える為に…色んな人を不幸にして…捧げてしまったんです…何もかも…」


「だったらそれも背負う!その為に皆がいるんじゃないのか!?俺がいるんだ!俺を信じてくれ!俺はッ!?グホゥッ!?」


「先輩!?」


 突如、身体が弾ける様に吹っ飛んだ…肩で破裂した様な衝撃…シスターがサラの横に立っていた…


「コノオンナハ ノゾンデギセイニナッタ アネトトモニ アノカタヲヨブ ショクバイダ エラバレシ モノダ」


「サラは私の友達だっ!お前達の道具じゃないっ!返せよ!サラを返せぇっ!ガフォっ!?」


 突然血を吐き倒れるメグミ…メグミの無事を確認して、這いずりながら近付く。


 大事なモノは失ってから分かるって 何度も繰り返して 例え元に戻らなくても いつでも思い出せるように いつか笑って話せるように


「メグミちゃん…しぇんぱい…みんな…ごめんなざい…でも、もう…わだじ…もう…え?」


 サラが気付いてくれた…抱きしめた時に首にかけたものに 大事なもの サラにとっても きっと


「それはね…壊れて燃えた…サヴェージの…ワイヤーとカギだ…それを…サラに持っていて…欲しいんだよ」


 サラの顔が悲痛に歪み…涙が溢れた…

 サラとの思い出は 別に色々な所に出掛けたり 何かをした訳じゃない 

 でも サラは見ていた 話しかけていた 

 俺やメグミ バイト先の本 そしてバイクのサヴェージ 俺の生活圏にあるもの全て

 きっと サラになら伝わる エンジンで動く鉄の馬の気持ちが そしてやっと気付いた俺の気持ちが


「うああああああ!!ザヴェージぐん!ずっどぉ!見てくれていたのにぃ!ごめんなざい!うわああん!わだじなんでぇ!ごんなこどぉぉ!うわああああああ!ああああああああ!!」


 慟哭がホテルに響く サラの顔から黒い斑模様のが浮かび上がる 涙の形に雫が落ちる


「サラッ!大丈夫だ!聞こえたんだ!サヴェージから!一緒に行けって!サラを頼むって!何も無くたって良い!本屋で過ごす日常へっ!学校に行く毎日へっ!な!?戻ろう!」


「ああああああああっっ!!わたしぃっ!!」


 サラがフラフラとこちらに歩き、手を伸ばす


 俺がその手を掴んだ直後、サラは光に包まれる。


「ゔぁあぁ…せんぱぁい…タロウ…さんといっしょにっ!あるく…いっしょ…に…」


「サラ?サラッ!?おいっ!サラ!!」


 サラが気を失った…息はしているけど…

 シスターが窓ガラスを割りこちらに向かってくる。


「時間稼ぎにしては長過ぎだべさっ!イダッ!?」


 暗転さんが何かを投げたがシスターの手前で落ち、落ちると同時に暗転さんが吹き飛んだ。


「マダマニアウ マダマニアウマダマニアウ」


「サラを連れて行かないで下さい!俺が何でもします!だからお願いします!どうか!お願いします!」


 サラを抱きしめながら必死に懇願する。懇願しながら後退りする…足が動かない…方法なんて考えてられない。ひたすらお願いする。俺にはコレしかないんだから。

 

「ラヴィ ロスト ガブリエラ アンノウン ウリエイラ エラー シット ミカエラ スタート スクラッチ」


 近付きサラの足を華奢な手で掴む、そして俺の頭を掴む

 一切逆らえない圧力 死の気配 バイクで死ぬ想像とは違う 何かが何かを殺すという圧倒的な意志と圧力

 あぁ…俺は死ぬという決められた未来



 その時、空気が変わった シスターの出す冷たい光の空気から

 表現しきれないぐちゃぐちゃで だけど温かく優しい空気


 倒れている猫型のスーツを着た女の人が笑った。


「ハハハッ!馬鹿が!お前等は一番関わっちゃいけないモノに手を出した…何が神だ!神もどきが!本物が来たぞ!遅いんですよ!アンタ達は!」


 頭を掴んでいるシスターの手の指、隙間から見えた…


「タツさん!ちょちょちょ!」「ヒロさんと関わると…ブツブツ」「スゲェ!コレすごぇえ!?」「ハハハ、お腹の子供も喜んでるわ…」「ウハーっ!エキセントリック!」


 数えきれない程の掌と腕、その手にはシア、蘭子、鬼頭君、ヨータまで…それにシアと一緒にいたシアの友達…他にも何人かが手に掴まれて一緒に浮いている。

 しかしそこは…地上9階の空中、まるで水中にいるようにフワフワと浮いている。


 こんなモノが見えている俺は既に死んでいるのではないかと思った


 だけど皆がいた、皆が驚いた顔をしていた。

 だってその無数の手の真ん中にいるのは…

 その姿は、神社仏閣で見るような…菩薩…

 その顔は笑っている…いや狂喜、絶頂?…三眼は全て明後日の方を向き、3つの舌が揺らめいている。

 四足の足で胡座を綺麗に畳み、身体に刻まれている様な青と赤のトライバル、そして何より身体から出る万はあろうかという手の数々…


 助けに来てくれた…あの人達は!助けに来てくれたんだ!

 俺はありったけの声で叫んだ!神を!救世主を!

 

 凄まじい横回転をしながらこちらに突っ込んでくる!


「タロァミャン!ほんみょうやみぇろばか!わりゃあッ曼華マンギェッ!!こにょひとはッ手萬ティェ・マンッ!ふたりあわしぇてぷりゃりゃんこありゃためぇ…掌曼華官能菩薩テェマンギェキャンニョウボシャチュッ!万にょ拳にぃ、華をしゃかしぇるものにりょりょりょ!」


「今思いついた偽名だからってそりゃないよ、そりゃお前のあの毛が人より濃いとは言ったけどさ、俺の中学の時の悪口を名乗り口上に使うなよ…」


 シスターが困惑する、俺でも分かる。

 生き物として…明らかに変な化け物状態のタツさんの方が上位なのだ。


「デビル? ロスト ロスト ロスト ロスト…」


「おみゃらりゃあ!ラブコミェらねぇッ!しゃっしゃとファンタジィにきゃえれ!」


 そしてそれに対応する様に、両手を拡げ構えるシスター。

 すると胸に収められていたヒロさんは雄叫びながらタツさんの腕や足の拘束を外し何か奇声をあげながら飛びだした…

 その姿はまるで鬼のようで赤黒い皮膚と三本の角、何故かドス黒い血が穴という穴から出ている…


「ダロぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!ヨォォグ!ダエダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアカアアアアアアアアアアアアアアアアアあばえらぁぁぁぁっっ!!いづもがんげいねぇまぎそえがぁぁぁぁっっっ!ざごがりやべぼぁッッッ!おあっ!?」


「カウンター デリート デリート デリート デリッ!?」


 お互いが正面からぶつかる瞬間、何故かタツさんがヒロさんの後頭部を掴んだ。

 そして相対しているヒロさんもシスターも認識出来ない速度で…

 そしてタツさんは舌を出しながら叫んだ…


「ウリャアッ!こりぇがほんろの、キャ○ティマ…クラッシュらぁ!」


 タツさんが突如ヒロさんの頭を掴んだまま、そのままヒロさんの頭から生えている角の様なものでシスターの下腹を突き刺した…呻くシスターと叫ぶヒロさん。


「クグウウウアアアアアアッッッ!?!?」


「タツァッ!オレア!ネニモッテイルゾォア!オマエガァオレヲケツノアナニイレタコトオォナア!!」


「ちよっろしたゃじょーらんでおこるにゃ♥」


 そしてそのままヒロさんとシスターが掴み合い、そのままヒロさんがシスターを押し倒し何やら卑猥な事をし始めた。


「ナゼダ? ャ ヤメロ! ヤメロォッ!!」


「お前の中にいるだろう!?絶望を知りたい奴が!オレもオマエも!タツにもなぁっ!絶望を知らぬ!絶望をぉっ!」


 その姿を見て、今度はタツさんがワナワナと怒りはじめた…


「ニョットNTR!絡み合うのはベッドのにゃか!バレるのはラブホの入口でゃけ!そりぇで!スッキリしたゃら…みゃいかいきおくゅがにゃいってただのげどーだ!♥」


 この人達は何をやっているのか?全く分からない。

 突然、ワナワナ震えているタツさんの近くに突然人が現れた。

 狐面をした着物の人、般若の面をしたコートを着た人、そしてさっきまでシスターと戦っていた男の人がピエロの面をして立っていた。

 般若の面をした人が拳を握り宣言する様に語る。


「時は来た…覚悟は良いか?白の死神・マゴイチ シラザと、破壊の模倣・ヘカトンケイル…今はタナベといったか?我は異能の頂・クリストフ…破壊の権能に救われた。今こそ、我々の使命を果たす時が来た」


「はい?…と、言われても何すれば良いか分からん。そもそも俺には何もできん。こういうのは千代が担当何だが…時給が良いからといきなり車乗せられて、車から出されたと思ったら『ラ○メン三銃士、メンマの白座孫一だ』って紹介されアドリブを強要された気分だ」


「何を言ってるんですか?藤原さんに似てるって本当ですね(笑)それだけ英霊から悪霊まで引き連れて平気でいる貴方はイカれてますよ?僕はさっきまでやりあってたので力になれませんが…ねぇ吉川さん?」


 するとベビーカーを押した白い騎士姿のイクエさんが現れた…


「流石、神威が揃うと違うわね…圧倒的だわ…見なさい子供達…アレがラスボスに挑むおっさん達と、コケシをケツで凄まじいピストンする事で働く乗り物化しているお母さんよ」


 そして俺を見て優しい顔で語りかけてくる。


「タロァ君、上出来よ?例えこれから先、その子に不幸が訪れてもそれは貴方の責任ではない。貴方はただの人の身で良くやったわ。その子を連れて行きなさい、そして貴方の選択は全て正しい。何故なら貴方が選んで掴んだものなのだから」


 俺がサラを抱きしめながら呆然としていると、シアが手から飛び出しこちらにかけてきた。


「タロァ!サラ!帰ろうっ!サラは大丈夫?私達の!普通の毎日に!逃げよう!ここから!もう私達の手に負えないよ!皆、肩を貸して!早く早く!」


「シア!大丈夫だったのか?ヒロさんが助けに行くって言ってたけど…サラは気を失っているけど無事だ!」


「うん!なんか応援したら凄い怒ってたけどタツさんが助けてくれた!でも良かった!2人共無事で!」


 シアがサラを抱きしめる俺をサラごと抱きしめる。シアはどんな気持ちなんだろう。


 でも1つだけ教えてほしかった。

 これだけ助けて貰ってそれでも…普通の毎日を生きる糧を…


「ヒロさん!タツさん!幸せって!普通の幸せって何ですか!?」


 化け物の様なタツさんがこちらを見る…


「キエー、アイシュじゃらい、キェーでゃ♥バースデー、イカに取られたキェー、代わりにデタ、ビェーネタ、アイシュでゃからロウショクシャシャらにゃい♥ケド、ビロがきゃったからもんきゅいえにゃい♥ホントはフワフワシュポンジのキェー、タベタイ…」


 全然、何言ってるか分からない…幸せについて話しているのか?


「どうやらアイスじゃないスポンジケーキを食べる事みたいね、誕生日に?ケーキ横取りされて?博之さんがケーキの代わりにアイス用意して美味しかったけど、本当はケーキ食べたかったみたいな事言ってるわね、本当に馬鹿だわコイツ…良いからタロァ君達は早く逃げなさい。ここからは地獄よ?」


「うるシャイミェが〜ねっ!でぃやまれ!アト

ビロはNTRヤメレっ!キェーだしぇ!」


「俺も逃げて良いかな?役にたたな…あ?」

「白座さん、逃げられる訳無いじゃないですか…貴方の億を越える背負った魂の出番ですよ?」

「知らねーし、見えねーし…」


 よく見ると周りに稲光が走り空間が歪んでいる…でも誕生日を祝う…そんな細やかだけど小さな幸せを大事にって事だと…俺は思った。


「よくわからないけど分かりましたっ!ありがとうございました!この恩はいつか必ず返します!」


「ホントにぃわかってぃえるにょか!?♥みゃーいいにやぁ…どうでぇも…♥」


 俺はサラを抱きしめながら頭を下げ、ヨウタに支えられながらその場から離れた。


「うおーい!非常階段がこっちにあったぞ!行くぞー!?」


 鬼頭君が見つけてくれた非常階段で逃げる。

 俺の知っている人達が、ミンナいる。

 皆で急げ急げ言いながら、庇いあい…

 階段を降りながら…こんな命がけのファンタジーなワンシーンで…ちょっとだけ笑ってしまった…俺は部活ってやらなかったから…もしかしたらこんな感じなのかなって思ったりした…




 その日、クリスマスの夜…東京湾に巨大な白に近い色の光の塊と、それに対峙するように大きな…阿修羅像に似た化け物がいた。

 

 化け物の上には羽の生えた鯨が浮き、化け物を後ろにはおびただしい数の青い光、それらは全て、白い光と対峙していた。

 その光景を見ていた人の頭に入ってきたのは、様々な人達の幸せ、の後に来る絶望、その後に来る幸せ、の後に来る絶望…繰返し、繰返し頭に叩き込まれる。

 それはまさに人の一生、いや、時代も世界も違う様々な生き物の一生。それは生き物ゆえの喜怒哀楽、感情のスベテ。

 そのうち…化け物の首の上に胡座をかいて座っていた生き物を、化け物が更に大きくなり、座っていた人の形をした小さい鬼を股のあたりに押しこんた…


『待て!やめろ!ここからがNTR耐久トレーニングの真髄!え?俺はコケシじゃない!入れるなっ!しかもこっちは!あっ!?』


『うるさいなぁヒロは…あ、間違えて前に入れちゃった、まぁ良いや。ヒロ暴れて気持ち良い♥ちょっとした冗談だしな♥さて、やるか…』


 その姿を見ていた関東圏の人の頭に、その台詞が入ったと同時に…光が夜の闇を…世界を包み込んだ。


 ファンタジーの聖夜が終わって残ったのは…流れる変わらない毎日と、変わった俺達の関係だった。

 

 





※長らくの音信不通申し訳ありません!打ち切り漫画みたいになってきたが、愛する気持ちを持ってとにかく進むのみ!コメント…タツが頑張りますのでよろしくおねがいしゃす!



 

 

 

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