じゅうなな話〜裏切りの種類、幼馴染が幸せになるのに嫉妬するのは難しい。

 海のデートは終わっても夏休みは続いている。

 本来、高校3年生ともなれば進学やら就職やら進路の事で忙しいだろう。

 残念ながら俺は…やりたい事もなければ成績はそこまで芳しく無い。勉強も好きではないし、何をやっていいか分からない。つまり暇だ…

 多分普通より出来が悪く、だからと言って極端に悪い訳では無いただの一般人だ。


 その俺は、やはり今の家族を本当の家族と思っていても、何処かですぐ自活出来るようになりたいという思いは変わらない。

 そう考えるとシアやサラは凄いな…高校生なのに俺が想像もつかないような金額を稼いでいるんだろう…コレが、俺が2人と釣り合わないと思う根本だろうなぁ…


 だからこそ、鬼頭君のバイク屋は落ち着く。

 鬼頭君は一応、高校卒業後、実家のバイク屋を継いだ。しかし実家とはいえ、雇われだ。

 親が社長で数軒あるバイク修理店の鬼頭君は雇われ店長といったところ。

 そして溜まり場になっているので色んな人が来る…主にアウトローな人が。

 しかしまぁ…この人達はどうやって生活しているんだろう?

 話し相手をしながらバイクを整備しているアウトロー代表の鬼頭君に…俺は思わず聞いてみた。


「鬼頭君ってさ、給料いくらなの?」「ブッ!?」


 鬼頭君は吹いた…そんなに反応するとこ?

 

「大人はよ、そんなストレートに人の給料聞かねぇんだよ…だからびっくりしたわ…」


 半年で既に大人の仲間入り気取りの鬼頭君…


「太郎、お前…大分失礼なこと考えてるだろう…まぁいいや…コレぐらいだよ。そして年に2回、コレ」


 コレ、と言いながら二本指を立て丸を作る。その後三本指を立ててまた横に丸を作る。

 高いのか安いのか分からない。


「俺は高卒で学無しにしちゃ普通な方なのかねぇ?まぁ、将来は大学行ったやつや真面目に大きな企業入ったやつの方が稼ぐだろうよ…ただ、バイクいじり放題が良いところだな、後、色んな人との出会い?」


 奥を指差す…そこには女のコ、ギャルっぽい人が2人が勝手に工具を出してバイクをいじってる。


「最近は大型バイクやらは流行らないけどな、いつでも流行ってのはあるもんだ。真面目な女のコが新聞配達と蕎麦屋御用達のカブ乗るなんて時代だな(笑)そしてビッグスクーター乗るギャル、金はねぇけどギャルのパンツ丸見え、雇われ店長最高!役得役得(笑)」


 スクーターのブレーキを交換するのに、ミニスカで仰向けになって作業するギャルのパンツを、鬼頭君と一緒にプレイリードッグのよう並んで見る。

 豹柄黒で派手柄のパンツ…

 好きな事、楽しい事をやって生きていく…そういうのも良いかもな…と、エロい事を哲学的に考えていると、尖った声が2人に刺さる。

 

「二人共パンツ見て楽しい?ホントにくだらない事してるねぇ…ほら、太郎はバイク屋にばっかり居るけど古本屋良いの?お客さんは?太郎も将来の事考えるのはいいけどさ…鬼頭先輩はお父さんの跡をついだら社長でしょ?全然参考にならないよ」

 

 そう言って最近、バイク屋に入り浸っている蘭子…なんとな~く、鬼頭先輩との距離感が近い。

 それに蘭子、お前だってエアコン効いたバイク屋にずっといるじゃねえか…

 

「店は良いんだよ、客は来ないしな…誰か入ればこっから見えんだから…」


「そんなんでよく給料貰えるね…」


真夏の古本屋…そしてエアコンが無い…一つの冷風扇と自然の風だけ…つまりメッチャ暑い…となると勿論客はいない。つまり店員もいなくて良い…多分。


 そう、最近…夏休みも中盤に入ってサラが店に来なくなり始めた。

 仕事が忙しいらしい…勿論、マメに連絡はしてくるんだが…エアコンが原因だろうか?

 そんな訳無い…サラはそもそも体温か低いのかそれともアレの影響か…夏の始まりに暑いのは気しないどころか上着着てたしな…逆にエアコンが原因ならどんなに良かっただろう…


 あれから…何となく鬼頭君に色々ボヤかして相談していた…薬はやるなよと言われたけど、借金あって給料天引きにされるのに、そんな金があるわけないというと納得してくれた。


 鬼頭君の教えてくれた今流行ってるドラッグ、その特徴と彼女の特徴が一致する。

 目の下に出来る不自然な隈、おかしくなる季節感、何だか熱っぽい感じのハイテンション、一致する、望んで無くとも繋がる、そして一致する。


 何だか最近、メグミもドラッグの話をしていたな。


「怖いよね、お兄ちゃんはやってないよね?」


 と、言われたが…何で俺がやってるか皆心配するのか?

 そんなにやりそうですか?俺は?


 ちなみにメグミの同級生の話を聞くと、同じ中学のヤンキーがレイプ未遂事件を起こし、脅して隠蔽しようとした現場にメグミは居合わせたらしく、そのヤンキーを警棒やらスタンガンを使い便所でボコボコにしたらしい。

 それから本人の居ない所でのあだ名が凶器の姐さんだとか…

 メグミの方がよっぽどやりそうな気がするが…

 

 まぁそんなメグミ、最近サラと会った時に引っかかるものがあったらしく、何か変わった事はないかと俺にしきりに聞いてくる。

 

 皆、サラの事に気付いてきている…なぁサラ…

 お前が思っているより、皆お前のことを見ているんだよ…お前の事、信じてるし悪いうわさは信じたくないんだよ。


 

 ある日、蘭子に呼ばれた。

 僕の知ってる蘭子はゆるふわで、何処が遠くを見ている気がした。

 俺の知ってる蘭子は達観していて、何処か伏し目がちで人の目を見なかった。

 目の前にいる今の蘭子は、真っ直ぐな目をして俺を見ていた。


「これは…太郎に対する裏切りかも知れない。ただの私の自己満足かも知れない…それでも…気持ちに嘘をつけないから聞いてほしい…」


 知ってるよ、そして…その蘭子の心配は勘違いって事も知っている。

 それは悪夢と変わらない出来事。だけどあの最悪な悪夢の中で、俺の心が唯一純粋に幸せな気持ちになった、コレで良かったと思えた最後の出来事。


 「大丈夫、裏切りじゃない。鬼頭君の事だろ?今いないから俺の気持ちだけ伝えるよ」


 蘭子には…救われた、いつだってそう。

 家族を失った中学時代だろうがシアを失った高校の始めた頃でもいつだって側にいてくれた。

 俺が好む好まざる関係無く、ずっと一緒にいてくれた。


 だから悪夢じゃない…幸せな未来の出来事。

 僕に生きる理由をくれた蘭子、俺を救ってくれた鬼頭君。なら一言だけだ。心を込めて。


「おめでとう!鬼頭君と…幸せになれよ」


「えぇ!?何で!?知ってたの?」


 蘭子が、少し涙ぐむ…

 本当に、悪夢でも思っていたんだ。変えなきゃいけない未来だとしても、この瞬間、今だけは変えたくないと思った。裏切りなもんか!

 認めるよ。二人共大好きで、心から感謝している事を。


「蘭子、本当に良かった。心から…おめでとう!俺も…2人が幸せになれるように、できる限り手伝えればと思うけど…良いかな?」


「えぇ!?何か勝手に話が進んでる!?でも…うん!ありがとう!太郎…ありがとう…」


 とうとう泣き出した蘭子… 

 そして…この人達の為にも…俺は変えなきゃいけないんだよ、自分を、未来を…そして、サラを…

 




※話を進めるとラブコメのコメが入らない…

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