第Ⅻ寝〜僕じゃない俺が作り上げた心の砂上の楼閣は脆かった

 スタンガン 校則違反 知らないの?


 俺は心で俳句を詠みながら、職員室で妹と頭を下げる。

 メグミはプライドが許さないのか、顔だけ前を向いた空手家と同じ頭の下げ方をしていた。

 

 そして何か言い分はあるかという教師の問いに、キリっとした顔で「おかしい」の連呼。

 この妹、入学式の次の日に職員室送りである。


「この辺でストーカーや強姦魔が出たと聞いてます…先生は私に強姦されろと?…もし教室にストーカーがいたら?…ストーキングされろと?…私の様なか弱い女が男に襲われたらどうなりますか?…この学校は肉体のみで自衛せよ?…と格闘家みたいな教えを……………」


 昔、こんな言い合いをしたな…メグミスイッチは入ると面倒くさいんだ。


 とりあえず、先に中庭に行くとだけメグミに伝えると、一瞬こっちに向かってクワッとなったので、ちょっとキレていたかも知れないが、無視してサラと二人で中庭に行った。

 サラが、?っとした顔をしながら聞いてくる…


「先輩とメグミちゃんって本当に兄妹なんですか?なんか距離感がおかしい兄妹ですよねぇ(笑)」


「おかしいのかなぁ?ここ最近はあんな感じだよ、いずれ分かることだから先に言うとね、本当の兄妹じゃないんよ?死んだ親父と俺が親子で、お義母さんとメグミが親子の再婚夫婦、だからまぁ血縁ではないんだけどね。でも仲良いでしょ?反抗期はお互い終わったからねぇ…反抗期の時はそれはもう、アレを俺がくらってたよ(笑)」


 まぁ、あんなハッキリ言わず無言で凄い圧をかけてきただけだけど…ちょっぴり今までの事を思い出し笑いながらフザケて言ったが…


「あ、え!?ご、ゴメンナサイ!余計な事聞きましたよねっ!?(汗)申し訳ないっす!あわわ…」


 凄いビックリされた…いや、そんな深刻な話じゃないけどね?


「いやいや、そんな大した話じゃないから(笑)ジアはあんまり自分の事言わなかったから詳しく知らないし聞かないけどさ、サラだって色々大変だったろ?皆、色々あるって気付いたんだ…たからあんまり自分だけって思わない事にしたんだ」


 少しだけ思案した後、一瞬サラの目が濁りすぐニコっと笑った。なんか一瞬で色々考えてたな。


「私だって別に大した事じゃないんですよ、私は自分の世界に逃げてましたし…過去に起きた事より今、目の前で一杯一杯です。太郎先輩や姉の様に未来や周りを見て、上手く立ち回る事は出来ません…でも!目の前の事は全力ですよ!」


 グッと拳を握って俺の方へ目を向けるサラ。


 何だかな、入学前から思ってたけど、考えや自己評価の低さが何となくシアにそっくり何だよなぁ…いつかサラも…その時が来たら俺はなにかしてやれるだろうか…思い出したら駄目だと思いながらもあの日…動物園の……俺のせいで悩ましてしまったシア………逃げる事しか出来なかった自分の…


―――わだじ!ごべん!わたじが!…どうずれば…どうずればあい!?どうずれはよがっだ!?ダロァっ!おじえでよぉ!―――


 ん?目が…ヤバ、やっちまった。

 サラの前でツーっと涙を落としてしまった。

 未だにあの時のシアの事を思い出すと涙がでる。


 情けない限りだ。怖くて逃げた、お前は何も悪くないんだよって、周りと、そして俺、お前以外の全てが問題なんだって…そして…もしお前が望むなら俺は一緒にいてやる、応援してやるって…あの時なんで言えなかった?


 サラが心配そうに見上げている、馬鹿か。慕っている後輩にこんな顔させてどうするよ…


「あー、その俺はちょっと最近涙脆くてな、歳かなぁ(笑)」


「先輩…先輩が姉の事を考えている時、どんな顔してるか…知ってますか…?辛そうなんですよ…いつも…私は悔しいです…私だったらそんな顔させないって…メグミちゃんにだって負けない…王子じゃなくても…私が1番…先輩を…好きだもん…………あ!?いぇ!?あっ!あの!?」


「そうかぁ…嬉しいよ…でもゴメンね。まだそういう風には考えられないよ…でもそうだなぁ…サラといると…辛い時、休みの間バイト先に来てくれていた時は楽しかったわ。久しぶりに外で笑った気がしたよ。ありがとね」 


 確かに救われた、サラに…メグミに…俺も蘭子もこの学校に何も期待していなかった。

 もし高校卒業して、卒業出来た理由を言われたらこの二人のおかげと言えるな。


 そしてサラのこの好意は…そうだ、思い込み、勘違い…って蘭子が言ってたな。

 あんな上手いこと助けられたら惚れちゃうって。

 でもこれからサラは、3年間も時間がある。

 そして才能のある子だ。

 シアの時は、取り返しがつかない状態になっていた。

 俺の気持ちも、シアの気持ちも…そして環境も…

 だから今度は…どのような結果でもしっかりやるんだ。


「うぅ…ふ、ふられた!?でもぉ…私、あ、諦めませんから…私だって…わた…ヒィッ!?メッメグッ!?」


 明らかに教師と折り合いがつかず、キレて出てきたであろうメグミが俺とサラの間に立っていた…重箱の弁当を持って…目が…瞳孔が…ヤバい…


「誰が何を好き?…何が誰を諦めない?…兄さん、何してるの?」


「良し、メグミ。食べよう!な!?今日は何を作ってきたのかな?はは〜ん俺の好きなものだといいなぁ!」


 ちなみに食べに誘ってきた奴がいきなり職員室に連れてかれる昼食会に蘭子は先に帰ると言い、ヨウタはバイトがあるからと来なかった。ですよねぇ。


 つまり新1年生2人と3年のボッチが1人で中庭で重箱をつつく…どんな罰ゲームだ(笑)


「美味い!タコさんウインナーだ!良いねっ!タコ!のウインナー!」


「ホントに?…兄さん何か…おかしくない?」


 俺はおかしくない、おかしいのはこの状況デス。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「それじゃ私達はクラス帰るから…行くよサラ」


「うん!先輩!また後で!」


「「後で?」」


 サラと被った…後でって何かあったっけ?


「オーナーさんと約束したんですよ〜バイト見習い兼お店でイラスト販売!」


「「はっ!?何それ!?」」


 血は繋がって無くてもこういう時、兄妹だなって思う…聞いてないんですけど…


「まぁそういう事で!」「サラ…後で…詳しく…」


 とりあえず手を振って別れた3時間後…マジで店に来たサラ。

 俺の横でシャカシャカと、凄まじい数の色鉛筆を色んな色のマジックみたいなペンを使い分け本の挿絵を模写…というかデフォルメして現代風に変えて書いていく。あっという間にオススメの小説のポップの出来上がりだ。


「スゲェなサラ…ってゆーか、このレベルの人がなんでここでポップ書いてるのか分からん」


「この店、先輩の横が1番調子良いんですよ!それでですね、今日メグミちゃんが体育の時間に……」


 書きながら、とりとめの無いメグミとの日常を話す。凄い速さで出来上がるプロと言えるレベルのポップの数々…

 蘭子が来たときも「何でいるの?こんなレベルの人が…」と、衝撃を受けていて、隣の店の鬼頭先輩の店にもポップを書いて街の話題になった。


 そんな感じでハーレム登校、蘭子とヨウタとダベる、メグミとサラと昼食会、サラとバイトと鬼頭先輩の店を出入り、家帰ってメグミや蘭子とダラダラ話すの繰り返しの毎日。

 ヨウタや蘭子と学校帰りにゲーセンに行った。

 メグミの影響でボコられる事は無くなった。

 サラのイラストや釈華shakaのペンネームは有名になっていくが、顔出しの職業じゃないサラはマイペースだ。

 なんやかんやで青春を楽しんでいた。


 しかし、一つ気になることがあった。

 家に妖精の様に現れていつか帰ってくる約束をして以来、シアが全く学校に来ないのだ…サラはたまーにシアと家ですれ違うらしく、仕事が忙しいとかなんとか…

 芸能人は大変だろうなぁと思っていた…あの夜の事は夢みたいなものだと言い聞かせながら…


 それは3年が始まって2ヶ月の6月、同じ平穏な毎日に打ち込まれた現実…突然だった。

 スポーツ誌、ネット、ワイドショー…見たくなくても入ってくる。

 写真という証拠と空想という冷やかしが飛び交う内容だけで見れば陳腐なゴシップだ…


 街を一緒に歩く写真、腕を組んでデートの写真、ホテル街を歩く写真、唇を合わせているような…



『人気絶頂のシア!恋人はイケメン俳優のT!?』





 分かってたさ、その為には覚悟を今まで決めてきたんだ。祝福するために。

 俺に拳を握る権利は無い、自らの手を放したんだから。傷付かない為に。

 しかし想像していなかったナ…巨大な杭を、胸に打ち込まれた様な衝撃。


 たった一言言うために…僕から俺になったのに。

 何で…なんでたった一言が…言えないんだろう…

 

って…何で言えねぇんだよ…クソ野郎…」 


  

 


 


 


 

 

 

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