見上げる者を見ていた、1人は優しく、1人は罪深く①

ずっと傍に〜【蘭子】は達観しながら何処かで諦める

 太郎は私に言った。空気のような見えないモノに恋のしようがないと。

 太郎は私に言った。空気があったから俺はここまで生きてこれたと。

 太郎は私に言った。俺の人生は何も成し得ないと。

 でも、月と太陽を見ながら家族がいて空気を吸える。これ以上の幸せがあるのかなってね。

 笑いながら、太郎は私と…に言った。



 私は学ぶ、いつか太郎が本当の意味で恋が出来る日が来ることを待っている。それまで学ぼうと思った。


 告白された時、それは普通の恋人を望むソレとは明らかに違う気配がした。

 正直、失礼だろうと思った…だって明らかにシアの事が好きなのに…


 私は太郎と付き合う前から、男と付き合い、やる事はやる。

 なるべく相手を見て、良いなと思ったらする。

 だから、太郎が告白してきた時は、コイツは幼馴染みなのにヤりたいだけだろと思った。

 セフレであれ、浮気をするような人間であれ、ルールがある人がいる、矜持がある人がいる。

 孤独な人、性行為ありきで運命の人を探す人。

 間違っても子供ができるような事はしない、それは私も相手も同じ気持ち。

 でも、太郎だったら…無条件でしても良い。

 彼とはそんな関係だった。

 

 私は深くグループに属さない。邪魔になるから。

 たかたが3年間、だけど3年間…社会に出て、女以外のステータスがないと動けなくなる前に選び学ぶ。

 これは私の我が儘、生きていれば辛い目に合う、絶対に。

 だけど…太郎には辛い目にあって欲しく無い…シアと付き合うという選択肢が生まれた時、せめて心が死なない様に…私に対して恋をするなんて多分無いんだろう…だから慣れてくれれば…練習になればそれで良い。

 傷付く事に、恋をすることに。

 

 太郎は孤独だ。元々独りを好む。

 再婚と血縁を亡くす内に血の繋がりがなくなった親、家族。

 距離を無理に縮めたい義理の母親、妹は太郎の事を本当の兄のように慕っているし尊敬も…そして恋慕している…にも関わらず、気を使う内に余計距離が離れていく事を分かっていない。

 いや、分かっているけど太郎に伝える方法を知らない。


 いつか離れていく幼馴染、特にシアは…シアと太郎のお互いの気持ちなどお構いなく、離れていくだろう。

 シアは自分を知らない、分かっていない。

 太陽であり遥か彼方に飛べる羽を持つ、その純粋な素質と魅力は人を惹きつけ身と心を焼け焦がす。


 そして太郎は地を這う人、より深く孤独に堕ちる人、だ。


 太陽が地球に激突したら?大変な事になる。周りは放っとかないだろう。地球もたまったもんじゃない。だから私は伝えたつもりだ。

『そのままなら太郎は苦しむ』と。


 シアの事は昔から知っている、太郎の事が好きなのも、その歴史の長さも知っている。


 シアは太郎を運命の人だと思っている…その太郎からシアは距離を置くように言われた、その時にシアは私の所に来た事がある。


『だったら…この顔を傷付け身体を壊し何もかも失えば太郎は振り向いてくれるのか?』


 一切の躊躇いなく真っ直ぐな目で言われた。


 私は当時、迷いなく答えた。

 その方法なら太郎は一生背負ってくれる、けどそれは重圧、重荷だ。荷物になったシアを一生背負わせたいのか?…と。


 その時、シアは女だったら誰もが羨む美しい顔を歪ませ苦虫を潰した様な顔になり諦めたが…今となってはそれもまた、シアの事だけ考えれば、正解だったんだろうな。


 だから私は否定した、太陽が捨て身で地球に突っ込んできたら?地球はおろか、その周りも大怪我する。それは私は勿論、関わっている家族、友人、etc…

 そんな選択肢を…細い糸の様な、だけど切れない確かな絆を望む太郎は、間違いなく望まない。


 私は…いつか太郎が安心して帰ってくる場所でありたい。

 どんな事しても受け入れてあげる。どんな事しても受け入れてくれる。

 私と太郎はそんな関係を目指す。


 だから…気持ちがシアに向いているうちに『蘭子はしょうがないなぁ』と思わせる。

 浮気や裏切り…ではない…と思う。多分。

 お互い気持ちはないんだから。

 そもそも太郎は知っている、太郎と付き合う前、私に別の彼氏がいた事を…すぐ別れたが、その人と始めてを済ましている事を…


 最初の他人との行為の時に学んだ事。

 気持ちの入ってない行為は驚く程不快な事。

 これは恐らく、男性とは違う感覚という事。

 無論、この行為自体が好きな女はいるだろう、だけど私はその限りではない。

 正直に、全部伝えた…勿論具体的な話はしていない。身体の問題を伝えた。

 シアは…気持ちの問題って言って太郎に襲いかかってたけど…言ってる事も一理あるけど…その考えだと大変だと思うけどなぁ…


 私は太郎を誰よりも知る。

 残念ながら太郎という生き物は気持ちの問題が一番デカい。

 小学生や中学生の時、繋がりを一瞬にして切られていく経験をした太郎だから持つ感覚…細くて弱くても絶対に切れない糸を望む。

 正直に心根を伝える事、それが太郎にとって一番の安心、安らぎだ。

 だから、願わくば正直者のシアと幸せになれれば良いと思う。


 そして結局…太郎は孤独を選んだ。

 シアは待たずに、焦り問題を解決しないまま、太郎と距離を縮めようとした…私は知っている。


 必死に太郎と自分の関係を説明し、味方を探し、友好関係を広げ太郎との接点を作ろうとした。

 色んな所に顔を出し、他人のために努力し、味方を増やした…つもりだったんでしょ?


 結果、太郎は独りを選ばざる得なかった。

 悪意に慣れていないシアが悪意によって翻弄され、悪意によって離された。

 味方の振りをした独占欲、顕示欲。

 シアを手に入れれば何だって出来るもんな。

 その後の交流関係を見れば分かる、太郎に絶縁されてから明らかに周りへの態度が冷たくなった…多分興味も無かったんだろう…だけど…そのヘイトがまた太郎に行くという事を、シアは分からなかったみたいだなぁ…


 そして私も、選んだ訳では無いけど、高3には同級生の友達は太郎だけになった。

 付き合う男はちゃんと見たんだけど…だけどその男が選ぶ女までは流石に無理だった…

 現在、学校では太郎と私と付き合っているのに両方セフレになっている。

 シアの耳にはどんな評判がいってるんだろうな。

 学校…本当にくだらない…でもないか。

 これでも付き合っている時には本気だったんだ。


 でもまぁ…私は待っている…太郎が独りでいることをやめる日を。

 もう知らない男から学ぶ事は無いと思う。

 私は静かに平穏に、別の事を学び、自分を磨き、ただ太郎を待つ事にしようと思う。


 そして3年…私が太郎の傍で待っている間に、太郎の心を動かす3人が好き勝手に動き始める。

 自分の太郎を押し付けるのはやめてあげれば良いのに…

 自身を変化される、矯正。

 周りからの圧力、強制。

 そして大切な人達が自分の事で揉め、罵倒し、お互いが太郎に主張し依存する、求められる共感…

 共感を強制し、自らを矯正する。

 それは中学時代、太郎の一番嫌う事だった筈だ。


 太郎の妹、メグミは言う…蘭子さんなら良い。

 だから、今まで通り、絶対に心は裏切らないで欲しいと。

 あの姉妹の様に…兄の優しさを自らの欲望で踏みにじらないでくれと。これ以上の傷付けないでほしいと。

 だけどメグミ、それはきっと違うよ。太郎の心は違うと思う。とても優しい人だから。

 それにあの姉妹…特に私の知るシアは…

 シアの本心を知った所で、伝わらないだろう。


 周りは私の事を噛ませ犬と言うかも知れない。

 これは、私の気持ちは恋とは違うのかも知れないけど…愛情である事は確かな筈だ。

 私は孤独な太郎の帰る家でありたい。

 例え付き合わずとも、行為がなくとも、結婚しなくてもね。

 おかしいと思うなら思えば良い。

 ただ、私の知る太郎は孤独な人で、同時に感覚で生きる人だ。

 だからもしシアの所に、いや、サラでも良い。

 選んだとしても私は後悔はしない。


 いや、後悔するとすれば…多分、太郎とする性行為は気持ち良く幸せな気持ちになれるんだろうな…と、想像する。それが出来ない事かなぁ…


 そして太郎は…高校の3年で…自らを矯正し、他人を理解し受け入れる事を認めた。

 そのやり方は…やってる事は…ただ耐える事。

 大切な人の幸せを、夢が叶う事を、ただ願う事。

 そして…事実を認め謝り、人を許し、赦し続けた。


 馬鹿だよ太郎は…そんなコトしたら太郎も…皆も狂っちゃうよ…怒りは…悲しみは…何処に行ったの?…それじゃあ、皆、依存しちゃうよ…教祖にでもなる気なの?…


 外から見ていた私ですら…余りにも酷くて苦しくて泣いたんだ。

「お前が泣くなよ」ってアンタが泣かなきゃ誰が泣くんだよ!こんな辛くて悲しい現実を。 


 だから私は支えた、支えるしか無かった…支えなければいけないのに…裏切った…裏切った私を…祝福するなよな…満面の笑みでさ…


 私の大切な2人の男…3人で映っている…写真の真ん中で、太郎が両手を広げ左右の私ともう1人のの肩を組み、満面の笑み。

 そして写真の裏側の手書きのメッセージ…



 高校3年間で始めて私が見た太郎の最高の笑顔…憂いもない、諦めも無いてんねぇ太郎…


 こんな笑顔を最初で最後にしないでよ…ばかぁ

 あんたのせいでぇ…3人が拗れに拗れて大変な事になってるんだよ〜…だからさぁ…


 起きてよぉ…太郎…また…笑ってよぉ…ねぇ…たろぉ…

 

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