第2寝 激しい恋愛や強い裏切りに耐えられる自信は無いよ…

 今日も日差しが明るい…僕は1人で、学校に行く為に準備する。


 今日、彼女である蘭子は部活の朝練だ。流石に蘭子といえど、朝からNTRは致すまい…多分。

 ただ…シアと一悶着あった次の日に限って、蘭子は居ないんだよなぁ…


 蘭子とシアが同じ空間といると場合、肩を掴み合いお互いに罵声を浴びせながら肩を揺らし合ううちに、クルクル回りながら互いの罵声と共にどっかに消えて行くのだ。何やってるんだろうな?

 つまり、まぁ、僕の平穏な時間は守られる。


 シアは昨日、ちゃんと帰ったかな?と思いつつ、部屋を出ると廊下にいた。

 昨日帰って着替えてきたのか、制服姿のシアが丸まって寝ていた。

 

 面倒臭いから抱えて僕のベッドで寝かそうとしたらネコ科のような目を見開いて僕を睨んできた。


「太郎、おはよう!その前に、目があったのになぜ無視した!?教えろ!おかしいから!怒ってるよ!?」


 シアより少しだけ小さい僕の身体を、僕より強い力で絶対に離すまいと握り締める。逃げられないな…

 仕方無い…僕はシアを抱きしめ返す…強く、力強く…


「なんだ?♥なんだなんだ?♥力、強いかもしれない♥」


 そのままベッドに押し倒して四つん這いで、仰向けなっているシアの上にいく。


「あっ♥それで…イイ♥太郎!♥イイ♥タロァ♥ァア♥」


 目をギュッとつぶり舌を少し出してスタンバイOKなシア…僕は黙って、静かに立ち上がり、シアの意味不明なひとり語りを尻目に部屋から出た…そのままパンをくわえて家を出た。


 「た、太郎!♥出来れば…優しく!♥いや!激しく…して!♥か、身体が熱い!♥ぱ、パンツ♥脱ぐぞ!♥太郎!♥馬鹿!♥早く!♥シア、馬鹿になる!♥自分で!♥触る!♥早く!♥馬鹿になっちゃっ!?アレ?太郎!またかっ!?タロァアアッ!」


 家を出てすぐの電信柱に隠れて見ていると流石、陸上部のエースをしているだけある。

 キレイなフォームと圧倒的な速度に、はだけた服のまま、まるでチーターが動物を狩るときのように走っていく姿を見送った。


 僕はゆっくり学校に向かった。


「お、おはよ〜」


 教室に着くと同じクラスの蘭子が上気した様な頬で挨拶してきた…え?まさかしてないよな?

 昨日の今日で、しかも朝一番だぞ?

 2度としないって「最速でやる」って意味なのか?

 

「さっきシアが来たよ…急に襲いかかってきたからビックリしたよぉ…あの子…本当に我儘だよね。」


 良いか悪いか、NTRではなかったらしい。

 また喧嘩したのか…よくやるなぁ…


「タロァっ!また!消えた!酷くなった!もっと優しく!もっと激しく!頑張れタロァー!」


 休み時間になるとシアが、小学生みたいなノリでやってくる。僕はシアに極力教室には来るなと言っている。

 そして俺からはシアの教室には絶対に行かない。

 だから帰り道、帰宅部の僕とシアが会うのは基本的にシアが部活を休んだ時だけだ。


 こんなやり取りが僕の周りではほぼ毎日、夏休み前まで行われていた。

 高校一年でシアと再会、そして進級し、僕と蘭子が付き合っても、僕の周りの…蘭子とシアだけは同じ毎日、小学校の延長を進んでいる…正確には2人が同じ毎日にしていた。

 

 子供の時から蘭子は緩く、だけど着実に何かを学んでいる。中学の頃からだろうか?僕が楽な様に、気を遣う事の無いように動く、まるで空気だ。

 だから2人の時は正直とても楽なんだ。たまに蘭子は実在するのかすら不安になるって話をしたら怒られた。

 そして告白した時は流石に何か言いたげだったけど…それでもOKをくれた。


 シアは子供の時から動物が好きで動物のような活発な生き方をしている。昔はシアといるとワクワクした、一緒に些細な新しい発見に胸をときめかせた。シアは未だに新しい発見に夢中だ。性的なアプローチも彼女の自由を尊ぶ心と探究心からくるものだろう。

 以前、インコを買っていて亡くなってしまった時も『飛ばしてあげれば良かった』と泣いていた。

 そう、まるで全てを知れば、何処か遠くに行ってしまう様な…


 2人共、僕の自慢の幼馴染で、一生付き合っていける仲だと思っている…

 いや、僕は…嘘ついた…嘘をついている。

 自分にも…蘭子にも…シアにも。


 蘭子も薄々気付いているだろう…そもそも普通は寝盗られて「またか」みたいな会話になるのはおかしい…らしい。でも…蘭子は心は常に僕の側に、太郎の方へ向いているという。

 これは蘭子の一つの結論、僕の中学生で狂った頭を配慮した、考え抜いた末の僕との関係の形なんだろうな。心は、心という曖昧なものだけは独占出来る。

 結果、蘭子は友人もいるが、どちらかといえば孤立している。

 もしも僕の事を考えてくれているのであれば素直に嬉しいし申し訳ない…だけどこの関係は歪だ。

 そして、その蘭子に対して僕は劣悪にも燻っているものがある。

 僕が好きなのは…心を束縛し…独占したいのは…僕の中学時代を知らない…きれいな思い出のまま生きている…美しいシアなんだ。


 僕は人を信用出来ない、その上で…弱く醜い。

 自分の事だ、何となく分かる。

 独占欲がとても強い…それも心の束縛が酷すぎる。

 そしてこの醜い心の独占欲・束縛は、皆に愛される人、つまり人気者を激しく嫌い遠ざける。

 人に愛される人…愛されているが故に独占も束縛も出来ない、だから嫌う性質。まさに駄目人間だ。


 そして僕の好きな『図浦ズウラシア』

 天真爛漫で少しの間外国に行っていた、東欧の血が入ったハーフの幼馴染…とても綺麗で優しくて、少し抜けている所も皆に愛されて…誰だって彼女を知れば好きになる。


 小学生の時は良かった、二人共原始人の様でシアにも僕にも友達なんていなかったから。

 運動は出来たかも知れないが、ルールも何もない。常に新鮮で、毎日が冒険だった。

 思えばあの時から束縛してたんだな…


 しかし…シアだって今の原始人みたいなままじゃいけない事ぐらい分かるだろう。


 いや、僕は知っている。

 最近は俺と蘭子の前だけなんだ…あの幼い馬鹿みたいな感じを出すのは。

 2年になり廊下からシアのクラスでの立ち振る舞いを見た事がある。

 人付き合いも上手くなっていた。

 友達も男女問わず増えている。

 比例して告白される人数も…


 僕は聞いている、シア以外から。

 部活では活躍し、学校帰りにはジュニアモデルにスカウトされ、部活帰りには他校の生徒を含めたイケメンに達に告白される。

 カラオケ…なんて僕は行ったことないが、シアは歌がとても上手いらしく、その方向でも話が来ているらしい。


 僕は知らされている、シア以外から。

 最近は今まで断っていたマスコミの取材…部活の時間だけならと、部活中に陸上雑誌とファッション誌の取材を受けていた。

 シアは現在片親で、家族は母親と歳の3つ離れた妹がいる。

 お母さんとはたまに話したがヨガの先生だかで、とても自由な人だ。

 やりたきゃ何でもやれと投げ出していた。

 妹は外見は母親似だけど、普通の、とても真面目な子で、あの姉がいると思うと自分だったら…と心配してしまう。

 シアの外見は、僕も数回しか見たことない離婚した外国人の父親から来ている。


 そんなシアは2年になり僕へのアプローチが強くなると、同時に何でもやるようになった。


 結果、シアの人気が加速する。 

 『陸上界の期待の星!』『日本バスケの新星』

 雑誌はここぞとばかりに囃し立て、大会と関係無い人が集まるようになる。


 そして、シアの人気が加速する。

 『全国高校生美少女ランキングトップ10』

 ファッション誌では一枚の写真で他を圧倒、陸上の大会ではテレビが入った。スポーツ万能少女と街の美少女が繋がった。


 シアの人気は瞬く間に広がる。

 『ネットで話題!美しすぎる女子高生!』

 制服姿で昼のワイドショーでインタビューを受けていた。

 シアの存在が、雑誌とテレビとネットの3つが繋がった。存在そのものがアイドルになっていた。


 シアの人気が加速して…もしも僕の、この独占欲がシアに向いてしまったら?

 多分発狂するだろう。何を好き好んで気が狂わなければいけないのか?


 ただ、僕が動かなくても、感の鋭い奴や同じ小学校と繋がりのある奴は気付く…幼少期から僕の事をシアが追っかけ回してる事を…

 そしてシアは蘭子と僕がろくな付き合い方をしていない事を良いことに、スキあらば絡んでくるのだ。


 そして夏休み前に…さらに惨めな事件が起きる。


 『図浦さんに近寄るな ゴミ』


 嫌がらせだ…こんな事をすればせっかくシアが高い場所へ行こうとしているのに、知ってしまえば逆に足が止まってしまうだろうに。

 

 絶対、シアに知られてはいけないと思った矢先、蘭子にバレた。同じクラスだからなぁ…一応彼女だし。蘭子が怒った。


「これ、どう見てもシアのせいだよね?あの娘、何やってんの?」


「いや、シアには言わないでよ、最近色々頑張ってんだからさ…」


「なんか釈然としないよぉ…でも私は彼氏がこんな酷い目に合ってるの嫌だからね!」


 何やるのかなーっと思ったら情けない事に、蘭子がNTRで培った(夏休み前までに8回)ツテで、先輩権力を使ったらしく嫌がらせは止んだ。 

 その先輩とやらに言われた…


「まぁお前が悪くないのは蘭子に言われたから分かるけどよぉ…なんか情けない奴だな…」


 でしょうね。僕は心の中で「でも先輩は人の彼女寝取ろうとしたじゃないですか」とは言わなかった。情けないのは事実だから。

 そして続く糞の連鎖…次々に…延々に…


『頭浦さんとは付き合っていないのか?もし違うなら距離を取ってくれないか?』

 そんな事をシアにバレたら、アンタが付き合えなくなっちゃうぞ?


『たまに君の話をするのが困る、シアちゃんはその話カットすると怒るんだよ。だって君の話は…ねぇ?』

 アンタと気持ちは同じなのにな、僕に何を言えってのか?


 それは嫉妬…それは善意…多くのお節介…


 ここまで来たらどうでも良かった…馬鹿らしかった。

 僕は現状では何も打破出来ず、何を解決すれば良いか分からず、何を変えれば良いのか分からず、夏休み前に迷宮に入った様な錯覚に陥った。


 そうだなぁ…シアと会おう。2人で。分かるし、分かってしまう。そうだ。デートしよう、そして知り、知ってもらおう。

 状況を。自分を。伝えよう、気持ちを。


 蘭子に話した。僕らのこれからの事、そしてシアの事。


「だから…蘭子とは別れようと思うんだ…」


「考え直さない?って言っても駄目かなぁ…でも…耐えられそう?絶対キツいよ?」

 

「わかんないな…最悪、別れなくても良いよ。でも自分から嫌われる様な事はしないよ?だって…シアと距離を一度開ければ、そのままでも皆とは勝手に距離は開いていくから。それは蘭子とも同じだよ」


「そうかなぁ?でも、まぁ今までと同じだね!私は別れたとは思ってないから。今まで通りの幼馴染だよ」


 蘭子は強いなぁハートが。


 夏休み前の休日、シアをデートに誘った。

 その時に言った。『今の高校生になったシアとデートしたい』と言った。


 「ん!?そうか!?とうとう蘭子!捨てたか?頑張るぞ!デート♥太郎とデート♥どこ行く?どこだ?♥」


「今のシアとちゃんとしたデートしたいんだ、あの場所で。」


 僕は思い出の場所にシアを誘った。

 シアとは何度も行った場所。小学生の時、目をつぶっていても歩けるんじゃないかと言う程、行った場所。

 地元の動物園ズーランドだ。

 僕らの時はやたらだだっ広い場所に有名なのはゾウ、キリン、ライオン、クマぐらい、そしてオカピという変な生き物。

 それ以外は、珍しくもない犬やら猫やら鳥やらの展示と謎のオブジェが沢山置いてある動物公園だ。


「懐かしいな!ズーランド!動物クイズしながら回ろう!楽しみだ!あの犬やら変な生き物元気かな♥あと思い出の動物の糞!」


「そうだなぁ、久しぶりだな(笑)」


 ワクワクしながら家に帰っていったシア。

 僕は知っていた…時間と現実と進化。そして不要な物は消え去る事を。

 思い出は、永遠には残らない事を。


 蘭子とはまともなデートなんてもんはしちゃいない。二人でダラダラしてるだけ。

 だからちゃんとしたデートなんて出来ないけれど…だからこそ分かるんだよ、僕の程度が。



 当日、駅前で待ち合せた。バスに乗って行く動物公園。

 現地でも良かったけれど、昔は家から一緒だったからな。それに比べれば…そして…


 待ち合わせ場所には5分前に到着した。

 待駅前駅バス乗り場の前には若者の人だかり。

 その中心にシアがいた。

 矢継ぎ早に話しかけられて僕の事はまだ気付いていない。


「応援、ありがとうございます!頑張りますね!…サイン?私、サイン書けませんよ?…早く走るコツですか?ちゃんと反復練習してフォームを…」


 少し離れた所でジュースを2本買って待つ。

 座りながら…シアを待つ…人だかりを見る…ヘドロの溜まった様な醜悪な感情が出る…もし付き合っていたらどう思うかなぁ?…僕のシアにワラワラと…クソ共が…全員ぶっ○して…駄目だ…

 下を向け…顔に出すな…周りにバレるぞ…ほら、シアも来るぞ…


「ゴメン!太郎!おはよう!待たせた?…太郎?」


「おぉ!お疲れ!人気者は大変だなぁ…ほらジュース買っといたぞ!」


「太郎?…あ、ありがと!」


 言い方悪かったかな?気を付けよう…それにしても今日のシアは…別人の様だった。

 左右の髪を三編みにして後ろでまとめてうっすら化粧している。

 短めのカーキ色のワンピースにショート丈のジーンズ、足元はミュールを履いている。

 海外のファッション誌から出てきたモデルさんかな?

 そりゃ人だかりも出来るわな…なんかヒソヒソ聞こえるしな…どいつもこいつもうるせーな…


 もう…始まりから…思い知ったわ…これが…僕の本音、正体か…


「ヨシ!じゃー行こうか?久しぶりのズーランドだね!」


「うん…そ、そうだね!しゅっぱーつ!」


 こうして僕はシアとのデートを開始した。


 この日を境に、自分を深く知り、そして、他人という者を強く自覚する…心から愛し幸せを願うた唯一人の女性が美しく羽ばたいた結果だ。


 そして殆どの人は高く遠くへ羽ばたいて行くのを手を振り美しいと感嘆そ、見送る。

 は…その光景を睨め上げる汚物と知った。

 

 

 

 




 


 



 







 

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