塚原卜伝vs蘆屋道満 決着

 “肆面楚歌式しめんそかしき阿羅貴神あらたかがみ”――!!!

 “最初之太刀はじまりのたち”――!!!

 交錯する二人の間にあるのは、勝利を求める渇望のみ。

 好敵手と相対するまで生き残り続け、勝利を掴み取るため。

 久しく感じ得た勝利への欲求を満たすため。

 互いに抱いた思いは違えど、勝利を求む心は同じ。が、久し振りに芽生えた勝利への執念に燃える塚原卜伝の目は、既に未来を見通していた。

 勝敗の行方はもうわかった。

 しかしこの手、刀を握る手から力が抜けない。刀を振るう手から、意識が離れない。

 既に結果の分かり切った戦いに、何を夢中になろうかと、後で馬鹿馬鹿しく思えてくるのはわかっている。けれど、勝利に餓えた獣と化した自身を操る手綱を、剣聖とまで呼ばれた男は持っていなかった。

 持っていなかった事に、気付かされた。

「――!」

「――!」

 一瞬の交錯。誰の目にも捉えられはしなかった。

 一般人はもちろん。どのチームの転生者の目にも捉えきれなかった攻防を制したのがどちらかは、当人らにもわからない――はずだが。

 塚原卜伝は、未来を見る。

「……参った」

 発したのは卜伝だった。

「まさかこの俺に、初心を思い出させる者がいようとは。それも剣士ではなく……陰陽師とはな。おまえの、勝利への執念に看過されたかな……

 首の根から腰まで掛けて、一刀両断。

 刀身の折れた刀でどうしてそんな事が出来るのか、誰にも説明など出来ない。

 わかるのはただ卜伝が、道満を斬り伏せたという目の前の事実のみ。

「始まりでは――一つでは勝てなかった。故に最後の最後、本当に最後まで追い詰められた俺は、俺の全てを振り絞るしかなかった。それ以外に、勝つ未来が見えなかった。“終之太刀しまいのたち”と名付ける事にする我が一刀、冥途の土産に持って行け。我が好敵手よ」

 膝から崩れ落ちた道満の体が、元の人型に戻っていく。剣は砕けて消えていく。

 傷の大きさは変わらないため、体が自身の重さに耐えかねて切り口を中心に裂けた。

「剣と、片目と……随分と代償を払わされた。が、そうでもしなければ勝てなかった。勝利に餓えた者には要らぬ世話だろうが、この塚原卜伝。再び目覚めるきっかけをくれたおまえの名を胸に刻もう。陰陽師、蘆屋道満」

『け、決着!!! けっちゃぁぁぁく!!! チームレジェンズ対チームルーザー! 激戦を制し、最後の戦いを勝利したのは……チームレジェンズ! 塚原ぁ、ぼぉくでぇぇぇん!!!』


 最終試合。勝者、チームレジェンズ。塚原卜伝。

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