第7話 絶望から救われる

〈藤田 洋平〉視点


最初は少しお腹の調子が悪いかな?って感じだった。


そして日が経つにつれ便に血が混ざるようになった。


これは不味いかなって思い始めて病院に行く事にしたんだ。


この時点で危機感なんか全く持ってなかった。

消化器系の病院なんか行ったこと無かったから、良い機会だと思って胃カメラ検査や、内視鏡検査をしようと病院に行ったんだ。


検査は想像以上に苦しかった。

はっきり言って舐めてたわ。


まあそれはいい。


結果は胃は問題なし。

でも大腸の方にポリープが有ったんだ。


その場で医者に言われたよ。

病理検査に出して、結果をみないと断言出来ないが、多分悪性だろうって。


産まれて初めて頭が真っ白になるってのを経験したよ。


そこからはあまり覚えてないけど、医者は早期に発見出来たから大丈夫みたいな事を言ってた気がする。


★★★★★


病理検査の結果を聞きに病院に行くと、やはり悪性で大腸癌であることを告げられ、大学病院への紹介状をくれた。


もうね、このときの俺は頭の中ぐじゃぐじゃだった。


娘、息子はまだ小さいのにどうなるんだとか、妻になんて言おうとか、とにかく不安でいっぱいだった。


★★★★★


大学病院に行く日、妻も仕事を休んで付き添うと言うので一緒に行くことにした。

普段は、喧嘩もするし、憎まれ口を叩く事もあるが、心配してくれてるのがよく分かる。

夫婦って、、、家族って良いなって改めて思えた。


そして思い直した。

一家の大黒柱が弱気になったら駄目だろう?!

必ず元気になってやるって。


★★★★★


大学病院に行き、妻と一緒に先生の話を聞いて来た。

直ぐに入院するなんて事はなく、病院に通って抗癌剤治療。

手術前に入院ってスケジュールだった。


早期発見出来たことから、大腸は幾らか取らないといけないが大丈夫だろうって話だったよ。


それでも不安はあったよ。

転移したらどうしようとかね。

そんなこんなで手術の日が近付き、入院する事になった。


★★★★★


最終検査前日に、真由の担任の先生が御見舞に来てくれた。

まだ若い男の先生で熱血先生って感じの人だ。

中学、高校なら先生が見舞いに来る事なんかないと思うが、小学校一年生の担任なら普通なのかな?

まあ先生によるか?

なんて考えながら当たり障りのない会話を交わし、先生が帰る時に握手を交わした。


握手した時、身体が温かくなった気がしたのは気の所為ではないと思う。


★★★★★


次の日の検査の日。

内視鏡検査をする為の下剤(スポーツドリンクに塩分増々にしたような飲み物)を飲んだりして、また内視鏡か〜、嫌だな~なんて思いながら検査した。


やった事がある人なら分かると思うが、意識のある状態でする場合、内視鏡を入れられてリアルタイムでモニターに映る大腸の中を見れるんだよ。検査中にモニター見ながら先生が説明してくれたりするんだけど、内視鏡をどれだけ入れてもポリープが無いんだ!

前の検査で実際に俺もポリープを見てるし、不思議に思ってると内視鏡を操作してる先生が「あれ、無いな~。大腸が終わっちゃいましたね~。」

なんて言うんだ。

モニターを見てもカメラが戻ったり、進んだりして詳しく見てるのが分かる。


「先生、どういう事ですか?」

俺の言葉に先生は少し考えながら応えてくれる。


「ポリープが無くなってますね。異常がないどころか、どんなに見ても健康な腸にしか見えないですね!」


「それは治ってるって事ですか?」

俺は期待を込めて先生に聴いてみる。


また先生は少し考えながら、

「そうですね。信じられませんが癌が消えてます。奇跡としか言えないですよ。血液検査や他の検査結果がまだですが、大腸は問題ないと思います。」

と応えてくれた。


★★★★★


全ての検査が終わり、結果はどこも異常なし。

医者も首を傾げてた。


痛みや苦しみといった自覚症状も無かったので、誤診かとも思ったが、俺自身が最初の検査でポリープを見てるし、奇跡って有るんだな~、なんて思ったよ。


★★★★★


真由が神社で俺の回復祈願をしてくれたというので、散歩がてら家族で御礼参りに行くことにした。

神社は少し高い所にあり、2歳の息子を抱っこして階段を上る。

上り終えてあまり疲れてないのに気付き、俺ってこんなに体力あったかな~なんて思って神社を見る。


何回も見てるのに今日は何か感じかたが違う。

神聖な空気というか、身が引き締まるような感覚に驚く。

そうして神社を見ていると、境内を掃除していた神主の青江さんがこちらに気付き声をかけてきた。


「こんにちは。退院されたんですね。体調は如何ですか?」

俺は青江さんを見て、また驚く。

この人、こんな感じの人だったかな?

なにかオーラというか、凄みを感じる。

そんな事を思いながら、妻から話を聴いていたので、

「大丈夫です。青江さんが祈ってくれたおかげで元気になりました。」

俺は少し冗談めかして答える。 

そこから、あった事を話、青江さんは驚きながらも「良かったですね。」と言ってくれた。


なにかその言葉が胸に残り、あながち神社のおかげで治ったってのも間違ってないのかも?

なんて、取り留めのない事も思ってしまった。


そろそろマイホームも考えるか?、なんて話も妻としてるけど、建てるならこの神社の近くにしよう。


そう自然と思えた。



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