第43話

      四十三


      夫


 滞りなくネックレスを受け取って、店のすぐ前に横付けしていた車に素早く乗り込む。彼女は少しでも喜んでくれるだろうか。優しい沙月は必ず歓声を上げてくれるだろうから、その奥に隠された沙月の感情をしっかりと読み取らなければいけない。

 走り出そうとしてエンジンをかけようとしたその瞬間、携帯電話に着信があった。部下からだ。

 得意先の一つに注文と違う製品が届き、謝罪と事後対応をしなければならないらしい。私の新人時代から付き合いのある相手なので、私も行かなければならないだろう。私は改めてエンジンを入れるため、キーをひねった。



      妻


 切符売り場の前で路線図を見る。他の県に出るにはこの路線だけでは無理なようだ。どこかで乗り換えて、沙月でも知っているようなもう少し大きな駅に出なければならない。

 この路線には今まで一度も乗ったことがなかった。電車に乗っている間も、沙月の表情は硬いままだった。

 まだ太陽が傾き始めたくらいの時間帯なので、車内はさほど混んではいない。こんなところまですぐには追っては来れないだろうとは思うが、駅に停まるたびにビクッと外を窺ってしまう。

 ちょうど乗り始めてから五駅目のときだった。しばらく経っても扉が閉まらず、なかなか発車しない。それまではほとんど注意を払ってこなかった車内アナウンスに耳を傾けてみると、数駅先でポイント故障が起きて、全車運転を見合わせているらしい。

どうしよう、この駅はどの路線に乗り換えることもできない。ホームに降りて、駅周辺の地図を見ても、他の路線の駅も近くになかった。駅員を捉まえて、どれくらいで運転を再開するか訊ねても、こればっかりは場合によるのでわからないということだった。

 つくづく不運な人間だ、沙月の気持ちはさらに沈んでいった。もう地上に出るのも嫌だ。

 少なくとも、動いている電車が通っている駅までは歩かなければならない。もったいないので本当は避けたいが、タクシーを捕まえようか。そのようなことを思いながら、沙月はきつい傾斜の階段を上っていった。



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