第25話
二十五
夫
私はやはり、思い出の中の沙月を追いすぎているのかもしれない。今の沙月を何も理解していない。一週間程経って、私はその思いを強くした。
そもそも私は昔の沙月も理解できていたのだろうか。確かに三年間、私達は友人としては濃密な時間を過ごした。しかし、今思い返してみても、私自身も友人達に対して全てをさらけ出していたわけではない。
私はもちろん彼女の外見だけで好きになったわけではない。しかし、私が見て好きになった彼女の性格、しぐさは、私が見たままの彼女だったのだろうか。
まして現在の彼女のことなど、それ以上に理解できているとは言えない。しかし、私が現在の沙月を好きであることもまた、紛れもない事実だった。
妻
ついに恐れていたことが起こった。またあいつらに呼び出されてしまった。勝廣が会社を休みだしてから一週間程が経ったときだった。朝刊を取りに行くと、汚く破り取られた紙の切れ端に、「車に来い」と殴り書きされたメモが一緒に入っていたのだ。
その日は偶然沙月だったが、日によっては勝廣が新聞を取りに行く時もある。今日もしそうなっていたらと思うとぞっとした。
勝廣がいるのに、どのようにして彼らの車に乗り込めるだろう? 沙月は頭を悩ませた。特に最近は誘われて一緒に外出をすることが多い。今日も夕食にレストランを予約している。
なので、いつものように夕食準備のための買い物に行くことも不自然だし、基本的に家事をきちんとこなしているため不足しているものも元々そんなにない。
どうすれば不自然にならずに一人で外出することができるのか、自分にここまで自由な時間がなかったとは思わなかった。
リビングに戻ると、珍しく勝廣がキッチンに立っていた。
「昼は俺が何か作るよ。スープでも作るからパンを焼いて、ベーコンとかと合わせるのでいいかい? 卵は焼く? 茹でる?」
勝廣は、独身時代に二食に一回くらいは自炊をしていたらしく、メジャーなものなら、大体は作ることができる。
「コンソメってどこにあるかな」
勝廣が戸棚を探りながら聞いてくる。
「ああ、ごめん。ちょうど切らしてるかも、買ってくるね」
ここしかない。なんとか不自然にならないくらいの時間で戻ってこれるようにしよう。申し訳ないと繰り返す夫をいなしながら、沙月は軽装のまま、最低限のものだけ持って、家を出た。
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