第11話 めいれい

「唯一殲滅が出来なかった生き残りの小娘」

 低く空気を震わせる鷹盛たかもりの声は、周りにいる者たちの肌を突き刺すように響き渡る。

「殲滅できぬのなら利用しようと思っていたが、それすらうまくいかなかったものを天都香あまつかが手に入れるとはな。ふむ、解き放たれてしまったものは仕方があるまい。問題なのは天都香あまつかの生き残りと共に行動していると言うことだ」

「その通りでございます!」

 鷹盛たかもりの言葉に頷く様に声を上げたのは葛城かつらぎ武之進たけのしん

 何処よりも先に鷹盛のもとに早馬を走らせ、その後、己自身も誰よりも早くこの城に現れ報告した。

「私が手に入れました情報によりますと、二人はともに行動し、目的を持って進んでいるとのことでございます!」

 胸を張り、この情報を手に入れたのはまるで自分の手柄だと言わんばかりに主張してくる武之進たけのしん

 切れ長の鋭い眼光で視線を送った鷹盛たかもりは低い声を響かせた。

天都香あまつかの生き残りの始末をお前にしろと命じたのは何時のことだ」

「そ、それは」

天都香あまつかが倒れたその年に、息子がおらぬとわかり、我は即座に言うたはずぞ、あれを始末しておけと。うぬは真っ先に手を上げ言うたな? 必ずその首を差し出しましょう。と」

「も、申しました」

「このような事態にならぬよう、申し付けたのだが、始末するのに何年かかってる? 我は火種を残さぬよう天都香あまつかの血が一切この世にあることは許さぬと、万が一、子供ができていればそれも殺せ、根絶やしにしろとそう言わなかったか?」

 威圧感のある鷹盛たかもりの声に武之進たけのしんの体は次第に震え始める。

 両手を畳について、額を床につけたまま、ぐっと拳を握りしめて武之進たけのしんは言葉を絞り出した。

「し、しかし! 何分、諸国を放浪して一箇所に留まる事のない男でございます。確実な姿絵があるわけでもございません。見つけるのは至難の……」

「なるほど、うぬには荷が重かったというわけだな」

 武之進たけのしんに鋭い眼光を突きつけて言った鷹盛たかもりの声に、武之進たけのしんはビクリと体をゆらしてその場から動かなくなった。

 静まりかえった部屋の中を一度ぐるりと見渡した鷹盛たかもりは、そこにいる者達に命令を下す。

「誰でも良い、天都香あまつかの息子、蒼雲そううんを捕まえ我に差し出せ! 我がその首をこの手でもぎり取ってやろうぞ。捕まえ我に差し出した者は天都香あまつかの女をすする権利を与えてやろうぞ」

「おぉ!」

「良いか! 誰であろうとかまわぬ、我に蒼雲そううんを差し出せ! やむを得ぬ場合は殺してもかまわぬ。ただし、必ず我のもとに差し出し、我にその首をもぎりとらせよ!」

 静まり返っていた部屋が鷹盛たかもりの言葉とともに大きく揺れて、我先にと集まった者達は皆、鷹盛たかもりの城を後にした。

 鷹盛たかもりが各城主達と話をしている時、誰も気づきはしなかったが、障子の向こうに揺らめく影があった。

 その影は天都香あまつか蒼雲そううんの名前を聞くとビクンと震えて、そっと立ち去り、天守閣の一番上にある場所へと駆け上がっていく。

 天守閣の一番上。

 狭く急勾配で梯子のような階段を登った先は広い板の間。

 畳も敷いていない冷たい空間。

 階段のすぐそばには太い木で作られた格子があり、まるで座敷牢のような部屋だった。

 障子の向こうに居た影は階段を上り、慌てて格子に駆け寄るとハァハァと息を吐きながら格子の向こうの部屋にいる人影に話しかけた。

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