第16話

 空中に浮かぶモニターを俺とその助手は静かに見ていた。これが柏木かしわぎ智也ともやの二度目の人生、『utopos』のサンプル第一号の結果だ。


 本来ならこの事故で清水しみずさんと共に事故へ遭い、智也ともやは植物人間、清水しみずさんは死んでしまう。


 しかし智也ともやはその現実に抗い、自分の身を挺して清水しみずさんを救い出した。まさに自分の理想郷、ユートピアを作れたのだ。


 俺はモニターの傍にあるベッドで未だ寝ている智也ともやに視線を向ける。植物人間だから何も動いてくれない。しかし肉体は動いていなくても魂だけで生きられる証明になった。


 だってこのモニターに映っているのは仮想世界で生きる彼の魂の物語なのだから。


山中やまなか先生、被検体はこの後どうなってしまうのですか?」

「もともと彼の体はあちらの世界で作った仮想体だ。魂に問題はなさそうだから事故に遭ったけど奇跡的に生きていた……と説明されるだろう」

「そうですか。ならあちらの世界で魂の寿命が過ぎるまで過ごせるのですね」

「あぁ。そうだ」


 手元の機械を操作して時を動かす。予想通り四日後には意識が回復したくさんの人たちからお見舞いされていた。その様子を見て安心する。


 おそらくこの実験は世界に衝撃を走らせるだろう。植物人間になれば目を覚ますまで延命するか、見放すしか選択肢がない。


 前者に至っては来るか分からない奇跡にずっと縋るようなもの。しかし『魂』の存在が確認されてから今も医学は劇的に進化し続けている。


 この実験は魂を仮想現実に送り込みそこで生活できるかというもの。過去の記憶として夢を見ることはあったが、そのおかげか本人が求めていた世界が創られた。


 もっとサンプルが多くなれば様々な形で人々の助けになってくれるだろう。


「これは6年越しの俺からのプレゼントだ。そこで末永く幸せに暮らしてくれ」


 それが今の俺が親友としてお前にしてあげられることだから。

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utopos 西影 @Nishikage

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