第5話

部下を殺した糞野郎を谷底へ落としたあと。


旧を強襲した謎の人物———俗に〝魔王〟と呼ばれるソレはフードを外し、振り返る。


そこには、扇状に抉れた大地と仲間たちの亡骸だった。


魔王は静かに仲間たちの亡骸へ手を合わせると、後ろ———旧を落下させた谷を見る。


優に10kmを超えるような深い谷に落としたのだ。まず生きていないだろう。


「いやでもあの顔と頭のねじ外れてるかんじどっかで・・・?」


旧、酷いいわれようである。


魔王が考えている人物、彼がこの場にいたら『何言ってんだよ——ッ』と半泣きで迫り、ただでさええぐり取られている地面がさらに大怪獣と世紀の大災害に襲われたみたいになってしまう。


 まああの人がココに居るはずないしな・・・と寂しさを交えた嘆息をすると、ゆっくりとその場を後にしていった…

             

                ##########


謎の仮面野郎のおかげで地面ごと落下中の旧。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ落ちてるぅぅぅぅぅぅぅぅゥッ!」


 とんでもなくうるさい。


 グシャッ!


 無事(?) に墜落。むしろ良く生きている。文字通り〝一巻〟の終わりになってし

まうところであった。


 そんな強運の旧君は———


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 頭を抱えてのたうち回っていた。そりゃあ痛いに決まっている。それがてめえの与えた痛みだ———とどこかで毒づく声が聞こえた気もしたが。


 そのままのたうち回ること30分。長いが、地球(しかしここが異世界だということ

を旧は認めていないが)ではこんな痛みを得るような激しい運動はしたことがない。


精神的に来る地獄のルーチンワークは味わって心に傷を負うことはあったが。


 バキッ!


「え…?」


 のたうち回った旧の腕が何かの卵を潰していた。慌てて【鑑定】すると———



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【ワイバーンロードの卵】


 目玉焼きが食いたいッ!

 名前のまんまだがワイバーンロードの卵。


《注意!》

 潰す事勿れ。親は本気で殺りに来る。


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『ほんとに何なんだ、目玉焼きが食べたいって…』


 と、余裕の表情で読み進めていく旧。そんな彼の眼は高速で文章を読み進め…当然

ながら《注意!》のところで視線が止まる。信じないかのように内容を反芻し始め、

五回目を反芻し終えたのと、あの通知音が鳴ったのは同時だった。


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《危険の追伸!》

早く逃げやがれぇぇぇぇえぇっつ!あと目玉焼き食べたい。

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『まだ目玉焼きのこと言ってるよ…って…』

 後ろを振り向くとそれは立派なドラゴンさんが♪


 そして勝手に【鑑定】すると、


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【ワイバーンロード】


どこかのバカに卵を割られた恨みによる【憤怒】ならぬ【激おこぷんぷん丸なのだぁ♪】が発動中。攻撃のクールダウンが五割カットになる。

 あとドラゴンじゃなくてワイバーンロードだよ♪


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『って【憤怒】ならぬ【激おこぷんぷん丸なのだぁ♪】て何!?そこは【憤怒】でよくない!?』


 ツッコミ入れるのも忘れずに、いろいろ考え始め—————

 

というか、考えている場合ではない。


『うああああああああああああああああああああああああああああああちょ!?ちょ

っと待てぇ!?なんも悪いことしてないよ!?』

 

あのハイジャックの時のあの感じはどこへやら、大慌てでにげまわっていた。

そう、これが彼の素なのである!

 

そんな修羅場の中にピロリん♪といつもの通知音が流れる


『いや見てる暇ねぇよぉぉぉぉぉ!!』


 なんて突っ込んでいる間にも壮絶な鬼ごっこは続く。


ヴン!と音がして、通知画面が勝手に開く。


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MP・HPが全回復しました。


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『いよっしゃぁっぁぁぁっぁぁッ!』


 今更ながら勝ちが確定した旧君。いきなりピタッと止まった旧に対して容赦無し!

とばかりに突っ込んでくるドラゴン・・・もといワイバーンロードさん。


 だが、それが仇になった。


「【武器錬成】ッツ!」


 以前の大鎌が顕現し、旧の手に収まる。突っ込んでくる敵(といっても悪いのは旧

なのだが)に向かってザッと縦に振りぬくと、当たっていないにも関わらず、衝撃波でワイバーンロードの体が両断される。

一瞬で、全戦闘が終了した。ドンッッと地面に崩れ落ちる巨体。


「ごめんな・・・」


 死んだワイバーンロードの体に手を当て、謝る旧。人の卵を割られた挙句、逆切れ

されて死ぬとは、本当に不憫なものである。旧君には猛省してもらいたい。


 そのまま、食糧確保!とテンションを上げ、スキル【神魔の魔導書】から【空間魔法:インベントリ】を発動させその亡骸を収納し、ひとやすみ・・・と気にもたれかかった。彼のこの後は神の味噌汁みぞしるなのである。

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