超高性能のAED

結騎 了

#365日ショートショート 230

「成人モードです。意識・呼吸を確認してください。袋を破いて、パッドを取り出してください」

 騒然とする交通事故現場。体のどこかを強く打ったのか、倒れた女性に人々が群がっていた。幸いにも外傷は見られないが、意識はおろか呼吸も怪しい。近くのコンビニ店員がAEDを持って駆け付け、今まさに起動された瞬間である。

「パッドを青いシートからはがして、図のように右胸と左わき腹に貼ってください」

 AEDの音声は、淡々と指示を読み上げた。それに従うように、コンビニ店員がてきぱきと操作をする。

 女性の体にパッドが貼られ、「心電図を調べています」の音声が流れたその時、ぱちり、と眼が開いた。

「あれ?」

 ぐるりと剥かれた眼は、まるで何かを探すように。目の前の出来事が信じられず、驚愕するかのように。女性は途端に息を吹き返した。

 よかったよかった…… と、散っていく群衆。電気ショックを行うことなく生還した女性を前に、コンビニ店員はいそいそと後片付けをしていた。

「ねえ」

 勢いよく、その腕が掴まれる。女性は真剣な顔つきでコンビニ店員を睨んでいた。

「今、まこっち…… あ、いや、土屋誠つちやまことの声がしなかった? ほら、声優の。彼ね、私の推しなんだけど。どこにいるの?」

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