第2話

目を覚ますとそこは鬱蒼とした木々が生えている森の中だった。いや、正確に言うと目は最初から覚めていた…というより覚ます目がなかったというべきか。なにはともあれ気が付くと森の中にいた。そんなよくわからない状態であった。


 状況が理解できない。俺は間違いなく死んだはずだ。


 それなのに先ほどまであった体の痛みはない…というより体がない!?いや、正確に言えばあるにはある。だがそれは今まであったような人間のものではなく、体色が薄い水色になり、ゼリー状のブヨブヨというかプルプルというかそんな感じのものになっていた。記憶にある、過去に何度か見たことがあるそれは、一般的にはスライムと呼ばれる魔物のものになっていたのだ。






 状況を理解するのに多少の時間は要したが、俺はおそらく魔物としてではあるが、第二の生を得ることができたということなのだろう。それは僅かにだがうれしいものがある反面、過去の地獄のような日々が記憶に深く根付いてあることには素直に喜ぶことができない。


 それにまさかあのスライムに生まれ変わったというのも喜ばしくない。いっそのことドラゴンにでも生まれ変わることができればライアル王国に飛んでいき、王都を灰燼に帰すことができたかもしれないのだが。残念なことに最弱といわれるスライムでは…棒切れを持った子供ですら撲殺することができるほどだ。倒してもゴブリンなどと違って討伐報酬が出るわけでもないから、積極的に倒そうとする人がいないことが唯一の救いであるというべきか。


 結局俺の人生なんてそんなもんだ。どこまで行っても報われることはないのだ。


 第二の生も早々にあきらめ、ふて寝でもするか。人や魔物に見つかって殺されるかもしれないが別に構うものか。正直あまり生きたいと思うことができないんだ。多分感覚がマヒしているからなのだろうな。死ぬときは多少痛いかもしれないが、今までの拷問に比べたら大分ましなはずだ。






 ところが、待てども暮らせども一向に死にそうにない。スライムになってからも一切の飲食をしていないにもかかわらずだ。そういえば確かスライムのような最下級の魔物は、大気中にある魔力を吸収するだけで問題なく生存することができると何かの本で読んだ気がする。


 何度か人間や魔物と出くわしたこともあったが、こちらを一瞥すると興味なさげにすぐに通り過ぎて行ってしまうのだ。


 人間にとってスライムは動物や魔物の死骸やフンを消化して森の浄化の役に立っている。いわば益虫ならぬ益魔物というべき存在だ。それは森に住む魔物にとっても同じなのかもしれない。加えてスライムなんて可食部もないだろうからな、労力をかけてまで狩る必要は両者共に一切ないのだろう。


 まぁ、そんなわけで悠々自適で自堕落な毎日を送っている。


 ただ何もしていないとき、いや、何もしていないからこそなのか、唐突にあの地獄の日々のことを思い出してしまうことがある。最初のころはただ怖くて必死に忘れ去ろうと努力をした。が、当然そう簡単にはいかない。意識すればするほどより強く記憶に残り続けるといった感じだ。


 そんな日か何日も続き、鬱屈とした気分でいる時にふと思った。なぜ被害者である自分がこんなに苦しまなくてはならないのか、なぜこんなに悩まなくてはならないのか、なぜギャバンのような屑が笑顔で笑っていられるのか。なぜ、なぜ、なぜ、なぜ…そういった疑念はいつしか身を焦がすのではないかと思えるほどの怒りへと変化していった。いや、変化したというよりは、ようやく怒りに変えることができるだけ精神力が回復してきたのかもしれない。


 よし、復讐しよう。そしてこれを第2の生の目標とすることにしよう。


 不思議なことに、復讐のことを考えているときは地獄の日々のことを思い出すことが一切なかった。むしろどのように復讐しようかとか、どうやって復讐しようかとかそういったことを考えていると心が躍ったのだ。


 やはり人生?には目標が必要なのだろう。


 俺は自堕落な生活に別れを告げ、たとえ過酷な道になろうとも復讐に生きることを決めた。


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