第5話 高校一年生 女子

 私が学校に行くと、机の中に見知らぬノートが入っていた。黄色いノートで、交換日記と書いてある。ほれぼれするほど、きれいな字だ。


 私は学校に友達が一人もいない。誰が出したかわからないノートに返事をすると、後で回覧されて笑いものにされるかもしれない。どうすべきか悩む。中を開けてみると、ちゃんと差出人の名前が書いてあった。


『真山優希だよ。びっくりしたと思うけど、前から一川さんのことが気になっていたから、交換日記をしてもらえない?』


 真山さんは美人でずっと、憧れの人だった。うちは女子校だから、ゆうきという名前でも女の子で、モデルにスカウトされたことがあるというほどの美女。成績もよくて、地味で馬鹿な私とは対極にいる人だ。悪戯かもしれないということは忘れて返事を書く。


『真山さん、私でよかったらよろしくね』


 私は真山さんの机にノートを入れた。

 どんな返事が来るんだろう。

 もしかして、普段から親友みたいに仲良くしてくれるかな。真山さんからの返事はすぐあった。


『すぐにお返事ありがとう。一川さんは、趣味は何?』

『読書とショッピング。真山さんは?』

『私の趣味は映画を見ること』


 こうして、私たちのやり取りは3ヶ月続いた。私は、真山さんと話してみたくて、机に一人でいる時に、直接声を掛けてみた。


「真山さん、宿題やった?」

「え?ま、まあ」

 真山さんは、いきなり話しかけられてびっくりしていた。

「今回、ちょっと多かったよね」

「え、まあ、、」


 真山さんは嫌そうだった。途中で別の人が話しかけて来た。私は居づらくなって、その場から離れた。


「何あれ、気持ち悪る」


 真山さんの声が聞こえて来た。

 真山さんと私は、ずっと交換日記してなかったっけ。私はショックを受けていた。


 私は机に戻って交換日記を開いた。その一番最初には、こう書いてあった。


『真山さん、私は一川愛菜だよ。前から真山さんのことがずっと気になっていたから、交換日記をしてもらえませんか?』と書いてあった。


あれ?

私が出したの?

うそ!

恥ずかしい。


その後は何も書かれていなかった。

そのノート自体が悪戯なのかもしれない。

私はそのノートを家に持って帰って、破って捨てた。


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