黄昏の双狗〜巡り廻って朱と交じる〜

mill

 明星を照らす







 一番星が輝く頃。

 夕焼けの朱と夜の紫の濃い色が和装に身を包んだ男を、世界を包み込むんでいく。







 ––––今日は随分陽が赤いと思ったが、

 先ほど夕立が降ったせいか 



 そう思いながらその空と同じ色の瞳。

 黄色の髪に少し白髪が入っている。

 そして顎ひげをたくわえた男が縁側で読んでいた本を開いたまま膝に置き、

 

 ふぅ


 と、一息ついて読書を一度中断する。



 そして夕焼けを見つめた。

 その男が住んでいる瓦造りの家も男の黄色い髪も髭も全て同じ朱に染め上げている。


 それを眩しそうにあるいは昔を思い出すかのように目を細める。







 そしてまた途中で止めてしまった本を読み進める。


 と言っても、その男はページをめくるだけで、先程のように頭には入っていない。


 ずっと昔、男がまだ青年の時のことを思い出していた。

 男は自分と同じ髪の毛同じ瞳同じ体格である双子…今は亡き兄をこの空を見てしまい、


 ––––あの頃は…

 と、故人を、そして昔を懐かしんでしまったからだ。



 そのように思い出してしまいとうとう集中力も切れ、本を閉じてそれを隣に置く。

 そして傍らに置いていたお茶を啜る。








 視界に入った唐紅の木々。


 その中でも目立つ薔薇の茎のような棘。

 彼岸花のようにも薔薇のようにも見える形をした花弁。

 しかし、色は付いておらず、まるでそこだけガラスで作った様。

 そこ以外は全体が真っ赤な変わった花。






 真正面にあるそれは

 同じ色の三本のツノ、

 同様の色のコウモリ型の翼を持つ兄、アナスタシアをまた連想させた。


 兄の趣味だった土いじりで手入れしていた花々が年月が経っている。

 多少違いはあれど息の長い草木の方はほぼ変わらず庭を彩ってくれていた。


 更に今時の陽の光で影と緋のコントラストを築き上げている。



 自分は兄のようにうまく手入れしてやれないが…

 形見だから。

 と、不器用なりに男は日々花々と格闘していた。男もまた魔法は扱えるが、


 ––––兄も手を込んでたし…

 私も頑張らなくては


 泥まみれになりながら、奮闘した甲斐あって兄のものをちゃんと維持できている。



 花や実がなった時など、達成感があった。


 なんとなく

 兄が入れ込んでいた気持ちが分からなくもないなぁ…

 と、思いつつ眺めていた。







 ––––もうかれこれ500年前か

 忙しかったせいか、長いようで短かったな



 

 彼の名はエリザベート・ヴォルフガング––––イザベラとも呼ばれていた男が物思いに耽っていた。


 ––––私の目標も無事達成しましたよ、兄さん…

 

 あなたのおかげで私はここまで来れました







 彼、ヴォルフガングは医者としての功績があった。

 この世界には魔法という概念があった。

 人間は魔法を使えず、魔石という。

 見た目が宝石のような美しいもの–––を媒介にしなければならなかった。


 魔石は魔物から採取することはできた。

 しかし、回復の魔石は無いと言われるくらいのものだった。



 だからこそ医学もまた魔術と共に進歩していった。

 エリザベートはその魔法特有のある病を治療するという偉業を成し遂げたのだった。

 そしてそれ以外にも医療に携わるものとして色々と開発、支援したという功績もあった。



 彼が残した功績は人が魔法が使えないために生まれた病気であった。

 そのさまざまな病気を治せるように治療方法を考えたのがエリザベートだった。


 

 …どちらにせよ

 兄さんがいなければ、

 今自分はここまでの偉業を達成できなかった


 と、エリザベートは日々陽が落ちるのを見るたび思っていた。





 そしてさらにエリザベートは、


 ––––人も魔法が自由に使えたらまた違ったかもしれんな


 獣人や魔物などは、四元素(火水風土)を基礎に様々な魔法を使うことができた。

 それを人のみ使えなかった。


 ––––神の加護ががどうだの魔の力は邪だの言う輩もいたな…



 もしかしたら、ここで兄さんと茶でも飲んでいるかもしれなかったのか


 と、思った。



 ついもし、を想像してしまう。

 ––––これも年月を重ねたせいか


 と、エリザベートは思いながらまたお茶を含ませ兄以外の、今は亡き患者たちの顔も思い浮かんだ。


 そしてちょうどこの夕闇のような瞳の双子の兄をまた憶う。あの時伝えられた、言葉、



『俺が作った道、

 お前が見届けてくれ


 かわりにお前が目指した所をしっかり見ていてやろう』



 己の兄が、

 今のこの空と同じ色をしたあの目が、

 また今日も自分を見つめている。




 その目はお前はまだ生きていろ

 まだやることはあるだろ、歩け

 と言っている気がした。


 それは生き甲斐を見出してくれ、ある意味呪いのようにも感じた。

 だからいま一度今度は声を出して、エリザベートはその瞳に向かって、

 あるいは目の前にある真っ赤な変わった花に語りかけるように、



「私は目的を果たせました

 ずっと見守っていたんですよね…?

 ありがとうございます


 私はもう少し生きていくつもりです



 私はもう少し歩くので

 その道中でまた会えるといいですね」



 そう言って、また彼の瞳を眩しそうに見つめながら冷め切った湯呑みを掲げて残りを飲み干した。








✴︎✴︎✴︎



 ご拝読くださり、ありがとうございます。

 こちら一話完結型で、物書きは初心者なため試行錯誤して書いております。

 そのため、幾分か不自由あるかと思いますが、最後まで完結させたいのでよかったお付き合いください。

 


 本当にありがとうございます。

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