8と5


 こちらは、桜愛乃際さくらのあ様の「どうせみんな死ぬ。」の二次創作となるコラボ作品です。




 七五三とは、7歳と5歳と3歳に成長した子どもを祝う日本の行事である。


 一般的には11月15日に行われることが多いが、厳密な縛りはなく地域差もある。


 かつては、子は七つまでは神のうちとされており、神の世界との境……すなわち、死亡率が高かったことが示唆されている。


 なお、これらは本編とは一切関係ない。



 ………………………………



「おねぇちゃーん、どこにいったのよぉーー」


 ここは不思議な森。誰も知らない森の中で、女の子の呼ぶ声がします。


 この子の名前はマナ・クレイア。白い髪に赤い瞳をした、ちっこくて可愛らしい8歳の女の子です。


 マナ・クレイアちゃんは、お姉ちゃんを探しているみたいです。でも、ここは誰も知らない森なので、当然のようにお姉ちゃんは見つかりません。


 えっ、じゃあ、なんでマナ・クレイアちゃんはいるのかって? さあ、なんででしょう。マナ・クレイアちゃんに聞いても分かりそうにありません。おっと、そろそろ名前が言いづらいですね。少し短くして、まなちゃにしましょう。


 まなちゃは森を歩きます。どんどん、ずんずん、もう随分と奥まで入っていきました。やはり心細くなったのか、ちょっと前から涙目です。


 それでも、まなちゃの足は止まりません。止めてはならないと知っていたからです。まなちゃはここに来る前は、ある場所に監禁されていました。


 その国には、一生に一度だけ、どんな願いも叶えられる『願いの魔法』が存在しました。


 それは8歳になると効果を表すもので、ほとんどは魔法を覚えることに費やされるため、漠然と魔法のためにある力だと思われてきました。


 しかし、まなちゃは8歳になるのに魔法が使えません。では、『願いの魔法』は何に使われるのでしょうか。


「おねぇちゃ~ん……え~ん、どこなのぉ~」


 そのときです、前方から女の子の声がしました。もしや、お姉ちゃんなのでしょうか。まなちゃは急いで駆け寄ります。


 やがて、樹の向こうに女の子の姿が見えました。しかし、それはお姉ちゃんではなく、まなちゃよりも幼そうな女の子でした。


「あなた、だれ……」

「お姉ちゃんっ!?」


 まなちゃが尋ねようとすると、突然女の子が飛び込んできました。ちっこいまなちゃでは支えきれず、二人して地面に転がってしまいます。


「いたたたた……」


 やがて、きゃっきゃうふふの土まみれになりながら、まなちゃが立ち上がります。女の子の方はまだ尻もちを付いたままです。


「まったく、急に抱きついてこないでよ。もしかして、あなた迷子なの?」


 まなちゃは自分も迷子なのを棚に上げて、女の子に手を差し出します。女の子は少し迷ったようにした末、その手を取って立ち上がりました。


「……うん、お姉ちゃんを探してるの」

「そう、私と一緒ね」


 どうやら女の子もお姉ちゃんを探しているようです。これも何かの縁、二人してお姉ちゃんを探すことにしました。


「私はマナ・クレ……うぅん、マナよ。あなたは?」

「じぇ、ジェイド……」


 どうやら、女の子はジェイドちゃんと言うそうです。金色の髪に翡翠の瞳の可愛らしい女の子です。見た目もまなちゃより幼くて、だいたい5歳くらいではないかと思われました。


 先ほどまでは一人で心細かったまなちゃですが、自分よりも小さい女の子の手前、そんな弱音は言ってられません。むしろ、自分がお姉ちゃんになった気持ちで森を歩いています。


 ジェイドちゃんも、最初はおずおずとまなちゃの後ろを着いていきましたが、今では二人して手を握っています。何だか本当の姉妹みたいで微笑ましいですね。


「あなたのお姉ちゃんってどんな人?」


 まなちゃがジェイドちゃんに尋ねます。ジェイドちゃんは少し首を傾げた末に、ぽつりぽつりと喋りました。


「とても優しいの。強くて、大きくて、いつも私を守ってくれたの。でも……いなくなっちゃった」


 そして、ジェイドちゃんは泣いてしまいました。かさず、まなちゃが頭をなでてなだめます。


「大丈夫、きっと見つかるわよ。まゆみもいなくなってはふらっと現れたものよ」


 まゆみちゃんとは、まなちゃのお姉ちゃんです。辛いときも苦しいときも一緒に過ごした大切な人です。


 お姉ちゃんを探して、二人の女の子が歩いています。それはとても小さくて、しかし確かな歩みでもありました。


 やがて、目の前に森の外れが視えてきます。相変わらず、お姉ちゃんは見つかりませんが、二人にも少しだけ笑顔が見られました。


「こんなところにいらしたのですね」


 そのとき、頭上から声がしました。二人が見上げると、そこには漆黒のマントを翻した七三メガネの男がいました。


「う、梅干し……」


 途端にまなちゃの顔がこわばります。心なしか震えているようで、ジェイドちゃんも心配そうな表情で見つめています。


「先日の非礼をどうかお許しください。さあ、お迎えに上がりました。魔王様がお待ちかねです」


 そう言って、七三メガネが近付いてきます。まなちゃはもう涙目、今にも叫びだしそうなくらい動揺しているのが見て取れます。


 でも、いまのまなちゃはお姉ちゃんなのです。だから、ぐっと歯を食いしばって、ジェイドちゃんに向かって笑い掛けました。


「私は大丈夫だから……あなたはここから逃げて」


 まなちゃは両手を広げて、七三メガネからジェイドちゃんを庇おうとしました。しかし、七三メガネが険しい顔付きで見つめます。


「……ティナたちのこともあります。不安要素は排除させていただきますよ」


 七三メガネが中空に手を翳すと、黒い球体のようなものが浮かび上がりました。それはまるで周囲の光を吸い込んでいるかのようです。


「なに、死にはしません。子どもが相手ですので、しばらく気を失う程度で済みますよ」


 そして、その球体をジェイドちゃんに向けて放りました。まなちゃが思わず叫びますが、とても間に合いません。やがて、球体はジェイドちゃんに向かっていき……そして、当たる前に消えてしまいました。


「えっ……?」


 七三メガネが間抜けな声を出します。それもそのはず、ジェイドちゃんに一切の魔法の気配はありませんでした。まだ8歳前の子どもだから当然です。


 しかし、確かに魔法は消えました。まるで強力な障壁に守られているかのように、魔法が届くことはなかったのです。


一片冰心クリア・ランス


 そして、ジェイドちゃんが一言だけ呟くと、その小さな手の平から無数の鋭利な槍が現れ、七三メガネを串刺しにしてしまいました。


「む、無詠唱……しかも、魔力の溜めもなしにこれほどの魔法が? まさか、噂の王国のひ……」


 憐れ空の彼方へと逃げていく七三メガネに、なおもジェイドちゃんが手を伸ばしますが、慌ててまなちゃが制しました。


「もういいわよ。あんたってむちゃくちゃね……でも、ありがと」


 どうやら、まなちゃも少しだけスカッとした様子です。相手が七三メガネなら仕方ありませんね。


 そして、二人は森の出口へと向かっていきます。未だお姉ちゃんは見つからず、それでも元気よく駆け出していきました。


 ここは不思議な森。誰も知らない森。だから、どうせみんないなくなる。


 それは、決して交わらぬはずの奇跡。願いの魔法も幻の第六属性も及ばぬ神秘。


 人の夢のように儚く消えてしまうもの。記憶にも記録にも遺らぬもの。


 それでも、確かな出会いがあったことをここに祝して――




 幕

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