襲撃者達その2

 ジリジリと距離を詰めていくアゾット。

 その構え方は素人同然で、足は平行、カタールを持つ手は胸の前に交差させ左足を前に、右足を引き込みまた左足を前へ。

 軽く下段蹴りを食らえばくるっとその場で横にひと回転して転倒してしまいそうな、無防備にも見える構えに襲撃者の隊長格の男が侮蔑するような目で口元を不愉快そうに歪めやがった。

 というか、アゾットって生人形リビングドールって言っても本当に戦えるのか?

 どう見てもその構えじゃ戦えるように見えねぇんだが・・・。


「さて、どう料理してくれようかのう?」


「フン、人形が。大旦那様に逆らった時に我らに竹刀で滅多打ちにされてなお懲りぬと見える」


「あっはっはっはっは! そのお陰で妾の本体たるソウルが顔からぽーんと転げ出てしまったんじゃったな! その節は世話になったのう・・・?」


「そのまま逃げればいいものを。わざわざ捨て置いた人形に戻りのこのこと姿を現すとは、間抜けとは貴様のような奴の事を言うのだろうよう」


「阿呆が。今の妾は魔封の縛鎖に囚われておらぬのだぞ」


 美人が怒ると鬼より怖いっていうが、アゾットさん~、目を吊り上げてにんまりと笑ってるのは滅茶苦茶恐ろしいですぜ!

 隊長格の男は、それでも剣術に自信があるのか全く怯んでいねえ。

 いや、はたから見てるとハラハラするなあ。アゾットさん本当に大丈夫なのか?

 と、電光石火のごとく体勢を前に傾けて、ほんの一歩で距離を詰めた!


「アッハハハハハハハハハハハハハ!!」


 胸の前で交差させていた両腕が、まさしく操り人形のごとく無動さで次々に突き出される。

 あれじゃあ挙動が全く読めねえな・・・。しかも軌道がほとんど読み取れねえほど速ぇ、俺だったら絶対捌けねえ自信があるぜ!

 隊長格の男も最初の数激は捌いたが捌き切れなかったのか後退りながら受けてやがる。

 後退りながらでもぎりぎり捌いてる辺り、うーん、俺よりちょっとばかし強かったかな?

 いいや、あいつに出来るんだから俺にだって捌けるはずだ。

 やりたくないけど。

 始めは見守っていた三人が隊長の劣勢に加勢しようと駆け寄るが、


「フフフハハ! アハハハハハハハハ!」


 満面の笑みを浮かべて全ての剣筋が見えてるんだろうクルクルと身体を舞わせて、人間じゃあ到底真似の出来ねえ腕の振り方で全ての刀を打ち払いながら隊長を追い詰めていた。

 ああ、まあ、絶対勝てる流れだけど、これはちょいとまずいか?


「なんぞ偉そうなことを言うておったが、知れたものよなあ! これで終いじゃあ!!」


 アゾットの右手が隊長の刀を大きく外に弾き、左手が真っ直ぐに伸びて喉元を狙って、


「殺めちゃあいけねえ!」


 俺は咄嗟に声を上げた。

 ビクッと瞬時に身体を縮こまらせて大きく後方に飛びのくアゾット様。


「なんじゃ、なぜ止めたお前様!」


「い、いや、町中で刃傷沙汰はご法度なんですって!」


「知ったことか先に仕掛けてきたのはこ奴らじゃろうが!」


 いやしかし、殺しちまっちゃあ流石に俺らもお裁き受けなきゃあならねえし。よそ者のアゾットさんにゃあちょいと分が悪い。止めて正解だと俺は思いたい。

 そうこうしてるうちに、相手は集まって正面からアゾットさんを睨み据えてきたが、俺も参戦すりゃああの程度なら追い返せるかもな。

 刀を八相に構えてじりと前に出る。

 じりと後退る四人。


『お役人さん、喧嘩です! こっちこっちです!!』


 不意に竹林の向こうから若い男の声が上がった。

 これ幸いと背を向ける四人。


「チッ、厄介な。引くぞ!」

「「「応っ!」」」


 相手の引き際はよかった。

 俺もアゾットさんも、人を斬らなくてよかった。

 うん、よかったよかった。

 声のした方を振り向くと、


「あれ、お前さんは?」


「危ないところでしたね、先輩!」


 この間、冒険者になるって宿にやってきた、雪影小太郎が身なりの良い二刀差しの袴姿で笑顔でこっちに速歩でやって来てた。




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