ペンを折る

一ノ瀬 夜月

第1話

私は、小さい頃からアニメが好きで、色々なジャンルのアニメを見ていた。その中でも、特に魔法や異世界転生などが題材にされている物に興味があった。現実世界では、絶対にあり得ない非日常に心が躍った。そして、アニメには原作となるマンガや小説がある事を知った。

試しに一冊、ライトノベルを買って、読んでみると、とても面白かった。作り込まれた緻密な設定。文字だけでも伝わってくるキャラクターの感情。時々挟まっている綺麗な挿絵など、沢山の魅力が詰まっていた。


それから、私はお小遣いをもらうたび古本屋に行って、ライトノベルやマンガを買い占めたり、学校の図書室で、小説をたくさん借りる事を繰り返していた。

でも、たくさんの本を読んでいるうちに、自分でも小説を書いてみたいという気持ちが膨らんでいった。


ある日、試しに小説を書いてみようと思い立った。スマホのメモ機能を使って、自分の思うがままに書いてみた。

しかし、ここで問題が発生する。設定をおおまかにしか考えていなかったため、キャラクターの名前や言葉遣い、一人一人の性格の違いが書けないのだ。

どうしようかと思い悩んで、キャラクターの名前は、ネットで名前の由来を調べて、ピンと来るものを採用する事にした。

そして、言葉遣いや性格などは、自分がそのキャラに感情移入して、「この時はこう言うはず」とイメージしながら書いてみた。


そうして、記念すべき第一話が完成した。早速、小説投稿サイトに掲載してみた。

しかし、何日、何週間経っても誰も読んでくれない。私は、かなりのショックを受けた。なんで誰も読んでくれないのだろう?と疑問に思って、原因を調べてみた。

そうすると、今、異世界×恋愛ものが流行っていて、特にタイトルに「悪役令嬢」や「婚約破棄」などを入れると読者が読んでくれ易くなるという事を知った。そうと分かれば、早速、異世界恋愛ものを書いてみよう。

まず、タイトルに婚約破棄を入れて、悪役令嬢が王太子に婚約破棄されたテンプレ展開の話を書いた。


その後、投稿してみると、二人の人が読んでくれた。私は、とても嬉しくて、早速、次の話を書いて投稿した。

しかし、何日経っても誰も読んでくれない。なんで、何が悪いの?と困惑したが、理由はなんとなく分かった。

おそらく、読者はタイトルに釣られて読んでみたが、話があまり面白くなくて、飽きてしまったのだと思う。


つまり、私には、人を惹きつける、面白い小説を書く才能が無いのだ。

その事を理解した瞬間、悔しくさと悲しさが込み上げてきて、ポツリと一雫の涙がスマホに垂れた。涙はどんどん出てきて、思考がまとまらず、頭の中がぐちゃぐちゃになった。


しばらく泣き続けたあと、ふと一つの考えが頭に浮かんだ。

そんなに辛いなら、小説書くのをやめちゃえばいいんじゃないか?という自問自答だ。

それに対して、答えを返す。でも、数人とは言え、小説を読んでくれる人がいた。一度でも私の書いた作品に興味を持ってくれた。だから私は、小説を書き続ける。

じゃあ、私は誰のために小説を書いているの?読者のため?自分が書きたいから?とまた自問自答をする。

今度は、答えに詰まってしまう。かなりの時間が経った後、私は答えを導き出した。

自分のため、興味本位で書き始めたと思う。


それなら、自分が辛い思いをしてまで書く必要はない。だから私は、小説を書くのをやめた、アイドルがステージにマイクを置くように、私も、ペンを折ったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ペンを折る 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説